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053 天と地と
しおりを挟む西の天にて――
猛然と向かってくる敵、すれ違いざまに羽根を手刀にて切り裂き叩き落とす。
横合いから突っ込んできた者には肘鉄を喰らわせ、別の者へと蹴り飛ばした。
さなかにダダダと放たれたのは杭のような太い針である。飛行タイプの残土穢は尻から針を撃つ。
これを近くにいた個体を引き寄せ盾として防ぐ。
ハリネズミとなったそれを近づいてくる集団へと目がけて投げつけ、自分は新手に飛びかかる。
一対多数による激しい空中戦が展開されていた。
空の上を自在に駆け回っては、飛梅さんが凄い勢いにて次々と敵を撃破していく。
ひたすら女王の御前を目指し突き進む飛梅さん、させじと立ち塞がる飛行タイプの残土穢たち。
しかし個の戦闘力では飛梅さんが突出しており、快進撃が止まらない。
すると残土穢のうちの一体が奇妙な行動をとった。
ブブブと羽根を震わせ無防備に飛梅さんの進路上に立ち塞がったかとおもったら、薙ぎ払われる寸前にカッと閃光を発す。
自爆!
爆発そのものにたいした威力はない。だが残土穢の体内には廃材が多数含まれている。これらが一斉に爆ぜ飛び、散弾となって襲いかかってきた。
至近距離でのことで、これはかわせない。飛梅さんはとっさに腕をかざして防いだ。専用装備もあって被害は軽微であったが、これにより足が完全に止まってしまう。
そこに上下左右から敵勢が殺到する。
飛梅さんを押し包むようにして、たちまち構築されたのはひとつの球状のもの。
互いの多足をがっちり絡めることにより、球はより強固な檻と化す。
囚われた飛梅さんは身悶えするも、押し合いへし合いのせいで手足の自由が利かず、なかなか抜け出せない。
攻撃ではなくて、あくまで拘束を目的とした体当たり。
そして幾重にも取り囲んだところで、ふたたび閃光が起こった。
先ほどのものよりも遥かにまばゆい光にて、空に爆発音が鳴り響き、残骸が火の雨となって地へと降り注ぐ。
だが飛梅さんはなおも健在であった。
爆心地にあってダメージを受けるも、背を丸めて縮こまることで被害を最小限に留めていた。
そしてこの爆発によってぽっかり空いた間隙を突き、シュタタタと猛進を再開する。
☆
東の地にて――
怒涛のごとく押し寄せる大量の敵を前にして、じょじょに押され気味となっていた討伐隊であったが、その時に聞こえてきたのが西の空で起きた爆発である。
飛行タイプの残土穢がいることに驚愕し、それらに行く手を阻まれて捕まった飛梅さんの姿に一瞬絶望しかけるも、飛梅さんは爆発をものともせずにふたたび空を駆け出した。
その勇姿に歓声があがり、一同は奮起する。これにより戦線を盛り返す。
いける、自分たちはきっと勝てる!
この時の枝垂たちは、そう信じて疑わなかった。
けれども、そんなものはただの幻想であったと、すぐに思い知らされることになる。
最初に異変が起きたのは錆色の巨塔である。まるで身じろぎでもするかのようにしてちょっと震えた。
次に異変が起きたのは空であった。
一瞬、自分たちの上を何かが通過したような気がした。
轟っと突風が吹き、上空に垂れこめていた諸々が一掃された。
いきなりあらわれたのは、嘘みたいに澄み渡った青い空である。
地獄と化している地上とはあまりにも乖離した美しい青に、誰も言葉が出ない。
突風の影響は地表にもおよぶ。敵味方関係なく煽られ、飛ばされまいと身を低くすることを余儀なくされた。
「ぐっ、い、いったい何が……」
どうにか顔を上げた枝垂が目にしたのは、あと少しで女王の御前に到達しようとしていた飛梅さんが、明後日の方へと吹き飛ばされる場面であった。
そんな事態を引き起こしたのは女王の前足の一本……、その超大な身にふさわしい長い腕を鞭のようにしならせての攻撃であった。
女王からすれば自分の顔の近くを飛び回る、うるさい羽虫を追い払ったようなもの。
だがそれにより上空に漂っていた雲や砂塵らが一掃され、飛梅さんは吹き飛ばされた。
さらには――
「ははっ、……嘘だろう。なんの冗談だよ」
星クズの勇者は乾いた笑いにて、つぶやかずにはいられない。
なぜなら絶望がいまにも振り下ろされようとしていたからである。
気まぐれな女王は、飛梅さんを打ち払った腕をそのまま高らかに持ち上げては、こちらを打ち据えようとしていた。
なんだこれは?
敵があまりにも強大で、自分たちはあまりにも非力で矮小すぎる。
空が割れて、絶望が落ちてくる。
枝垂たちはそれをぼんやりと眺めていることしかできない。
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