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066 山の七星(ななほし)
しおりを挟むコウケイ国がある島の中心にほど近い所に位置している、標高六百メナレほどの山がオウラン山である。
頂きのところが、まるで台座のごとく真っ平になっており、火口の類はない。山裾は前後左右、全方位に均等に丸く広がっているので、どの方面からみてもほとんど同じ姿に見える。
イーヤル国にあらわれた赤霧の女王が、全長で三百メナレほどもあった。
それに比べれがオウラン山は大きく感じるかもしれなが、山としてみれば小ぶりだ。ちなみに三百メナレで東京タワーと同じぐらいだから、オウラン山はだいたい東京スカイツリーと同じ高さとなる。
山の名前の由来となっているオウランとは黄金級の禍獣のこと。
島の獣人たちからは「神の獣」として崇められており、土着信仰の対象になっている。
なお山の天辺がこのような不自然な形をしているのは、オウランが爪で横薙ぎにしたせいとの伝承が残っているが、真偽のほどは不明である。
山に生き物の姿はない。植物もほとんど生えておらず、山肌は剥き出し。
遠くからみれば優美な容姿をしていたのに、近づくほどその異様さが目につくようになる。周囲に漂う空気も何かが違う。厳かにて、ちょっと立ち入りがたい雰囲気だ。
そんな山の頭頂部には、七つの大きな石柱が乱立しているばかり。
けれどもここへと連れてこられた際に、枝垂は上空からその配置をみて「あっ、北斗七星だ」とすぐに気がついた。
石柱はその並びに置かれてあった。
☆
柄杓(ひしゃく)の形をした北斗七星――
貪狼(どんろう)、巨門(こもん)、禄存(ろくぞん)、文曲(もんごく)、廉貞(れんてい)、武曲(ぶごく)、破軍にて七つ星。
貪狼の星は、文字通り他者よりも物や欲望を追い求める。
巨門の星は、たくさんの人を感化させるチカラを持つ反面、敵も多く作り出す。
禄存の星は、引力本能の星にて多くの人を惹きつけ率い、自身も輝く。
文曲の星は、聡明かつ博識にて、文化や芸術の道にて花開くとされている。
廉貞の星は、安定や安寧は求めず、変化を欲し、刺激を欲せずにはいられない。
武曲の星は、勇猛ゆえにつねに先陣に立ち、戦場で軍勢を率いては稀有な才を示す。
破軍の星は、豪快で破天荒、好奇心に溢れ冒険心に富み、まさに波乱万丈にて我が道を征く。
仏教とか密教とか、占いの紫微斗数(しびとすう)などでは、以上のように分類されているそうな。
どうして枝垂がそんなことを知っていたのかというと、まったく微塵も興味がなかったのだけれども、妹が一時期占いにどハマりしていたせいである。
女の子が占いに一喜一憂する。
若い娘ならではの話なのだが、枝垂の妹は万事が徹底しており、趣味の域を軽く超えてのめり込むから性質が悪い。
でもって熱しやすく冷めやすい。
あれこれ凝っては占ってみたものの、どうあっても自分が兄と結ばれないという結果ばかりが出るもので、ついにぶちギレてヤメてしまった。
いや、占い以前に、異父兄妹では結婚できないのは自明の理であるのだが、そこのところは頑なに認めようとしない困った妹なのである。
だがあの行動力は侮れない。古代においては同父異母兄弟姉妹間の婚姻は許可されていたというし、いずれは法改正に向けて本格始動するかもしれない。
まぁ、そんなどうでもいいウンチクは脇へとうっちゃっておいて――
そんな北斗七星なのだが、これはかなりおかしい。
なぜならこの世界の夜空には北斗七星なるものが存在していないからだ。
それは間違いない。散々に星空を眺めてひとり黄昏ていたから、枝垂はそう断言できる。
とはいえ、こちらの世界は地球といろいろ在り方が異なっている。
まず大地は平らで丸くないし、世界には明確な果てがあるし、地面は不動にて太陽と三つの月の方が積極的にぐるぐる周囲を回っている。星たちもまたしかり。
だからもしかしたら季節によっては、あらわれたり消えたりするのかもしれない。けれども、少なくともマヌカ先生から貸してもらった「はじめての天体観測」なる初等部用の天文学の本には、それらしい記述はなかった。
つまり「ないはずのものが存在している」ということ!
山の天辺に着地するなり、白狼はくわえていた枝垂を地面に置く。
が、宙ぶらりんにて親ネコに運ばれる子ネコ状態だった枝垂は、すぐへたり込んでしまった。
その姿に「なんじゃい、若いのにあれしきのことでだらしのない」と白狼はにぃと笑みを浮かべた。ひょうし、ちらりと口元からのぞく牙がとても白くてご立派なこと。枝垂の細首なんぞは、それこそイクラを舌先で潰すがごとく、たやすく噛み切ってしまうだろう。
そんな白い狼さんは飛梅さんが追いついてくるのを待ちながら、自分は「天狼オウランである」と名乗った。
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