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042 一番乗り

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 イーヤル国からの救援要請に対して、コウケイ国が出せたのは百名ばかり。
 率いるのはエレン姫にて、補佐に近衛士のジャニスがつく。これに荷の運搬係として闇魔法の遣い手であるマヌカが同行する。援軍の中には枝垂と飛梅さんの姿もあった。
 数こそ少ないが兵たちは選りすぐりの精鋭揃い。
 エレン姫は光と風という二属性持ちの才媛、ジャニスは周辺国にも知られた剣士である。マヌカもいざともなればかなり戦えるらしい。
 加えて飛梅さんもいる。
 規模は小さくとも、戦力としてはかなりのもの。
 ちなみに枝垂は星クズの勇者にて虚弱体質ゆえに矢面には立たず。かわりに裏方の補佐に徹することになっている。
 なお兵数と資金をあまり出せない代わりに、コウケイ国側は相当量の支援物資をたずさえてきた。その中には大量生産された梅印の回復ポーションも含まれている。

  ☆

 数が少ないことは悪いことばかりではない。
 その分だけ身が軽く、動きが速くなる。
 派遣が決まってすぐに準備を整えて出立したことにより、コウケイ国からの援軍は、周辺国のどこよりも先にイーヤル国へと到着した。
 これに我が意を得たりと大喜びしたのは、国王リワルド・ウル・イーヤルであった。
 なぜなら星クズの勇者が真っ先に駆けつけてくれたことにより、他国への働きかけが俄然やりやすくなったからである。
 リワルド王はもとよりそのつもりであったのだが、さりとてロバイス王がこれほどまで迅速に対応してくれるとは考えていなかった。
 だがこれにはロバイス王なりの思惑があってのこと。
 どこよりも先に駆けつけた時点で、枝垂の仕事はほとんど終わっている。

「旗印としての役目を果たしたのだから、あとはわかっているだろうな?」

 との意である。
 もちろん聡いリワルド王は委細を承知した上で、存分に星クズの勇者を利用した。

 イーヤル国の首都へと入ったコウケイ国からの友軍。
 これをわざわざ城門まで足を運び、みずから出迎えたリワルド王は、沿道にかけつけた聴衆らにわざと見せつけるようにして、盛大に歓迎の意を示す。
 エレン姫に感謝を伝え、ジャニスおよび兵士らの精悍さを褒め称え、枝垂の手をがっちり握っては大袈裟にこれをぶんぶん振った。
 まるで選挙時の政治家みたいだが、すべては計算づくの行為である。
 大衆の目にどう映り、人心が何を感じ求めているのか、またこれを知った他国がどう動くのかまでを考慮してのパフォーマンス……
 事前に「リワルド王はかなりの人たらしで、したたかだから気をつけろ」との注意をナシノ女史から受けていた枝垂は、表向きは無難な対応に終始し、内心では苦笑いするばかりであった。

  ☆

 熱烈歓迎を受け、歓声と花びら舞う都の大通りを行列にて練り歩いてから入城する。
 ちゃっかり国威発揚の駒に使われたコウケイ国一行。
 あてがわれた貴賓室にて。
 現在、室内にいるのはエレン姫、ジャニス、枝垂、飛梅さんのみ。マヌカは物資の受け渡しにいっており、兵士たちは別の場所で待機している。

 振る舞われたお茶は、ぱっと見にはミルクティーにみえたが、味の濃さが数段上にて、インドのチャイに似た飲み物であった。とても風味豊か、それでいてちょっぴりスパイシーなことに驚くも、慣れぬ長距離移動で疲れた身にじんわり染みる。独特の味だが癖になる旨さだ。
 そんなお茶を堪能しつつ「なんていうか、ここの王様ってばすごい熱量の人でしたね」との感想を零したのは枝垂であった。

 リワルド王、頭にはターバンみたいなのを巻いており、肌は浅黒く、体つきは細く見えたが握った手はカッチカチであった。あれは武の鍛錬をしっかりと積んでいる男の手だ。鼻が高く彫りの深い顔立ち、目力があって、口ひげがとてもよく似合うイケオジであった。男の色気がムンムンである。
 ぶっちゃけ、自分も将来はあんなダンディな大人になりたいと、密かに枝垂が憧れるぐらいにはイケていた。
 地位があり、仕事も出来て金もわりとある。笑うと白い歯がきらり。なおかつあの容姿であれば、種族の垣根を越えてモテモテなのも納得である。

「……じつはここだけの話、ソアラ姉さまは第四側妃あたりの立場を狙っていたみたいなんですよね」

 ひそひそ声にてエレン姫から衝撃発言が飛び出したもので、枝垂はおもわず口に含んでいたお茶を吹き出しかけた。
 しかし粉をかけられたリワルド王は、これをサッとかわしたという。
 枝垂はまだ面識はないが、聞くところによればエレン姫の下の姉であるソアラ姫は、それはもうエグイぐらいのフェロモンの持ち主らしく、実の妹をして「恋人ができても姉にだけは紹介したくない」というほどの魔性とのこと。
 ならば漁色家で名を馳せるリワルド王が、食指を動かしそうなものなのだけれども。
 枝垂が不思議そうに小首を傾げていたら、ジャニスが教えてくれた。

「さすがのリワルド王も傾国の美姫を囲う気にはなれなかったのだろう。正しい判断だと思うぞ。あれは男をダメにする甘い毒だ」

 主家の姫君を毒呼ばわり。
 自他ともに認める忠臣に、そこまで言わせるソアラ姫っていったい……

 その時のことであった。和やかな場の空気が一転する。
 扉の向こう、表が急にガヤガヤ騒がしくなったとおもったら、何者かの恫喝がして、ノックもなしにいきなりドアが開いた。
 ドスドス床を踏み鳴らし入ってきたのは、小太りのおっさんである。部屋の警護に立っていたイーヤル側の兵士たちの制止を振り切っての、強引な乱入であった。
 こちらを値踏みするかのような不快な目つき、室内の者らを順繰りにねめつけたあげくに、視線は枝垂のところでピタリととまった。

「俺はイーヤル国の勇者の黒岩保(くろいわたもつ)だ。おまえか? 星クズの役立たずのガキってのは」

 態度のみならず物言いも横柄、そんな男を前にして枝垂がぼんやり思い浮かべていたのは「パワハラ上司」とか「セクハラ上司」という言葉であった。
 それと同時にこうも思った。

「あー、こんな大人にだけはなりたくない」とも。


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