42 / 242
042 一番乗り
しおりを挟むイーヤル国からの救援要請に対して、コウケイ国が出せたのは百名ばかり。
率いるのはエレン姫にて、補佐に近衛士のジャニスがつく。これに荷の運搬係として闇魔法の遣い手であるマヌカが同行する。援軍の中には枝垂と飛梅さんの姿もあった。
数こそ少ないが兵たちは選りすぐりの精鋭揃い。
エレン姫は光と風という二属性持ちの才媛、ジャニスは周辺国にも知られた剣士である。マヌカもいざともなればかなり戦えるらしい。
加えて飛梅さんもいる。
規模は小さくとも、戦力としてはかなりのもの。
ちなみに枝垂は星クズの勇者にて虚弱体質ゆえに矢面には立たず。かわりに裏方の補佐に徹することになっている。
なお兵数と資金をあまり出せない代わりに、コウケイ国側は相当量の支援物資をたずさえてきた。その中には大量生産された梅印の回復ポーションも含まれている。
☆
数が少ないことは悪いことばかりではない。
その分だけ身が軽く、動きが速くなる。
派遣が決まってすぐに準備を整えて出立したことにより、コウケイ国からの援軍は、周辺国のどこよりも先にイーヤル国へと到着した。
これに我が意を得たりと大喜びしたのは、国王リワルド・ウル・イーヤルであった。
なぜなら星クズの勇者が真っ先に駆けつけてくれたことにより、他国への働きかけが俄然やりやすくなったからである。
リワルド王はもとよりそのつもりであったのだが、さりとてロバイス王がこれほどまで迅速に対応してくれるとは考えていなかった。
だがこれにはロバイス王なりの思惑があってのこと。
どこよりも先に駆けつけた時点で、枝垂の仕事はほとんど終わっている。
「旗印としての役目を果たしたのだから、あとはわかっているだろうな?」
との意である。
もちろん聡いリワルド王は委細を承知した上で、存分に星クズの勇者を利用した。
イーヤル国の首都へと入ったコウケイ国からの友軍。
これをわざわざ城門まで足を運び、みずから出迎えたリワルド王は、沿道にかけつけた聴衆らにわざと見せつけるようにして、盛大に歓迎の意を示す。
エレン姫に感謝を伝え、ジャニスおよび兵士らの精悍さを褒め称え、枝垂の手をがっちり握っては大袈裟にこれをぶんぶん振った。
まるで選挙時の政治家みたいだが、すべては計算づくの行為である。
大衆の目にどう映り、人心が何を感じ求めているのか、またこれを知った他国がどう動くのかまでを考慮してのパフォーマンス……
事前に「リワルド王はかなりの人たらしで、したたかだから気をつけろ」との注意をナシノ女史から受けていた枝垂は、表向きは無難な対応に終始し、内心では苦笑いするばかりであった。
☆
熱烈歓迎を受け、歓声と花びら舞う都の大通りを行列にて練り歩いてから入城する。
ちゃっかり国威発揚の駒に使われたコウケイ国一行。
あてがわれた貴賓室にて。
現在、室内にいるのはエレン姫、ジャニス、枝垂、飛梅さんのみ。マヌカは物資の受け渡しにいっており、兵士たちは別の場所で待機している。
振る舞われたお茶は、ぱっと見にはミルクティーにみえたが、味の濃さが数段上にて、インドのチャイに似た飲み物であった。とても風味豊か、それでいてちょっぴりスパイシーなことに驚くも、慣れぬ長距離移動で疲れた身にじんわり染みる。独特の味だが癖になる旨さだ。
そんなお茶を堪能しつつ「なんていうか、ここの王様ってばすごい熱量の人でしたね」との感想を零したのは枝垂であった。
リワルド王、頭にはターバンみたいなのを巻いており、肌は浅黒く、体つきは細く見えたが握った手はカッチカチであった。あれは武の鍛錬をしっかりと積んでいる男の手だ。鼻が高く彫りの深い顔立ち、目力があって、口ひげがとてもよく似合うイケオジであった。男の色気がムンムンである。
ぶっちゃけ、自分も将来はあんなダンディな大人になりたいと、密かに枝垂が憧れるぐらいにはイケていた。
地位があり、仕事も出来て金もわりとある。笑うと白い歯がきらり。なおかつあの容姿であれば、種族の垣根を越えてモテモテなのも納得である。
「……じつはここだけの話、ソアラ姉さまは第四側妃あたりの立場を狙っていたみたいなんですよね」
ひそひそ声にてエレン姫から衝撃発言が飛び出したもので、枝垂はおもわず口に含んでいたお茶を吹き出しかけた。
しかし粉をかけられたリワルド王は、これをサッとかわしたという。
枝垂はまだ面識はないが、聞くところによればエレン姫の下の姉であるソアラ姫は、それはもうエグイぐらいのフェロモンの持ち主らしく、実の妹をして「恋人ができても姉にだけは紹介したくない」というほどの魔性とのこと。
ならば漁色家で名を馳せるリワルド王が、食指を動かしそうなものなのだけれども。
枝垂が不思議そうに小首を傾げていたら、ジャニスが教えてくれた。
「さすがのリワルド王も傾国の美姫を囲う気にはなれなかったのだろう。正しい判断だと思うぞ。あれは男をダメにする甘い毒だ」
主家の姫君を毒呼ばわり。
自他ともに認める忠臣に、そこまで言わせるソアラ姫っていったい……
その時のことであった。和やかな場の空気が一転する。
扉の向こう、表が急にガヤガヤ騒がしくなったとおもったら、何者かの恫喝がして、ノックもなしにいきなりドアが開いた。
ドスドス床を踏み鳴らし入ってきたのは、小太りのおっさんである。部屋の警護に立っていたイーヤル側の兵士たちの制止を振り切っての、強引な乱入であった。
こちらを値踏みするかのような不快な目つき、室内の者らを順繰りにねめつけたあげくに、視線は枝垂のところでピタリととまった。
「俺はイーヤル国の勇者の黒岩保(くろいわたもつ)だ。おまえか? 星クズの役立たずのガキってのは」
態度のみならず物言いも横柄、そんな男を前にして枝垂がぼんやり思い浮かべていたのは「パワハラ上司」とか「セクハラ上司」という言葉であった。
それと同時にこうも思った。
「あー、こんな大人にだけはなりたくない」とも。
1
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~
ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。
城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。
速人は気づく。
この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ!
この世界の攻略法を俺は知っている!
そして自分のステータスを見て気づく。
そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ!
こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。
一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。
そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。
順調に強くなっていく中速人は気づく。
俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。
更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。
強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
カクヨムとアルファポリス同時掲載。
目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し
gari
ファンタジー
突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。
知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。
正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。
過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。
一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。
父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!
地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……
ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!
どうする? どうなる? 召喚勇者。
※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる