星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
上 下
87 / 242

087 我ら初等部探偵団

しおりを挟む
 
 放課後、枝垂はシモンたちと城下町にある駄菓子屋へと出向くも、またしても休みの張り紙がしてあった。

「また本土に仕入れに行ってるのかなぁ」
「う~ん、どうだろう」
「ここのおっちゃん、ちょいちょいサボるからなぁ」
「そうそう。ただの二日酔いの可能性もある」
「もともと店は趣味みたいなもんだって言ってたし、商売っ気がないんだよねえ」
「まぁ、やってないもんはしゃーない。また今度来ようぜ」

 子どもたちは諦めて、公園に繰り出すことにしたのだけれども、向かっているさなかのことであった。
 ふと誰かにじっと見られているような感じがして、枝垂は振り返る。
 が、不審な者の姿はなく、すっかり見慣れた路地裏の風景があるばかり。
 隣にいる飛梅さんも気にした様子もなく、フセにいたっては「へっ、へっ、へっ」と首を上下させているばかり、赤べこは番犬代わりにはなりそうにない。
 もしも害意があれば飛梅さんが反応しているはず。
 アリエノールに暗殺うんぬんについて云われたせいか、やや神経が過敏になっているのかもしれない。
 だから枝垂は、この時はさして気にしなかったのだけれども……

 似たようなことが二度三度と続けば話は別だ。
 さすがに枝垂もちょっと気味が悪くなってきた。
 とはいえ城内で視線は感じず。もっぱら城下町をぶらついている時に限ってのことである。
 そのせいか、ここのところ枝垂の顔色は優れない。
 いっそ大人たちに相談すべきか。枝垂が本気で悩み始めた頃、誰よりも先に枝垂の態度がおかしいことに気づいたのは、クラスの委員長的立場のネコ獣人のルチルであった。

「枝垂くん、ここのところちょっとヘンじゃない? やたらとうしろを気にしているっぽいし、何かあったの」

 さすがは初等部の女子のまとめ役、親身に心配されたもので、枝垂もついポロリと「じつは……」
 するとルチルはふむふむ話を聞いてから、「あっ、もしかしたら」と何やら心当たりがあるかのような態度を示す。
 だから詳しい話を枝垂が訊こうとするも、その矢先のことであった。
 この会話を小耳に挟んだシモンが「なんだと! 枝垂が何者かにつけ狙われている? よし、だったら俺たちで犯人を突き止めてやろうぜ」なんぞと言い出し、男子たちがこぞってやる気になってしまう。
 ほら、男の子ってば探検隊とか探偵団とか好きじゃない。
 そのノリにて、初等部探偵団が急遽発足されることになってしまった。
 こうなると、もう男子たちは止まらない。そして「さっそく、作戦会議だ!」と枝垂は男子たちに引っ立てられてしまい、ついにルチルから彼女の考えを聞きそびれてしまう。
 もしもこのとき、ルチルからしっかり話を聞いておけば、のちの騒動の半分ぐらいは防げたのかもしれないのだが……

  ☆

 シモンたちの考えた作戦は至極単純である。
 それは囮作戦だ。
 狙われている枝垂がわざと町中をぶらつき、それをみんなで見張ることで、犯人をつきとめるというもの。
 犯人が弱そうな奴ならばみんなでボコり、ヤバそうな奴ならば飛梅さんに丸投げするという、なかなかにひどい作戦である。
 子どもはときに残酷にて、妙に思い込みが激しく積極的だったりもする。
 まさか自分が暗殺対象になっているとは言い出せず、さりとて子どもたちを思いとどまらせることも出来ず。
 なし崩し的に枝垂は探偵ごっこに付き合うことになってしまった。

 というわけで、その日の放課後、さっそく初等部探偵団は出動。
 枝垂は城下町をぶらぶらすることになったのだけれども。

「うぅ、みんなにジロジロ見られているせいで、肝心の不審な視線がわからない。あと大人たちから向けられる生温かい目が恥ずかしい」

 シモンたちは大真面目にて尾行と監視をしているつもりだが、傍目には探偵遊びをしているように見えるらしく、周囲の大人たちがクスクス笑ってる。
 かとおもえば、いつの間にやら人員が増強されていた。
 第三初等部の生徒たちであった。シモンたちが町中で何やら面白そうなことをしているのを嗅ぎつけて、混ざることにしたようだ。これにより尾行の人数がいっきに倍増した。
 だもので、枝垂が動くたびに後続がぞろぞろ。
 これでは囮役どころか悪目立ちして逆効果であろう。あと、もしもこの状況下で、のこのこ枝垂の前に姿をあらわすようならば、相手はよほどのマヌケである。
 なんぞと枝垂は考えていたのだけれども……

 向こうから荷車が向かってきたもので、枝垂は道の端へと避けたのだけれども、その時のことであった。
 すぐ脇の路地からのびてきた手が、枝垂の腕を掴むなり、ひょいと奥へと引きずり込んだ。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...