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045 集いし五星たち

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 枝垂たちに遅れること一日ほど。
 周辺国からの援軍が続々と集結しつつあった。

 多数の地魔法の遣い手を動員し、六十体もの戦闘用ゴーレム軍団を引き連れてきたのは、山岳地帯のダヤ国である。あいにくと国内に鉱脈などはないが、岩塩といい土が採れるもので焼き物が盛んにて、工房が数多く存在している。
 戦闘用ゴーレムは三メートル級にて、見た目はまんまロボットでカッコいい。それが並んで地響きをさせながら歩く姿は圧巻であった。
 所属する星の勇者は岡本英二(おかもとえいじ)という日本人の大学生、宿す星のチカラは火を操るというもの。
 ダヤの国力は三十九ヶ国中、三十三位。

 国土のじつに八割が森林というカララバ国は、狩りとキノコ栽培が盛んにて、それゆえにイルノートが大きな支部を構えている。
 イルノートは、採取や動物、禍獣を専門に狙う者らが所属するハンター組合のことで大陸の各地に支部を持つ。所属できるのは一定以上の技能を認められた者のみ。そんなハンターたちを多数集っての参戦であった。中には名の知れた上位ランクのハンター集団も含まれている。
 所属する星の勇者は浩然(ハオレン)という中国人の二十代前半の青年、宿す星のチカラは氷を操る。
 カララバの国力は三十九ヶ国中、三十四位。

 年がら年中、しとしと雨が降っていることから「ぬかるみの国」とも呼ばれるチーバ国だが、そこかしこの沼で獲れるゲコゲコが侮れない。
 醜悪な見た目に反して肉は美味、革や骨に内蔵や目玉まで、いろいろ使えて捨てるところがないとまで言われるほど。しかも繁殖力が強いからいくら狩っても大丈夫。
 そんなチーバ国はトラの子の地竜部隊を派遣してきた。
 地竜はワニみたいな騎獣にて、速度こそは騎竜に及ばないものの、頑強さと当たりの強さに秀でている。
 所属する星の勇者はヴィクターという青い目をしたフランス人の男性。歳は三十半ばにてあちらでは料理人をしていた。宿す星のチカラは土を操る。
 チーバの国力は三十九ヶ国中、三十二位。

 存亡の危機を迎えているイーヤル国側は、出せるだけの騎竜と騎馬の部隊を揃えての総力戦の構え。
 所属する星の勇者は黒岩保、元パワハラ上司にて現在は癇癪持ちの困ったおっさんにて、ただいま拗らせ中。宿りし星のチカラは圧力である。
 これにコウケイ国の友軍も加わる。
 所属するのは星クズの勇者の柳川枝垂にて、宿りし星のチカラは「梅」というもの。
 なのだが今回は事前の協議により、枝垂のチカラは木偶人形を動かす「人形遣い」ということにしてある。
 各国ともに勇者に関しては、ざっくりとしか情報を公開していないし、始めから手の内を晒すわけもなく。
 しばらく様子を見ようということになった。
 それにまんざら虚偽というわけでもないし……

  ☆

 えらい人たちは対赤霧の討伐戦の作戦会議を始めた。
 枝垂はこれを遠慮する。他の勇者たちも同じであった。元軍人とかで軍事の専門家でもないかぎり、素人の意見なんぞはクソの役にも立ちはしないからだ。
 というわけで空いた時間に、勇者たちは別室で顔合わせをすることになった。
 枝垂は同期の三十九人中、唯一星クズ判定を受けたポンコツ勇者である。
 だから他国の勇者たちと会うのはドキドキだった。

「黒岩のおっさんみたいに、いきなり絡まれたらどうしよう」

 でもそれは杞憂であった。

「やぁ、キミのことは心配していたんだよ。でも元気そうで本当に良かった」

 笑顔で握手を求めてきたのは岡本英二だ。好青年である。中高生の頃は運動部に所属していたのであろう体格の良さにて、爽やかな風貌なのに瞳の奥に熱を持つ。全身から滲み出る人の好さ、いかにも主人公といった感じのお兄さんだ。

「星のチカラのことは小耳に挟んでいる。とんだ災難だったな。ったく、無理矢理連れてくるのなら、せめて最低限の仕事ぐらいはちゃんとしろよな」

 我がことのように憤慨しては天をひとにらみしたのは、浩然であった。こちらはちょっとやんちゃだけど憎めない兄貴分といった感じの人で、シモンに少し雰囲気が似ている。

「ふむ、その様子では不当な扱いは受けていないようですね。食事は大丈夫ですか? ちゃんと食べていますか? 国ごとの文化や習慣があるので、口に合っていればいいのですけど」

 枝垂の健康状態や食事についてことさら案じ、「問題ない。むしろめちゃくちゃ恵まれているぐらい。食べ過ぎでちょっと太った」との返事にヴィクターはほっとした表情を浮かべる。
 シェフらしく、その辺のことが真っ先に気になるらしいのだが、青い目をした異人さんは、これまたいい人であった。

 四人の勇者はドームでの一瞥以来の同期の再会を喜んで、互いの近況なんぞについて語る。
 英二は持ち前の前向きさにて、率先して国軍の訓練に参加しているそう。
 浩然は問答無用で森でのブートキャンプに参加させられたものの、これが存外性に合っていたらしく、いまではイルノートの支部に入り浸っては、頻繁に森に潜っているそうな。
 ヴィクターは土を操るチカラを高めるために、沼の埋め立て工事や、道路や水路の補修仕事を手伝うかたわら、ゲコゲコの調理方法の試作をしたりと、なんだかんだで楽しくやっているそうな。

「辺境の方がいろいろと緩いんだよ。……ここだけの話、中央に近いところほど、締め付けがかなりキツくて悲惨らしいぜ」

 とは浩然からの情報だ。
 国をまたいで存在しているイルノート、その支部に出入りすることで、他国のことや他の勇者らの情報をちゃっかり入手しているとは、さすがである。
 そんな枝垂たちから離れ、壁際にてひとり、憮然と酒をぐびぐび飲んでいたのは黒岩保だ。
 こちらに混ざろうとはせず、そっぽを向いている。
 まるですねた子どもみたいな態度に、若い三人はジト目だ。
 しかしヴィクターだけは違った。

「あの人の気持ち……、少しだけわかります」とぽつり。

 地球から召喚された者たちは、いなくなってもべつに困らない者らで構成されている。それは神の見地、歴史という大局から見た意味にて、影響力が強すぎる偉人では召喚先に迷惑をかけるからだ。別に個人を無価値と言っているわけじゃない。

 まだ若い枝垂たちは、そう告げられてもちょっとムッとするぐらい。
 だが黒岩やヴィクターのように、曲がりなりにも社会人として生活をしていた身としては、一生懸命に働いていたのにいきなりクビを宣告されたようなもの。「おまえはいらない」と言われたみたいで、どうにも釈然としない。
 モヤモヤした気持ちを抱えることになる。
 ヴィクターには料理という心の支えがあったから、どうにか新たな一歩を踏み出せた。
 でも黒岩にはおそらくそういうものがないのだ。だから現状を受け入れて前に進めない。
 いまの黒岩に必要なのは、同情でも一喝でも説教でもない。
 抱えるモヤモヤを理解し、吐き出させてくれる相手……

「どれ、ちょっと行ってきます」

 そう言ってヴィクターは黒岩のもとへと向かった。
 黒岩に話しかけるシェフの姿を眺めながら、枝垂が「神様ってば絶対に人選を間違えてるよ。ヴィクターさんは立派な偉人だと思う」とつぶやけば、英二と浩然もうなづいた。


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