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083 紫イモ貯蔵庫防衛戦 結
しおりを挟む「あんぎゃーっ、調子にのってごめんなさーい」
泣き叫びながら懸命に走っていたのは枝垂である。
追いかけているのは赤べこだ。
撒き餌作戦は成功し、赤べこはまんまと釣れた。奴を貯蔵庫前から引き離すことに成功する。だがあまりにも釣れ良すぎた。梅干しの種の粒々やカリカリ梅の食感がよほど気に入ったのか、赤べこがもっと寄越せと枝垂に迫る。
現時点ですでに全長三十メナレ越え、シロナガスクジラほどにも達しており、そのひと口が大きく、その一歩もまた大きい。そんなのが、うしろからドスンドスン。
枝垂が死に物狂いで走って稼いだ距離を、ほんの一二歩で詰めてくる。
「あ~ん」と迫る大きな口、ビビった枝垂が「こっち来んな!」とつい種ピストルの梅干しバージョンを撃ちまくったのも失策であった。
口を開けたら、美味しい梅干しがじゃんじゃん入ってくるものだから、赤べこはすっかり味を占めた。
ならばそれを利用して、かつて海の大型禍獣ラッコステイをあと少しのところまで追い詰めた秘技「乱れヤナガワシダレ」を炸裂させてやろうとするも、肝心の技が発動せず。
「あれっ! くそっ! なんで?」
喰っても喰っても満足しない底なしの胃袋、食べるほどにより強大になっていることからして、どうやら食べたはしから瞬時に消化吸収し、己の血肉に変えてしまっている模様。体内に種が残っていなければ、芽吹きようがなく花も咲かない。
赤霧の女王を仕留めた時のような攻撃をするには、充分なタメが必要にて、そんな余裕はないし、例えあったとしても撃ったらえらいことになる。今度こそ死ぬかもしれない。
ようするに現状、枝垂には打つ手がない。ひたすら逃げるしかないということ!
すると、そんな枝垂に並走する者があらわれた。
誰かとおもったらマヌカ先生である。たわわな胸を揺らしながらも綺麗なフォームを維持しているヒツジの獣人が、枝垂の腕を掴むなり「こっちへ」
とたんに引きずり込まれたのは薄暗い亜空間内部である。
ふたりの姿がぱっと消えた。
かとおもえば、次の瞬間には消えた場所から三十メナレほど前方へと移動していた。
闇魔法による短距離転移だ。転移にて長距離を移動するには膨大な魔力と精神力が必要となる。けれどもこの方法ならば繰り返し連続で行使できる。マヌカ先生はこれを使って変則的な攻撃や防御をするのを得意としていた。
「枝垂くん、この先でエレン姫さまが罠を張っています。そこまでがんばってください」
だそうなので、短距離転移と疾走により距離を稼ぎつつ、枝垂は撒き餌作戦を続行する。
そうして向かったのは第二訓練場である。
第一訓練場は枝垂が梅の木を生やしまくったせいで立派な梅園となっており、いまでは城内の衛士たちはこちらで日々鍛錬をし、汗を流している。
そんな男汁がたくさん染み込んだ場所に、枝垂たちが赤べこを引きつれあらわれたところで――
唐突に足下が失せた。
複数の連携による地魔法の大規模魔法「深淵」である。
ようは超大きくて深い落とし穴だ。
土中深くへと空間を堀り下げるがゆえに、地下に施設がある場所では使えない。だからこそここまで敵を誘導する必要があった。
マヌカと枝垂と赤べこ、仲良くそろって落とし穴の中へと吸い込まれてゆく。
でも、底までつき合うつもりなんて毛頭ない。マヌカの転移にて枝垂たちのみ即脱出!
枝垂たちが無事に穴の向こう縁へと姿をあらわしたところで、さらなる大規模魔法が放たれる。
発動したのは地と水の複合魔法の「泥沼」だ。「深淵」により掘った土砂に大量の水を混ぜて泥としたもので穴を満たす。
重量のある巨体ほど足をとられて、暴れれば暴れるほどに深みにはまる凶悪な罠。
☆
ブクブクブク……
赤べこが泥沼に沈んでいく。
さしもの奴もこれにて万事休す。
ついにその姿が完全に泥の中に消え、周囲から歓声があがった。
かくして紫イモ貯蔵庫防衛戦に成功し、ロバイス王が勝鬨をあげようとしたのだが、その時のことである。
ズズズと不気味な音を立て、泥沼がゆっくりと渦を巻き始めたもので、一同「まさか!」
そのまさかであった。
なんと赤べこは泥沼の底にて、大口を開けては泥を飲み込み始めたのである。
食べ物以外には興味を示さなかった奴が土壇場で趣旨替え、それだけ追い詰められたということだけれども、このままではマズイ!
だからすぐに泥を固定して吸い込めないようにしようとするも、赤べこの吸引力の方が強くて、魔力制御が追いつかない。
まるでストローでどろりとしたシェイクを飲むかのようにして、泥がみるみる減っていき、ついに半分ほどになったところで、泥の中から赤べこが飛び出してきた。
あろうことかグビグビ飲んだ泥を吐き出し、推進力として我が身を打ち上げる。
ばかりか、奴が吐き出す泥に押し流されて、こちらがろくに身動きが取れなくなってしまい一転して窮地に陥ってしまった。
甦る、赤べこの猛威。
もはやこれまでか……。
誰もが諦めかけたとき、それはやってきた。
遥か天空より飛来したのは、白き流星――飛梅さんを背にのせた天狼オウランであった。
伝説の神獣の一撃が傍若無人の徒の背へと振るわれた。
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