星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
上 下
61 / 242

061 紫黒の雷姫

しおりを挟む
 
 上空を見上げて枝垂は愕然とした。
 初等部で世話をしているイモ畑でのことである。

「な、なんだと! カーラスどもが編隊を組んでいる……」

 そうなのだ。
 ここのところ他国に出かけたり、ぶっ倒れて寝たきりになったり、気落ちしたりして、すっかりご無沙汰していた、イモ畑でのカーラス払いのお仕事。
 ようやく復帰した枝垂を待っていたのは、驚愕の光景であった。
 枝垂という守護者が島から消えたのに呼応するかのようにして、台頭してきたのは一羽の雌カーラスが率いる群れである。
 これまでにもカーラスどもが徒党を組んでは、よってたかって畑の収穫物にちょっかいを出すことはままあった。
 けれどもその群れの動きは明らかに、他とは違っていた。

 大空を舞うのは等間隔にて「ハ」の字にきちんと隊列が組まれた一群。「ハ」の字が八つ連なっては、まるで一匹の大蛇のごとくつねに統率された動きを続けている。
 これを率いるのは紫黒(しこく)の美しい羽をもつ美カーラスであった。
 つねに先陣を切る果敢さ、軽やかな翼さばきにて戦場を自在に舞い、ときには勇猛さを奮っては獲物へと襲いかかる。
 他のカーラスどもが持つ、ちょっとやさぐれた残念な大人っぽい雰囲気は皆無にて、凛として高貴、華麗にして苛烈……
 ゆえに、いつの頃からか農家さんから「紫黒の雷姫」と呼ばれ、恐れられる存在になっていた。

「このままではクラスの畑が危ない。紫黒の雷姫をなんとかしてくれ!」

 クラスメイトのシモンから泣きつかれた枝垂は、「ふふん、復帰戦にはちょうどいいだろう。幾多の戦いを経て、大きく成長したいまの僕にとって、カーラスなんぞなんぼのもんじゃい!」と余裕しゃくしゃくで依頼を受けたのだけれども、それは大間違いであったとすぐに思い知ることになる。

  ☆

 ダダダダダっ!

 いつものように種ピストルの二丁流にて、群れを追い散らす枝垂であったが、相手の動きがつねとは異なっていることにまず驚いた。
 これまでならば我先にと散り散りに逃げていたのに、「ハ」の字の小隊ごとに回避行動をとる。
 かとおもえば、小隊同士がくっついたり離れたりして、かえって地上にいる枝垂を惑わすではないか!
 その動きのなんと滑らかなことか。一分の乱れも生じない。

「くっ、種ピストルではダメか。ならば、これならどうだ!」

 枝垂は種マシンガンに切り替えて、大空一面に弾幕を展開する。
 しかしその寸前に、連中はいっきに高度を上げた。
 さりとてただの回避ではない。こちらの射程と威力を把握して、有効射程外へと離脱したのである。
 枝垂の動きをじつによく観ている。魔力察知頼り、持って生まれた感覚のみでは、とてもできぬ芸当である。
 そのせいでこれまで対カーラス戦では無双を誇ってきた、枝垂の種がまるで当たらず。
 かといって種ライフルでは威力が強すぎるし、数のある相手には不向きにて、なにより反動で撃った自分の肩が壊れてしまう。
 ジャニスからも「くれぐれも使用は控えるように」と言い含められている。
 もしも勝手に使ったら、またぞろ医務室の世話になり、アラバン医師が告げ口をして事が露見し、城の女性陣たちからこぞってお叱りを受けることになるだろう。

「こうなればギリギリまで引きつけて仕留めるしかないか……、って、あれ? 姫がいない。いったいどこに行った?」

 いつのまにやら群れのリーダーの姿を見失っていた。
 慌てて枝垂はその姿を探す。
 さなかにふり返ったのは、たまたまだ。
 土のくぼみに足を突っ込んで、よろめいたひょうしにうしろをちらり。
 するとそこには敵影が!
 超低空飛行にて単騎駆けにて突っ込んでくる紫黒羽の姿があった。
 猛然と向かっていたのは収穫されたイモの山のところ。

 信じられない滑空……正気じゃない、あまりにも地面に近すぎる。
 ほんの少しバランスを崩したら、すぐに揚力を失い墜落するだろう。
 だというのに己のチカラを、その翼を微塵も疑っていないのか、紫黒の雷姫は真っ直ぐ嘴を突き出しては、前だけを見ていた。
 その飛び姿の何と勇ましくも美しいことか。
 枝垂はつい見惚れてしまう。
 だがしかし――

「それでも負けるわけにはいかないんだ。悪いけどキミはここで墜とさせてもらう」

 翼を持つ者が地に墜ちる。
 それすなわち権威の失墜にて、たちまち群れでの立場を失うことになる。
 枝垂が指先を向けたのは、向かってくる雌カーラスではなくて、手前の地面であった。
 こんなこともあろうかと、あらかじめ畑の周囲に埋めておいた新兵器があったのだ。

 パンッ!

 一発の種が地面に撃ち込まれた瞬間、勢いよく土が爆ぜて、飛び出したのは種たちである。
 地対空種ミサイル・ピクルスシード。
 ずらずらと埋め込んであったそれらが、枝垂の合図によって一斉に発射された。
 低空飛行にて突っ込んできたところで、いきなり直下から種の猛射が襲いかかる。
 さすがにこれは避けられまい。
 枝垂はニヤリ、己の勝ちを確信する。
 しかしすぐに「なっ!」と大きく目を見開くことになった。

 その動きは、まさに雷光のごとし。
 高速で飛びながら翼を畳み、わずかな間隙を抜けたばかりか、わずかな翼の挙動にてジグザクに飛行しては、足下からの猛攻をかわす、かわす、かわす!
 戦場に紫の雷光が疾駆する。
 ハッとして迎え撃とうした枝垂であったが、それよりも相手の方が速い。
 枝垂が照準を合わせる前に、敵影がすぐ脇を通り過ぎていた。
 慌ててふり返った枝垂が目にしたのは、まんまとイモをひとつかっ攫っては、大空へと舞い上がって遠ざかっていく紫黒の雷姫の背中であった。

「やられた!」

 紫黒の雷姫との初対決は、枝垂の敗北に終わった。
 そしてこれが後々にまで長く続く、宿命のライバルとの戦いの幕開けとなることを、この時の枝垂はまだ知らない。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

処理中です...