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087 我ら初等部探偵団
しおりを挟む放課後、枝垂はシモンたちと城下町にある駄菓子屋へと出向くも、またしても休みの張り紙がしてあった。
「また本土に仕入れに行ってるのかなぁ」
「う~ん、どうだろう」
「ここのおっちゃん、ちょいちょいサボるからなぁ」
「そうそう。ただの二日酔いの可能性もある」
「もともと店は趣味みたいなもんだって言ってたし、商売っ気がないんだよねえ」
「まぁ、やってないもんはしゃーない。また今度来ようぜ」
子どもたちは諦めて、公園に繰り出すことにしたのだけれども、向かっているさなかのことであった。
ふと誰かにじっと見られているような感じがして、枝垂は振り返る。
が、不審な者の姿はなく、すっかり見慣れた路地裏の風景があるばかり。
隣にいる飛梅さんも気にした様子もなく、フセにいたっては「へっ、へっ、へっ」と首を上下させているばかり、赤べこは番犬代わりにはなりそうにない。
もしも害意があれば飛梅さんが反応しているはず。
アリエノールに暗殺うんぬんについて云われたせいか、やや神経が過敏になっているのかもしれない。
だから枝垂は、この時はさして気にしなかったのだけれども……
似たようなことが二度三度と続けば話は別だ。
さすがに枝垂もちょっと気味が悪くなってきた。
とはいえ城内で視線は感じず。もっぱら城下町をぶらついている時に限ってのことである。
そのせいか、ここのところ枝垂の顔色は優れない。
いっそ大人たちに相談すべきか。枝垂が本気で悩み始めた頃、誰よりも先に枝垂の態度がおかしいことに気づいたのは、クラスの委員長的立場のネコ獣人のルチルであった。
「枝垂くん、ここのところちょっとヘンじゃない? やたらとうしろを気にしているっぽいし、何かあったの」
さすがは初等部の女子のまとめ役、親身に心配されたもので、枝垂もついポロリと「じつは……」
するとルチルはふむふむ話を聞いてから、「あっ、もしかしたら」と何やら心当たりがあるかのような態度を示す。
だから詳しい話を枝垂が訊こうとするも、その矢先のことであった。
この会話を小耳に挟んだシモンが「なんだと! 枝垂が何者かにつけ狙われている? よし、だったら俺たちで犯人を突き止めてやろうぜ」なんぞと言い出し、男子たちがこぞってやる気になってしまう。
ほら、男の子ってば探検隊とか探偵団とか好きじゃない。
そのノリにて、初等部探偵団が急遽発足されることになってしまった。
こうなると、もう男子たちは止まらない。そして「さっそく、作戦会議だ!」と枝垂は男子たちに引っ立てられてしまい、ついにルチルから彼女の考えを聞きそびれてしまう。
もしもこのとき、ルチルからしっかり話を聞いておけば、のちの騒動の半分ぐらいは防げたのかもしれないのだが……
☆
シモンたちの考えた作戦は至極単純である。
それは囮作戦だ。
狙われている枝垂がわざと町中をぶらつき、それをみんなで見張ることで、犯人をつきとめるというもの。
犯人が弱そうな奴ならばみんなでボコり、ヤバそうな奴ならば飛梅さんに丸投げするという、なかなかにひどい作戦である。
子どもはときに残酷にて、妙に思い込みが激しく積極的だったりもする。
まさか自分が暗殺対象になっているとは言い出せず、さりとて子どもたちを思いとどまらせることも出来ず。
なし崩し的に枝垂は探偵ごっこに付き合うことになってしまった。
というわけで、その日の放課後、さっそく初等部探偵団は出動。
枝垂は城下町をぶらぶらすることになったのだけれども。
「うぅ、みんなにジロジロ見られているせいで、肝心の不審な視線がわからない。あと大人たちから向けられる生温かい目が恥ずかしい」
シモンたちは大真面目にて尾行と監視をしているつもりだが、傍目には探偵遊びをしているように見えるらしく、周囲の大人たちがクスクス笑ってる。
かとおもえば、いつの間にやら人員が増強されていた。
第三初等部の生徒たちであった。シモンたちが町中で何やら面白そうなことをしているのを嗅ぎつけて、混ざることにしたようだ。これにより尾行の人数がいっきに倍増した。
だもので、枝垂が動くたびに後続がぞろぞろ。
これでは囮役どころか悪目立ちして逆効果であろう。あと、もしもこの状況下で、のこのこ枝垂の前に姿をあらわすようならば、相手はよほどのマヌケである。
なんぞと枝垂は考えていたのだけれども……
向こうから荷車が向かってきたもので、枝垂は道の端へと避けたのだけれども、その時のことであった。
すぐ脇の路地からのびてきた手が、枝垂の腕を掴むなり、ひょいと奥へと引きずり込んだ。
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