星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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079 大号令

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 守備隊の健闘及ばず……

 城の食糧庫は陥落した。
 なにせ赤べこは、食べれば食べるほどに大きく、より強くなる。
 とはいえひたすら食料を漁るばかりにて、特に襲ってはこない。それでも周囲をちょろちょろしていたら、まるでうるさいハエでも追い払うかのようにして、ドスンドスンと暴れることもある。
 それだけといえばそれだけ、なのに奴を止められない。
 問題はそのボディ強度だ。頑強さが尋常ではなかった。

 枝垂のカードから得た高純度の魔鋼製の剣を手にしたジャニス、黒ヒョウ女剣士が神速の踏み込み、からの渾身の一撃を喰らっても多少は抉れたものの、破壊するには至らず。

「ちぃいぃぃぃ、固い。それに斬撃が途中で散らされたのか、刃がろくに通らん」

 斬りかかった側の腕が軽く痺れたもので、ジャニスはいったん距離をとる。
 それと入れ違いに味方勢が一斉に魔法で攻撃するも、赤べこはケロリとしておりさして効いている様子はない。
 どうやら魔法耐性も高いようだ。
 ゆえにラジール王子は奥の手である獣化を解禁!

「ガオーッ!」と雄叫び。

 たちまち黒髪の美青年将校がワイルド寄りの獅子獣人の姿となった。これにより体躯がふたまわりほど大きくなり、より逞しさを増した。
 ばかりか、給料三ヶ月分を頭金にして三年ローンを組んでまで購入したという自慢の双剣を振るう。二振りの長刀は、魔力を込めると持ち主の魔法属性を刃に載せることができるという魔剣にして、業物である。

「覚悟しろ、ぶった斬ってやるぜっ!」

 刀身に風をまとわせ、剣速を数段高めることで放った必殺の斬撃。
 だがしかし――

 ボキリ!

 あろうことか赤べこの首を狙ったところで一本が折れて、もう一本はむしゃむしゃ喰われてしまうという悲劇に見舞われた。
 グラグラしてちっとも据わっていない赤べこの首、いかにも簡単に刎ねられそうに見えて、じつはカラダの中で一番の強度を誇るというトラップ。
 まんまとその罠に飛び込んでしまったラジール王子は返り討ちにされてしまう。
 赤べこは味がお気に召さなかったらしく、しばらくクチャクチャ口の中で遊んでから、ペッ。
 原型を留めぬ酷い姿に成り果てた愛刀を前にして、ラジール王子は「そんなバカな、星骸すらも斬る名刀だぞ。それがこんなわけのわからん奴に……」と膝から崩れ落ちた。

 かくして主力ふたりの攻撃が通じないと判明し、好むと好まざるとにかかわらず仕切り直しを余儀なくされてしまったジャニスたち。
 下がって態勢を整えるかたわらで、重盾衛士らがカラダを張って赤べこを足止めしようと立ち塞がり奮闘するも、ついには強引に押し切られてしまう。

 猛威を振るう赤べこ、ヒトを襲わないことだけがせめてもの救いだが、とにかく遠慮がない。腹八分という言葉も知らないようで、ついには食糧庫内部にあったすべてを平らげてしまった。

「ぎゃーっ、一ヶ月分の食料が!」
「なんてこったい! 来客用にと大目に仕入れていた分まで根こそぎやられた」
「信じられん。塩や砂糖だけでなくソースまであらかた飲まれてるっ」
「どうすんだよ、これ? あとはもう枝垂の梅干しと紫イモぐらいしかねえぞ」

 クマさんの料理長をはじめとする城の厨房を預かる面々は、あまりの惨状に悲鳴をあげた。
 だが、そんなこと知ったこっちゃないとばかりに赤べこは、首を上下にカクンカクンさせながら、食糧庫をあとにして向かった城内西である。
 そちらの区画にあるのは紫イモの貯蔵庫にて、温度と湿度管理の下で保管されてあるのは輸出用の大切な商品である。
 離れ小島は隅っこ暮らしの弱小貧乏国の数少ない外貨獲得の手段。国家運営の命綱にも等しいモノ。
 これを喰い尽くされてはコウケイ国はとても立ちゆかぬ。
 緊急事態につき……

「こうなれば出し惜しみはナシだ。なんとしても貯蔵庫を死守せよ。儂もでるぞ」
「私も参ります」

 ロバイス王が大号令を発し、ディラ王妃も立つ。
 ここに紫イモ貯蔵庫防衛戦の幕が切って落とされようとしていた。


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