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039 農家の星

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 パパパパパパパッ!

 空へ向けて放たれるのは枝垂の種ピストルだ。
 処は城下町の郊外にある段々畑にて、イモ堀りの上前をはねようとするカーラスどもへの威嚇射撃である。

 カーラスはのらりくらりと畑の上を旋回しては、収獲物をくすねる機会を虎視眈々と狙っている害鳥だ。これを追い払おうと魔法を放っても、カーラスは魔力察知に長けており、ひらりとかわしては「カカカカカ」と嘲笑する。
 優れた射手ならば弓矢で仕留めることも可能だが、ぶっちゃけ矢がもったいない。真っ直ぐよく飛ぶいい矢は、けっこう高いのだ。

 しかしこれが枝垂の種ピストルだと、タダの上にじつに面白いように当たる。
 理由は種ピストルが魔法ではなくて、星クズの勇者のチカラによる攻撃だから。
 もっとも威力はさほどではないから、当たってもせいぜい「イタタタタ」と痛がる程度だけれども。
 それでも根性なしで、真面目に働いたら負けだと考えている怠惰なカーラスどもは「バーカ、バーカ」と逃げていく。

 いまや枝垂はカーラス払いのエキスパートとして、島内に勇名を轟かせていた。農家の希望の星として、あちこちからお呼びがかかるほどに大人気だ。おかげでスケジュールはそこそこ先までびっちり埋まっているので、シモンたちと遊ぶ暇もありゃしない。
 だが人気の理由はそれだけではない。
 これはつい最近になってナシノ女史が解明したのだけれども、枝垂が景気よくバラ撒いている梅の種(発芽しないタイプ)なのだが、放置していてもじきに粉々に砕けて勝手に土へと還るばかりか、けっこういい肥料になることがわかった。
 つまり紫イモ農家さんにとっては、小憎たらしいカーラスを追い払ってくれるだけでなく、畑まで富ませてくれるものだから「遠慮せずに、じゃんじゃん撃ってくれ」なのである。
 でもって枝垂にとっても素早く動く生きた的相手に、いい訓練になるから、双方にとってメリットがあるという次第。

 華麗なる種ピストルの二丁流にて、収獲されたばかりの紫イモの山を狙うカーラスどもを次々と迎撃していく。
 やがて空が茜色に染まる頃、カーラスどももようやく諦めて巣へと帰っていった。
 死闘は終わった。
 ふぅ、今回は危なかった。まさかカーラスどもが二個小隊ほども群れをなしては、人海戦術をとってこようとは……

  ☆

 仕事を終えて帰路につく。
 城へと戻る道すがら、どこからともなくあらわれた飛梅さんが合流する。
 飛梅さんはカーラス払いには参加しない。前に一度参加したことがあったのだが、畑に大きなクレーターをいくつも作ったもので、依頼主がカンカンとなって、主従ともどもしこたま怒られた。
 だからそれ以降、飛梅さんは枝垂の仕事を物陰からひっそり見守る役に徹している。

 ふぅ、枝垂はため息をつく。
 じつは飛梅さんのパワーアップ計画はあまり進んでいない。
 ポテトチップス梅おかか味。トレーディングカード付なのだが、現在の枝垂では一日に十袋を召喚するのがやっと。
 だがこれはあくまで最大数にて、枝垂には他にも飛梅さんへの燃料チャージという役割りがある。星のチカラを使い切ってしまうと、寝込んでしばらく動けなくなることを考慮すれば、いざという時のためにも余力を残しておく必要がある。
 だから城の大人たちとの協議にて、ポテチは一日五袋まで。
 これでしばらく様子を見ようということになった。
 当然ながらオマケのとんでもカードを世にだせるわけもなく、存在を知るのは定例会のメンバーのみ。
 なお枝垂のたっての希望にて、クラスメイトの子どもたちにはハズレのカード無しのポテトチップスのみが、ときおり提供されることとなった。

 オマケのカードは二枚組なので、毎日ゲットできるカードは十枚のみ。
 あれからこつこつ引き続けてはいるものの、☆四つのアルティメットレアの綺羅カードがでたのは一度きりにて、それを引き当てたのはまたしてもエレン姫であった。
 二枚目の綺羅カードは『飛梅専用装備通常版フルアーマー・胸当て』という品。
 にしても、姫様はやはり引きが強い。
 一方で引きが最悪なのが枝垂とロバイス王である。
 良くて☆ひとつ、あとはハズレだらけにて、とにかくクジ運がない。
 あまりの不甲斐なさに、ついにはディラ王妃から笑顔で「貴方たちはオマケを開けるの禁止ね」と言い渡されてしまった。

 手に入れた飛梅さんの装備類は、枝垂の亜空間収納「梅蔵」に保管されている。
 その「梅蔵」なのだが、いつのまにやら大きくなっていた。
 使える壺のサイズが小から中となり、壺の容量は八リットルから十五リットルとなり、小壺で五つ程度の収納量が、中壺で七つほどにまで拡大する。
 壺に入れないと出し入れできないのは相変わらずだが、なぜだか飛梅さんの装備類だけはその縛りを受けないというナゾ仕様。
 まぁ、ちんぷんかんぷんなのは今更なので、真面目に考えるだけムダだと枝垂は達観し「これはそういうもの」と割り切っている。
 でもってそんな「梅蔵」は飛梅さんとも共用になっているから、彼女の任意にて装備類を出し入れしては、瞬間着脱が可能だ。

「にしても気になるのが綺羅カードにあった『通常版』の文字なんだよねえ。わざわざ書いてあるということは、それ以上のシロモノもあるということ。でもって☆四つというのも、ちょっと中途半端なんだよなぁ」

 枝垂は自分の右手の甲に刻まれた六芒星をちらり。
 星の勇者たち全員に刻まれたコレ……六という数字が何を意味しているのかはわからない。でもただの適当というわけではないはず。
 だとすればカードの等級には、さらに上があるのかもしれない。
 もっともいまのペースでは、いいカードが引き当てられるのはずっともっと先になりそうだけれども。
 全種類コンプリートの道は果てしなく遠い。
 というか何種類あるのか見当もつかない。
 せめてナンバリングでも表記されていたらよかったのに……

「まぁ、焦ってもしょうがないか。ちびちびがんばるしかないよね」

 枝垂がフンスカ鼻息荒くやる気をみせれば、飛梅さんが「がんばれ」と言わんばかりに両の拳をグッと握る。
 けれどもこのときの枝垂はまだ知る由もなかった。
 星クズの勇者の成長をのんびり待ってくれるほど、異世界ギガラニカを取り巻く状況は甘くないということを――


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