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049 塹壕戦
しおりを挟む銀閃が走るたびに、ぼとりぼとりと残土穢たちの首が刎ね落ちた。
それを見届けることもなく、次の相手へと刃を向けていたのはジャニスである。ほぼ一刀にて近寄ってくる敵を片っ端から仕留めている。
エレン姫は魔法による風の刃にて援護に徹し、迫る敵勢の足並みを乱し止める。
多足を傷つけられて動きが鈍くなったところを、すかさず兵士たちが囲んで手際良く狩った。
それらをも越えて近づく個体には、飛梅さんの手刀が容赦なく振るわれた。
事前の情報では、残土穢は廃材などが混ざった土塊の体にて、攻撃が通りにくいとのことであったが、ことコウケイ国軍にあってはさして影響なし。
その理由はみんなの技量もさることながら装備にあった。
すべて枝垂のカードから出た魔鋼を用いて造られた逸品にて。魔鋼の質、精錬純度は素晴らしい物で、城お抱えの鍛冶師らが感涙し手を合わせて拝むほど。
おかげで頑強かつ身につければ身体強化の恩恵を得られる甲冑と、魔力を通すことで切れ味が増す剣を人数分揃えることができた。
ゆえにコウケイ国軍は優勢に戦い続けていられる。
だが、他の友軍らはどうであろうか?
騎竜部隊は自慢の足を封じられ、地竜部隊やゴーレム部隊はその巨体が仇となり身動きもままならぬ。狭い塹壕内では高威力の魔法を放てない。どうしても接近戦メインとなるだろう。
混戦必至にて、分断された挙句に各個撃破とか最悪の展開である。
前線にて増すばかりの圧力。
いっこうに敵の勢いが衰えない。
「斬っても斬ってもキリがないな。マヌカ、そろそろいけるか?」
敵勢を押し返しつつジャニスが声をかければ、「お待たせしました。門の設置が完了しました。五人ずついけます!」との応答。
塹壕戦が始まってから、マヌカが横転した竜車の陰にてひそかに行っていたのは、闇魔法にて転移門を設置すること。繋いだ先は地上だ。逃げ場のない穴の中では、いずれ数に押し負ける。だからまずは死地を脱し、一刻も早く友軍と合流すべきとのエレン姫の判断であった。
闇魔法での転移は、行ったことがある場所ならばどこでもひとっ飛び……
なんてことはない。距離に応じて消費魔力が増えるので、飛べる範囲には限度がある。ましてや自分以外の者を連れてとなると、さらに負担が増す。世界各地を気の向くままに、なんぞは夢のまた夢。ぶっちゃけ国内旅行もままならぬ。
その負担を軽減するのが、転移門である。
入り口と出口を設け、トンネルを繋ぐことで空間を固定化し、より負担を軽減しつつ安定して人や物を運べるようにするというもの。
「よし! では順次、転移門を通って地上へ移動せよ。殿(しんがり)は私が引き受ける」
ジャニスの号令に従って一行は移動を開始する。
なお枝垂と飛梅さんは第二陣に組み込まれて、地上での門の守りを託された。
☆
いち早く地上に戻った枝垂は、目にした光景に愕然とする。
城塞都市を中心にして四方八方へと張り巡らされた塹壕、これにより地表がズタズタに分断されていた。
討伐隊も散り散りとなり、半数以上が溝に落ち、そこかしこにて戦闘が勃発している。
せめてもの救いはリワルド王のいる本隊が陥没に巻き込まれていなかったこと。
とはいえ地面がこの有り様では陸の孤島状態にて、草原の民は得意の機動力を活かせない。どうにか態勢を整えようと奮起しているが、それもままならず、迫る敵勢を押し返すのがやっとといったところか……
地上の転移門を死守すべく、兵士たちや飛梅さんが敵を蹴散らす。
そのうしろで枝垂はみんなの邪魔にならないようにチョロチョロしては、怪我人のところにポーションを配達したり、ときおり種ピストルで援護射撃をしたり。
そうやって懸命に自陣を確保しているうちに、部隊の移送が完了し、ほっとしたのも束の間のこと。
殿を勤めていたジャニスが転移門から飛び出すなり「伏せろ!」と叫んだ。
わけがわからないままに、その気迫に押されて地面に枝垂がヘッドスライディングをした直後のことであった。
転移門がドカンと火を吹いて消失!
それと同時にさっきまで自分たちがいた塹壕内でも次々と爆発が起きて、溝にそって轟々と炎の壁が出現する。
ジャニスの仕業であった。
味方が全員、無事に脱出したのを見届けてから、残してきた荷に火を放ったのである。中には手榴弾のような武器が入っていた。その爆発によって残土穢たちの身が粉砕しては、体内の廃材をまき散らす。狭い溝の中では逃げ場はなく、巻き込まれて敵の多勢が吹き飛ぶことになった。
まではよかったのだが、ちょっと派手にやりすぎたらしい。
天からパラパラと焼けた破片が雨あられとなったもので、地上にいた枝垂たちはキャアキャア逃げ惑うことになった。
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