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048 巣
しおりを挟む城塞都市ヴァストポリに出現した錆色の巨塔。
高さは、推定三百メナレ――メナレというのはこちらの世界の長さの単位、1メナレでだいたい1メートルぐらい――ようは、東京タワーと同じぐらいということ!
錆色の巨塔をアリ塚と仮定すると、その規模から予想される残土穢の数は、優に万を越えかねない。
この事態に、リワルド王をはじめとする首脳陣たちは愕然とし、討伐隊全体にも激震が走った。
個々の戦闘力では勝っているものの、あまりにも兵数が違い過ぎる。
戦において数はチカラだ。多勢に無勢、寡兵ではたちまち呑み込まれてしまう。
だからここは断腸の想いにて、いったん引き下がって万全の準備を整えてから、再度決戦を挑むべしということに決まったのだけれども。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
どこからともなく巨大な獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。
地鳴りだ。大地が微かに震えている。
「えっ、地震?」
年平均千五百から二千近くも揺れが頻発する、地震大国に育った枝垂はさほど動じず。竜車の荷台の上で、積み荷が崩れても下敷きにならない位置へと移動する。飛梅さんはそんな枝垂を守りぴたりと寄り添う。
エレン姫やジャニスはすぐさま下竜した。騎竜が興奮しないようになだめつつ様子を見る。
竜車の御者台に座るマヌカは手綱を手繰り寄せて「どうどう」
コウケイ国の兵士たちは、片膝をついた姿勢となり揺れがおさまるのを待つ。
しばらく続いた揺れは、じきにおさまった。
だというのに不思議と誰も何も言わなかった。兵たちも立ち上がろうとはしない。
それはある種の予感のようなもの。
理屈ではない。ただ戦場という特殊な状況下ゆえに、五感がつねよりも鋭敏になっていたがゆえのこと。
これで終わりではない。いまのはほんの先触れにて、次が来る!
星クズの勇者である枝垂ですらもが、そんな予感に見舞われたのだ。より身体能力にすぐれ研ぎ澄まされた超感覚を持つ獣人たちならば、さらにその上をいく。
「――っ! デカいのが来るぞ。総員、衝撃に備えよっ!」
ジャニスが叫んだのと前後して、ドンッともの凄い突き上げを食らって、その場にあったすべてがポンと跳ね宙に浮いた。
かとおもえば視線がガクンと下がって、落ちていく。
単純に地面が揺れて上下したのではなかった。足下がいきなり失せたのである。
陥没が発生!
一瞬のことにて抗う術はない。
何もかも問答無用で地中へと呑み込まれてしまった。
☆
……
…………
………………
「枝垂、枝垂、無事か?」
外からジャニスに呼びかけられて、はっと気がついたとき枝垂は横転した荷台の中にいた。
崩れた荷箱の下敷きになりかけていたのを、守ってくれていたのは飛梅さんであった。彼女が身を呈してかばってくれたおかげで、枝垂は頭部に軽いタンコブをこさえる程度ですんだ。
「だ、大丈夫です。あイタタタ、それにしてもいったい何が……」
返事をしながら荷台より這い出した枝垂が目にしたのは、土、土、空?
てっきり地中深くにまで落ちたのかとおもいきや、視界は明るい。陽の光が届いている。
陥没の深さはさほどでもなかった。落ちたのはせいぜい五メナレほどにて、上を見上げればちゃんと空が見える。人的被害も皆無にて、みんな無事だ。騎竜たちも健在である。
しかし、これは――
「横穴というよりも溝……、えっ! ひょっとして塹壕なの?」
塹壕とは戦争のときに、飛び交う矢玉から身を護るために掘られる溝のこと。陣地の周囲に張り巡らしては、敵の侵攻を喰い止めたり、中を移動しては敵に痛撃を与えたりする戦闘陣地の一種である。
かつては攻城戦にて活躍し、近代では防衛戦メインにて使用されており、第二次世界大戦の頃には「歩兵の仕事は八割が塹壕掘り」とまで言われていたんだとか。
もしもこの塹壕が味方が掘ったものならばよかったのだが、あいにくとここ敵陣営の目と鼻の先である。
そしてアリ塚というものは、塔や小山のようなシロモノだけでない。地中を網の目のように掘り進められた形状のものもある。
すなわちこれは残土穢たちが用意したものにて、討伐隊はまんまとその中に誘い込まれたということ!
「総員、姫様と枝垂を守り円陣を組んで抜刀せよ。もたもたするな、すぐに客が来るぞ!」
ジャニスの指示にて、すぐさま兵士たちが臨戦態勢をとる。
間髪入れずに塹壕の奥からわらわらと、残土穢たちが押し寄せてきた。
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