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046 識別名称・残土穢
しおりを挟む赤い霧の彼方から襲来した異形は、赤茶けたサビ色の土塊で出来た大きなアリのような群れであった。
識別名称・残土穢(ざんどえ)と名づけられた赤霧は、汚染された土壌にて形造られており、強さ自体はさほどでもない。
頭を潰すなり首を刎ねるなりすれば動かなくなる。
だがやっかいだったのが、体内に岩や鉄くず、パイプにハリガネ、釘、木片、割れたガラスなどの廃材が多分に含まれていること。
これにより刃が引っ掛かってしまい、うまく両断できない。打撃にしても当たり所によっては、まるで効かなかったりする。
ならばと魔法で対処すれば、下手に吹き飛ばしたら体内の破片が周囲に四散し、敵味方を巻き込んでの大惨事となる。
しかもわらわら湧いてくるもので、倒しても倒してもキリがない。ついにはこちらが先に魔力切れを起こしてしまう。
残土穢たちは、現在イーヤル国の南部にある城塞都市ヴァストポリを占拠し居座っている。
広大な草原である緑海、その中に張り巡らされた街道の要所に位置し、国内でも二番目の規模と防衛力を誇っていた辺境でも有数の城塞都市は、三日ともたずに陥落した。
敗因は、敵勢の数に惑わされ、地中からの侵攻を許したこと。
最初のうちは闇雲に突っ込むだけであった残土穢たち。
対して城壁はびくともせず。
だから守勢側はこのまま籠城して援軍を待つ予定だったのに、状況が一変したのは二日目の夜更け過ぎ。
昼夜を問わずの猛攻に、兵士も住民らも疲労のピークを迎えていた頃合いを見計らったかのようにして、突如としていくつもの竪穴が町中に出現した。
穴の底から次々と残土穢が這い上がってくる。
外の敵勢は囮にて、こちらが本命であったのだ。よもや幾重にも厚く強化してある基礎を掘削され突破されるとはおもわなかった。
気づいたときには堅牢を誇る城塞都市は内側から喰い破られており、出来ることは速やかに都を放棄して、生き残りを連れて逃げ出すことぐらいであった。
ただ、不思議だったのが、北側の城門付近だけ敵勢が手薄すだったこと。
まるでここから逃げろと言わんばかり。
だから当初は罠の可能性を疑い躊躇するも、斥候からもたらされる報告に不審な点はなく、ますます首を傾げつつも北門から撤退することになった。
が、追撃もなく困難が予想された撤退はおもいのほかスムーズに進行し、殿を引き受け死を覚悟していた部隊の者らは、とんだ肩透かしにてひどく困惑したものである。
☆
全軍出撃! ただちに城塞都市ヴァストポリへと向かう。
寄せ集めにしては隊列が乱れることもなく、整然と進むのは、指揮系統を一本にまとめたからだろう。
総大将はリワルド王にて、他国の援軍はすべてその傘下に入り、ヴァストポリの奪還および赤霧の殲滅を行う。
辺境では王みずからが率先して戦場に立つことは珍しくない。
かくいうコウケイ国でも、いざともなればロバイス王が動くし、必要とあらばディラ王妃も得意の槍を手に戦場に駆けつける。獅子の獣人であるロバイス王は見た目通りに強い。飛梅さんとも渡り合い、ジャニスが本気を出せる数少ない相手のうちの一人だ。
隊列は先頭にゴーレム軍団が、次に地竜部隊と本隊が続き、周辺を警戒がてら脇を固めるのがハンターたちである。
コウケイ国の一行は最後尾にて、兵站を担いつつあとからついていく。
これは兵力の少なさと星クズの勇者のことを考慮してのことであった。
エレン姫やジャニスは提供された騎竜に跨り颯爽と、枝垂と飛梅さんはマヌカが手綱を握る竜車に揺られて、のんべんだらりと。そのあとに自国の精鋭たちが徒歩にて続く。
道は整備されているし、台車もサスペンションがついており、車輪にはゴムタイヤもはかせてあるから、至極快適である。
異世界モノのラノベでよくある「お尻が痛い。酔った」とかいうことはない。
だから飛梅さんの固い膝枕にて、枝垂は落ちついて得た情報を精査し思索に耽ることができる。
――にしても、かなりの収穫があった。
それは星の勇者のチカラについて。
今回集った五星を並べてみれば一目瞭然にて、どうやら宿ったスキルには二系統あるらしい。
ひとつは火や氷に土といったものを操る、ギガラニカの魔法に準拠したもの。
いまひとつは黒岩の「圧力」や枝垂の「梅」といった特殊なもの。
前者は汎用性があり、似ているがゆえに育成しやすいというメリットがある。発展次第では上位互換となりうるのかもしれない。だが一方では優れた魔法の遣い手と変わらないと言えなくもない。
この世界には集団で行使する大規模魔法や属性を合わせる複合魔法なども存在しており、ひとりで複数の属性を持つエレン姫やナシノ女史みたいなのもチラホラいる。
その辺との兼ね合いが、判定に影響したと思われる。
後者に関しては判断が難しいところ。
特化といえば聞こえはいいが、良くも悪くも癖が強すぎる。
過去に召喚された星の勇者たちの中に、似たような能力の持ち主がいれば、ある程度は予想がつく。参考にして育てられる。
けれども枝垂の「梅」のように、まったく未知のものとなると完全にお手上げだ。経過観察にて様子を見るしかない。平時ならばともかく、いまは連合軍の再建と次世代の勇者の育成が急務である。とてもではないが、のんびり待ってなんぞはいられない。ましてや星クズ判定ならばなおのこと。かける手間と時間と予算を、より有望かつ確実な方に集中するのは、あながち間違ってはいない。
すべては巡り合わせ、諸々の条件が重なったがゆえのこと。
おかげで枝垂はコウケイ国にホームステイできたわけで……
「やれやれ、運がいいのか悪いのか。それともこれもエレン姫様の引きの強さのおかげなのかしらん」
とはいえ、そんなエレン姫もここのところ☆みっつ以上のレアカードは引けていない。わりとクジ運がいいナシノ女史も、やたらと魔鋼のインゴットばかり。
でもそれによって味方の武具や装備類は充実している。あえて地味で目立たないデザインにしている揃いの甲冑や剣は、すべて魔鋼を使った一級品である。
こんな贅沢、中央五ヶ国の精鋭部隊でもなかなか揃えられないだろう。少数精鋭だからこそ装備を行き渡らせることが可能なのだ。
小腹が空いた枝垂は「よいしょ」と上体を起こすと、ポテトチップスの小袋を召喚した。
オマケのカードはあとで開けることにして、ポテチをぱりぽり。
腹が減っては戦ができぬ。
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