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044 最初の一歩
しおりを挟む「すまん。うちのバカが迷惑をかけたみたいだな。あれを部屋から出すなとキツク申しつけていたのだが……」
騒動を聞きつけ貴賓室に駆けつけたリワルド王が、コウケイ国一行に深々と頭を下げた。
王みずからの謝罪を前にして、こちらはもう何も言い返せない。
ばかりか愚痴を聞かされるハメになった。
「ったく、あの野郎。自分はあっちで管理職をしていたから、組織の運営には精通しているとか豪語しやがって。試しに意見を聞いてみたら何て言ったとおもう?
部下なんぞは怒鳴りつけて、萎縮させればあとは言いなり。好きに使い倒せばいいとぬかしやがった。
まったく信じられん。あんなのが上にいて、よくその会社は潰れなかったものだ」
黒岩保……見た目通りのパワハラ上司であった。勤め先もさぞやブラック企業であったことであろう。
にしても預かっている星の勇者をバカ呼ばわり。
リワルド王は、どうやら黒岩保という人物をすでに見限っているようだ。
匙を投げるのがいささか早いかもと思う反面、あれではしょうがないのかもしれない。
イーヤル国の国力は三十九ヶ国中では、二十三位と中よりちょい下ぐらいである。
それすなわち割り振られた星の勇者の能力、期待値もそれぐらいということ。
黒岩保の星のチカラが重力を操るのならば、もっと上位判定を受けていてもおかしくはない。それこそ五ヶ国がこぞって欲しがるはず。
そこんところどうなの?
気になっていたもので枝垂がおずおず訊ねてみたら、リワルド王はあっさり教えてくれた。
「あー、それか。まず問題視されたのは奴の言動と年齢だな。ある程度の歳を重ねると、人格を矯正するのが難しくなるから。あと勘違いをしているみたいだが、あいつのチカラは『重力を操る』じゃなくて『圧力をかける』だぞ」
「「「「えっ、圧力?」」」」
上からチカラをギュッと加えて、相手の首根っこを押さえて屈服させる。
いかにもあの黒岩保らしい星のチカラといえばチカラなのだが、使い方次第ではいい働きをしそうな気もする。
たとえば敵を足止めするとか、動きを一時的に封じるとか、それこそぺちゃんこにしちゃうとか。
そんな意見をジャニスが口すれば、リワルド王は「へっ」との片笑みを浮かべた。
「俺たちもはじめはそう考えた。あいつは自尊心ばかり肥大した俗物だからな。目の前に餌をちらつかせたら簡単に喰いつく。ある意味扱いやすい。だから適当になだめすかして働かせればいいだろうとな。だが、肝心の星のチカラがあれではなぁ」
使い方次第では局面を一変させることも可能なチカラ。
けれども効果範囲を広げ、かける圧力を強めれば強めるほどに、持続時間が極端に短くなる。敵味方の区別なく影響が及ぶので、使いどころが難しい。
しかも燃費があまりよくないのか、連続して行使できない。歳のせいかすぐに息切れをする。発動にも時間がかかる。圧力のかかり方がズドンではなくて、じわじわ。
枝垂が黒岩に脅威を覚えなかったのも納得である。
彼はあまりにも未熟だ。いまだに現状を受け入れられず、異世界にて最初の一歩を踏み出せていない。
「だったらしっかり訓練を積んで、星のチカラの総量を増やすなり、チカラの使い方をもっと工夫すればいいのに……」
枝垂は呆れながら、ぽつり。
不遇な星クズの勇者が唇を尖らせれば、ジャニスや飛梅さんも腕組みにてウンウンうなづき同意する。
リワルド王はそんな若者らに好意的な視線を向けつつ。
「それがわかっていても、なかなかできなくなるんだよ。厄介なことに、ある程度歳がいっちまうとな。ついいろんなことを考えてしまって、昔みたいにがむしゃらに前だけを向いて走れなくなっちまう」
気持ちに対して体がついていかない。一念発起しても気力がすぐに萎える。環境の変化に戸惑うばかり。過去の成功体験にしがみつく。己の物差しに縛られる。新しいことをなかなか受け入れられない。なにより今の自分を冷静に直視し、過ちを認められない。
結果、頭のてっぺんからつま先までが凝り固まってしまい、根を張って一歩も動けなくなる。
「勇者召喚に巻き込まれたせいで人生が一変したんだ。黒岩のいら立ちもわからなくはない。だが泣こうが喚こうが、こうなってはもうどうにもならん。だからとっとと腹を括ってくれれば、こちらもそれなりに対応できるんだがなぁ」
リワルド王の言葉に、一同ハッとした。
どうやら枝垂たちはまたもや早とちりをしていたようだ。
王はまだ黒岩保を見限ってはいない。それどころか彼がみずから悟り、己の意思で踏み出すのを待っている。
強権を発動することも可能なのにそれはしない。
あえて言い聞かせず、静かに見守り、気づきを待つ。
優しいけれども、とても厳しい王様だと枝垂は思った。
こうなると新たに召喚された三十九名を各国に振り分けたのは、早計であったのではなかろうか。
受け入れ先との相性もあるが、これでは悪戯に追い詰め孤独を助長しかねない。
せめて星の勇者の扱いに慣れた五ヶ国にて、最低限の教育を施してから、各国にホームステイさせるべきであった。そうすれば仲間意識が芽生え、自分はひとりじゃないとの想いが支えとなったかもしれない。
……そこまで考えて、枝垂は物憂げに首を振った。
すべては今更だ。よしんばそうしていても上手くいくとは限らない。
なにせ召喚された面々は、性別年齢国籍時代などがてんでバラバラであったのだから。
物の見方が違う。考え方が違う。価値観が違う。
例えば、あのちょんまげのお侍さんだ。厳格な身分制度があった時代に生きる者と、枝垂のようにその辺の垣根が緩い時代に生きる者とでは、すぐに打ち解けられるとはとても思えない。男尊女卑や人種差別がキツイ時代の人間ならば、なおのこと。
もしかしたら三十九人の大半が、すでに使い物にならなくなっているのかもしれない。
枝垂は自分が理解あるコウケイ国に引き取られた幸運を噛みしめつつ、他国の勇者たちの無事を祈らずにはいられなかった。
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