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056 星クズは地で瞬く

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 大艦巨砲主義というものがある。
 大口径の主砲を搭載し、重装甲の艦体を持つ戦艦を中心とする艦隊にて、海戦力を整えようとすること。
 ようは、でっかい砲撃って、なんか燃えるだろ? 強そうだし。
 ドカンと一発ってのは男のロマンだよ、ロ・マ・ン。
 もっとも航空機の台頭によって、デカい砲を積んだ鈍重な船なんぞは、ただの的に成り下がり、その思想は終焉を迎えた。
 それでも大艦巨砲主義を熱く語る者は後を絶たない。
 枝垂のクラスメイトにもひとりいた。
 プラモデルを組み立てるのを趣味としており、部屋には戦艦がずらりと並んでおり、部屋にお邪魔するたびに、「俺の艦隊!」なる高説をたまわり、たいそう辟易させられたものである。
 ぶっちゃけ、ほとんど聞き流しており、記憶になかったが大艦巨砲主義という言葉だけは、妙に耳に残っていた。
 なんだかんだで枝垂もまた男の子ということなのだろう。

 枝垂は星クズの勇者である。
 宿った星のチカラは「梅」というよくわからないものにて、身体強化の恩恵は受けられず。獣人の女の子と腕相撲をすればひとひねりにされ、駆けっこをすればぶっちぎられ、ハイタッチをすれば両肩がはずれるほどの虚弱体質である。言語関係も会話はできるけど、読み書きはまるでダメにて、初等部の子らにまじって勉強するのを余儀なくされている。
 ハズレのポンコツ、三十八ヶ国から「いらない」とそっぽを向かれて、その身柄を預かることになったのが三十九ヶ国目にして最弱最小のコウケイ国であった。
 けれどもコウケイ国のみんなはとても温かかった、優しかった。
 枝垂を星クズの勇者と蔑み粗略に扱うことはなく、ともに悩み考え歩み、進むべき道を模索してくれた。
 中央の連中に睨まれることにより被るであろう不利益よりも、枝垂の身の安全と健やかな成長を選んでくれた。
 だから枝垂も腐らず奮起できたのである。

 そんな中で開発された攻撃手段が種ピストルというもの。
 ようは梅干しの種を弾に見立てて放つ遠距離攻撃なのだが、威力はたかがしれている。
 それこそ収穫されたイモを狙うカーラスを追い払う程度にて、それすらも仕留めることは適わず。害鳥の一羽すらも撃ち落とすことができない。
 だがこの技には、いろいろと応用編がある。
 そのうちのひとつが種ライフルだ。
 種に回転を加えつつ溜めてから撃つことで、飛距離と高威力を実現する。
 これならば多少の殺傷力は持つが、それでもギガラニカ世界の多くの生物には通用しない。枝垂は圧倒的な弱者なのだ。

 そんな弱者にあって、出来ること。
 それは星のチカラによって召喚する梅干しを調整することだ。
 粒の大きさや、肉の厚さ、辛味、酸味、甘味などなど。
 お手軽なカリカリ梅から、超高級梅干しまでイメージ次第でどうとでもなる。
 じつはこの調整は、梅の種にも適応される。
 とどのつまりは、弾となる種を大きくも、固くもできるということ。
 そして回転と溜め次第では、これを存分に飛ばすことも可能。かくして非力な星クズの勇者にしては、ふさわしくない強力な武器となる。

「種のサイズは千倍、硬度は……とりあえずダイヤモンドぐらいで、でもって回転、回転、回転、回転……」

 構えた指先に出現した巨大な梅干しの種が、ぎゅるぎゅると唸りをあげて猛回転を開始!
 手の甲に刻まれた六芒星が淡く輝き、中の梅の文字の色味がいっそう濃くなる。強い想いにて宿りし星のチカラが急激に高まっていく。
 念じて出現させた品は、当初、枝垂の手の上でぷかぷか浮かんでおり、任意にて掴んだり放したりできる。いわば無重力みたいなものにて、空気抵抗もなくひたすら加速し回り続ける。
 あとはこれに指向性を持たせ目標へと狙いを定めて、解き放ってやればいい。
 だがしかし――

「ダメだ! やめろ、枝垂っ」

 星クズの勇者が何かをしようとしているのに気づいて、叫んだのはジャニスであった。
 ジャニスは枝垂の特訓に付き合ってくれることもしばしば、種ピストルなる技を開発した時にも、最初に見せて意見を求めた相手でもある。
 だからこそジャニスは止めたのだ。
 この技が持つ致命的な欠点を知っていたから。
 強いチカラを行使するには相応の代償を払う必要がある。
 高威力のある超長距離攻撃を放てば、とてつもない反動が返ってくる。
 星クズの勇者の体ではとても耐えられない。

 だというのに枝垂はジャニスの方に顔を向けてにこりと微笑んだ。
 そして次の瞬間、地上にて星が瞬く。


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