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101 進化スパーク
しおりを挟むナムクラーゲンの毒霧攻撃!
ただの煙幕じゃないと気がつき、ナシノ女史は急ぎ風魔法にて煙を払うも間に合わず。
すでに毒にやられた仲間たちが、そこかしこにてクマのヌイグルミのごときポーズとなり、へたり込んではぼんやりしていた。
「あー、息をするのもダルい」
「横になりたい。けど、動くのがめんどい」
「どうせ死ぬんだから、無理して生きなくてよくね?」
「すべてがどうでもいい」
「誰だよ? 生きてるだけで丸儲けって言ったの。損ばかりだよ」
「どっかに金を持ってて、胸が大きくて、俺を甘やかしてくれる未亡人はいないかなぁ」
「ZZZZZZ……すぴぃ~」
目は虚ろにて、まるで死んだ魚のようであり、口から吐き出されるのは後ろ向きな言葉ばかり。その声にも張りはなく、全身が弛緩しており、みなやる気をごっそり奪われてしまっている。
死屍累々であった。
いいや、嘆き節があるだけ、ハチノヘたちが毒にやられたときよりも負のダメージが大きい。
「ぐっ、お、おのえぇ。これしきのことで私は、私はっ!」
唯一吠えては、懸命にダラケ毒に抗っているジャニスだが、言葉とは裏腹に態度がともなっていなかった。ふらふら彷徨う切っ先、地べたに転がっては手にした剣をぶらぶらさせているばかり。気持ちにカラダがついていかないらしい。
いつもキリリとしており、頼りになる黒ヒョウ姉さんのだらしない姿に、枝垂は少なからず衝撃を受けた。
なんていうか、こう、近所でも評判の美人のお姉さんのダメな私生活の部分を、たまさか垣間見てしまった時に、思春期の男子が抱いていた淡い幻想が木っ端みじんに砕けて現実を突きつけられたときのような……
動揺のせいで枝垂はすぐに動けず。
一方でナシノ女史はさすがである。歳の功にて、すぐさま頭を切り替えては指示を出す。
「飛梅、フセ、頼む! ハチノヘたちも」
これに呼応して木偶人形と赤べこが飛び出し、続いて第二陣として控えていたハチノヘたちが一斉にナムクラーゲンへと襲いかかった。
いつもであれば八本の足を暴れさせては、攻撃をしのぎつつ、逆にダラケ毒にかけて敵勢を無力化しようとするのだが、肝心の毒の出がおもわしくない。先に盛大に毒霧を吐いたもので、体内の毒の備蓄量がかなり減っており、生産が追いつかない。
しかもこの時、ナムクラーゲンはすでに足を三本失っていた。ジャニスたちの仕業だ。
なまじ大きく育ったもので、巨体をしっかり支えるには最低でも三本足が必要となる。
ゆえに迎撃に使える足は二本のみとなっていた。
だというのに、そのうちの一本にはフセが噛みつき、端からモグモグモグ。
実質一本にて迫るハチノヘの大群と対することになる。
ナムクラーゲンは適当な倒木を拾っては、これを振り回し牽制するも、怯むハチノヘたちではない。
そうしてナムクラーゲンの注意が完全によそに向いたところで、懐に潜りこんだのは飛梅さんである。
イーヤル国での対赤霧戦以降、こつこつ集めて、つい最近になってようやくフルコンプリートした『飛梅専用装備通常版フルアーマー一式』を身にまとった飛梅さんが疾風迅雷と化し、渾身の左フックをナムクラーゲンの側頭部にめり込ませた。
ズドンっ!
腹の底に響く重たい音。
貫き粉砕するというよりも、打ち抜くかのごとき一撃。
打撃が決まった瞬間に駆け抜けた衝撃、ナムクラーゲンの半透明な軟体が波打ち、たわんで、大きくしなる。
たまらず逃げようとするナムクラーゲンであったが、ほんのわずかに身じろいだところで、すかさず飛んできたのは第二撃である。
今度は右のフックであった。深く踏み込んでは、存分に腰の回転がのった拳。
身の内に抉り込むようにして打たれた拳を受けて、ふたたび軟体がぷるぷる激しく震えてナムクラーゲンは「ぎぃいやぁぁぁぁあぁぁぁ」と悲鳴をあげた。
そこでトドメとばかりに第三撃が狙ったのは、大きな目と目の間である。
さしものナムクラーゲンもここに強打を受ければ沈黙するだろう。
だがしかし、飛梅さんの第三撃が当たる寸前のこと、予期せぬ事態が勃発する。
唐突に生じたのは藍色の変化。
半透明だったナムクラーゲンのカラダが突如として色味を帯びたとおもったら、その体内にてパチリパチリとたくさんの火花が散った。
ひとつひとつは小さく、まるで線香花火のように儚く綺麗である。
けれどもそれが数えきれないほどの量ともなれば話は別だ。
体内にて発生した放電によるスパーク現象――
ナムクラーゲンにそんな能力はない。
だというのに発揮する。それすなわち別の何かに進化したということ。
極上ハイカロリーのハチミツを飲み続けていたせいか?
「すぐにそいつから離れろ!」
ナシノ女史がいち早く気がつき、叫んだのとほぼ同時であった。
夜明け前の瑠璃色となったナムクラーゲンを中心にして、眩い光が生じ一帯に大量のイナヅマが解き放たれ、瞬時に周囲にいたすべてを貫いた。
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