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067 天狼オウラン
しおりを挟む禍獣とは、いわゆるモンスターのことである。
動物が魔素や環境の影響で変異した個体にて、このギガラニカの世界に存在する脅威のうちのひとつ。
青銅、赤胴、黒鉄、白銀、黄金の等級に分類されており、この順で強くなる。
青銅級はわりとポコポコ出現してはサクサク討伐されている。
これが白銀級の上位種ともなればそうはいかない。災害レベルにて、黄金級ともなれば国の存亡が危ぶまれるほど。大国でもなければ、まず自国だけでは対処できない。よって近隣諸国や中央の連合軍に応援を頼むことになる。
けれども禍獣は強くなるほどに知能も高くなるから、黄金級ともなればよほどのことがないかぎりは、人前に姿をあらわさないし、無闇に暴れもしない。
事実、ここ三百年、目撃情報は報告されていない。
はずなのだが、そんな伝説の存在がいま目の前に――
「……というか、わりとご近所さんだったんですね。まさか同じ島内に黄金級の禍獣がいるとは思いませんでした。
はじめまして、コウケイ国でお世話になっている星クズの勇者の柳川枝垂です。枝垂とお呼び下さい、オウランさま」
「フム、星クズとな。それはまた難儀であったのう。身体強化の恩恵も受けておらぬようだし、それでは腰が抜けてへたり込んでもしょうがないか。知っておったら、もっと丁寧に運んだのだが……」
「いえ、それはべつにもういいんです。それより、今回の急なお招き……いったい僕に何の御用でしょうか?」
「あー、それか。まぁ、しばし待て。じきにアレが追いついてくるであろうから」
オウランが王城のある方の空をチラ見する。
アレとは飛梅さんのことだ。
どうやら彼女が到着したら、枝垂をここに連れてきた理由を説明してくれるらしい。
「おっ、ようやく来たか。おもっていたよりも時間がかかったな。てっきりあの一族の者かとおもったが、これは早とちりであったか? それとも……」
なんぞとオウランはごにょごにょ。
言葉の端々から察するに、オウランは飛梅さんについて何か知っているのかもしれない。
というか、よくよく考えてみたら枝垂は飛梅さんについて、何も知らない。
以前に海の大型禍獣ラッコステイと戦ったおりに、枝垂が使用した「乱れヤナガワシダレ」なる秘技がある。相手の体内に種を植えつけ苗床とし、血肉や魔力を養分として、そこに星のチカラを注入、爆発的に急成長させることで内側から浸蝕し、完膚なきまでに破壊する。自分の名前を冠した必殺技だ。
その時に、解放した星のチカラが、離れた城内の枝垂の自室に置いてあった鉢植えの新芽にも作用し、シュワッチと誕生したのが木偶人形の飛梅さんであった。
だがそれ以降、梅の木を何度か急成長させているものの、第二の飛梅さんはあらわれていない。ナシノ女史やエレン姫にも検証実験を手伝ってもらって、あれこれパターンを考えては試してみたがダメであった。
枝垂の星のチカラは「梅」という珍妙なものにて、そのもっとも身近にいるナゾの存在が飛梅さんである。
もしかしたら今宵、ついにその秘密の一端を垣間見ることができるのかもしれない。枝垂はちょっとドキドキ。
そこへ、シュタっと着地したのは当の飛梅さんである。ようやく追いついた。
しかし飛梅さんはめちゃくちゃ怒っていた。全身をカタカタ小刻みに震わせており、怒気もあらわ。目の前で枝垂をさらわれたのが余程腹に据えかねているよう。
えらい剣幕にて、すぐにでもオウランに殴りかかりそうだったもので、枝垂は「僕は御覧の通り、大丈夫だから」と懸命にこれをなだめる。もちろん、飛梅さんの身を案じてのこと。なにせ相手は黄金級だもの、単純な脅威度だけならば星骸と変わらない。
一方で余裕顔のオウランは三本もある純白の尾をふぁさふぁさ揺らしては、金色の双眸を細めて木偶人形を見つめ「ふむふむ、なるほどのう」と何やら独りごちていたのだけれども……
「どれ、いつまでも外で立ち話もなんだな。ついて来るがよい」
オウランがのそりと向かったのは七つの石柱のうちのひとつ、巨門(こもん)の位置に立つ岩のところ。その石柱の左側を抜けようとしたところで、オウランの身が突如として消えてしまった。
驚いて枝垂たちが立ち尽くしていると、先ほど天狼が消えたあたりから顔だけがひょっこり姿をあらわしたもので、枝垂たちは二度ビックリ!
「こっちじゃ。同じように入って来い」
言うなりさっさと引っ込んだオウランの首。
だから枝垂たちもおずおずとあとに続くと、一瞬にして景色がかわった。
孤高にて寒々とした山の天辺が、たちまち温かで花が咲き乱れる常世の春のごとし場所となる。
おそらくはマヌカ先生の闇魔法の転移みたいなものなのだろうけど、規模が段違いにて。
マヌカ先生のはあくまで同じ空間内の距離を縮めるだけなのに対して、こちらはまるでふたつの世界を繋げているかのようだ。
もしかしたら、オウランがその気にあれば転移魔法にて世界中を自在に行き来できるのかもしれない。
う~ん、黄金級の禍獣、恐るべし。
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