星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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102 ギガンテック

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 蒼い雷光が良く茂った梅の木の枝のごとく四方八方へとのびては、さらに枝葉を生やし、次々と進路上にいた者を貫いてゆく。
 たまさか仲間の身が盾となり直撃をかわした者も、次の瞬間にはイナヅマの餌食となっていた。

 進化した個体、ナムクラーゲン改めダイナムクラーゲンより放電されたプラズマ。
 プラズマは固体、液体、気体のいずれとも異なる特有の性質を持つため、たやすくカラダを感電させては貫通してしまう。
 そのせいで密集体形にあったハチノヘの集団は、数珠繋ぎに餌食となってしまった。
 ばかりか、プラズマはそれらを足場として光の穂先をさらにのばし、離れたところにいたナシノ女史や枝垂にも襲いかかる。
 まばたきひとつにも満たない刹那のことだ。
 いかにナシノ女史とて魔法で防ぐことかなわず、枝垂も金の腕輪のシールドを発動する暇もなく、わずかに身じろぎすることも出来なかった。

 ビリビリビリ!

 視界が激しくチカチカと明滅しては、お星さまがキラキラ。たちまち逆立つ髪の毛、身につけた衣類が静電気を帯び、電気ショックが体内を駆け巡っては、全身がピリリ、パチリという不快感に見舞われる。

「ぐっ」
「ぎゃっ!」

 ナシノ女史は立ち眩みを起こして片膝をつき、枝垂はたまらず尻もちをついた。
 枝垂は虚弱体質の星クズの勇者である。こんな攻撃をまともに喰らっては、それこそショックで心臓が止まりかねない。
 はずなのだけれども……

「あれ、生きてる。……っていうか、派手なだけでちっとも痛くない」

 たしかにプラズマが当たった直後には、バチッときてびくりとなったけれども、肉体的ダメージは極めて軽微である。ぶっちゃけ祖父が持っていた肩こり用の低周波治療器の方が、百倍キツイ。
 枝垂でこれなのだから、こっちの世界の頑丈な住人たちならば、なおさら効いていないはず。
 だというのに、ハチノヘたちはバタバタ地に落ち、ナシノ女史も立ち上がれないのは、これがただのプラズマなんぞではなかったから。

「ふわぁ、あぁ、なんだかもういいかな。ここのところ働き過ぎだったし。いい加減、年寄りには楽をさせてもらいたいもんだよ」

 ぶつぶつ言いながらナシノ女史は、その場でごろんと横になっては、腕枕にて目を閉じてしまった。プラズマを喰らったハチノヘたちも、落ちたままでもぞもぞとするばかりで、立ち上がる者は皆無であった。

 ダラケ毒に感染!

 恐るべきことにあのプラズマに触れたら、毒にやられたのと同じ症状に陥るらしい。
 海のダメ亭主がさらにパワーアップ。
 光速で飛来しては、軽くタッチしただけで対象を無力化とか、ダイナムクラーゲンはとんでもなく性質の悪い能力を宿してしまった。
 そのことに枝垂は気がつくも時すでに遅し。自身もすでに喰らっており、着実にやる気メーターが目減りしていくのを感じる。

「ま、まずい。このままだと全滅だよ。いったいどうしたら……」

 まるで手水から水が零れるかのごとく手足からチカラが抜けていく。つい欠伸をしては、重たくなる瞼をそのまま閉じたくなる。このままごろりと横になりたい。
 そんな誘惑に抗いながらも打開策を模索する枝垂の目に入ったのは、死屍累々の戦場にて、いまだ健在であったふたつの影――

 飛梅さんとフセであった。

 どちらも木製ゆえにダラケ毒の影響を受けていないようだ。
 ならばあとは飛梅さんに任せるのが手堅いところだが、相手は進化した海の禍獣である。いかに元の等級が低いからとて油断はならない。どんなやっかいな能力を隠し持っていることやら。
 そこでより万全を期すために、枝垂は決断を下した。

「出ろ、梅壺」

 亜空間収納「梅蔵」より壺を取り出す。
 ただし壺の中身は梅干しではない。入っていたのは黄金色の珠である。
 厳重に封印を施して保管してあった、天狼オウランの輝石だ。
 もとはバスケットボールほどの大きさであったが、赤べこフセの誕生のときの素材になったせいで、いまではハンドボールぐらいになっている。
 そいつを取り出し、飛梅さんに託す。

「これで、フ……セ……を……」

 限界を迎えた枝垂はがくりと力尽き、そのまま地面に倒れ伏す。
 枝垂の意を汲んで、飛梅さんはオウランの輝石をフセの胸元のくぼみに装着する。
 とたんに赤べこのまん丸黒目がキランと光り、その身がみるみる大きくなっていく。
 かつてコウケイ国の王城内の食料を片っ端から平らげては、震撼させた怪獣赤べこがここに甦る。
 ただし、以前とはちがって制御下におかれているから、暴走する心配はない。

 では、どうしてこのような芸をフセが身につけているのかというと、それはたまさかフセの散歩中に、枝垂が「投げた棒とか拾ってくるイヌって、なんだかいいよね。よし、フセでもやってみよう」と思い立ったから。
 だが、いざやろうとしたら手頃な棒がなかった。そこで思い出したのがあの珠であった。ボール代わりにちょうどいい。
 というわけで「えいっ」

「ほーれ、ほれ、ちゃんと取ってくるんだぞう」

 投げた珠を「ハフハフ」追いかけていくフセ。ご主人さまの言う通りにくわえて戻ってきたら、でっかくなっていた。
 それを目の当たりにして、編み出されたのが珠とフセの合体技である「ギガンテック赤べこ」であった。

 大きくなった赤べこ、慌てて逃げようとするダイナムクラーゲンを頭からパクリ!


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