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036 オマケ
しおりを挟む星クズの勇者のチカラにより、新たに出現したのは「ポテトチップス梅おかか味。トレーディングカード付」という奇妙な品であった。
いかなる仕組みかはわからないものの、きちんと食べないとオマケのカードを確認できないようになっている。
オマケ目当てに本体の方を粗略に扱うのは決して許さない。ちゃんと残さず喰え!
パッケージ裏に掲載されている文言からは、製造元の確固足る意思が読み取れる。
けれども言ってることはすこぶる正しい。
だからとりあえず食べてみたところ……
「おっ、旨いなコレ。パリパリした食感が面白い。ほんのり塩味がするのと、梅の爽やかな酸味、魚介の風味が合わさって、いい感じだ。似たような菓子ならばあるが、あっちはちと甘いからなぁ。私はこっちの方が断然好きだな」
ポテトチップスを摘まんだジャニスが絶賛する。
なお彼女が言っていたお菓子は、紫イモを薄くスライスして油であげたシンプルなオヤツと、ふかしたイモをすり潰してこねて生地にし型抜きしたのを、やはり油であげたお菓子のこと。
前者はカリカリしており素朴な味わい。後者はサクっと口当たり軽く、ほろほろと崩れるような食感とやや甘味が強いのが特徴である。
どちらも枝垂は食べたことがあり、あれはあれで美味しい。
梅おかか味のポテトチップスを実食した枝垂は「うん、まんまだね」
昔から愛され続けるお馴染みの味だ。鉄板にして王道、でもだからこそ安心して飽きずに食べ進められる。移り変わりの激しい世の中にあって、変わらぬ味を伝え続けてきた。さすがの貫禄であろう。
ジャニスはよほど気に入ったのか、枝垂が三枚ばかりかじっている間に、袋の中身をすべて平らげていた。
するとあれほど強固であったカードのパッケージの封があっさり開いた。
お目見えしたのは二枚のカードである。オマケは二枚組であった。
「えーと、どれどれ一枚目のカードは……と、何コレ?」
枝垂は目をぱちくりさせた。
カードの上の隅には☆印のマークがひとつある。
おそらくこれはカードのレアリティ、いわゆる希少度を示しているのだろう。☆印が増えるほどにレア物ということ。
それはまぁ、いいとして問題なのは描かれているイラストだ。
長方形の塊にて、鉄のインゴットと表記されている。
インゴット――
製錬後,鋳型に流し込んで固形化させた金属塊のこと。
これには枝垂も「えー」と首をひねるばかり。
お菓子のオマケのカードの絵柄に、鉄の塊ってさすがにどうよ?
はっきり言って、ちっとも嬉しくないし、ガッカリ感が半端ない。
枝垂は手にしたカードを返すがえす眺めながら、ぶつくさ文句を口にする。
でもカードを裏返した時のことであった。
ゴトリと足下で音がしたもので、見てみたら地面に鉄の塊が転がっていた。
枝垂とジャニスは、いきなりあらわれた鉄のインゴットを凝視する。飛梅さんだけは平然としている。なお黒光りするインゴットの表面には、梅の字の刻印が控えめに施されていた。
「まさかとは思うが枝垂、もしかしてソレって……」
「たぶんジャニスさんのお察しの通りかと。このカードから出てきちゃったみたいですね、ははは」
「出てきちゃったって、おまえ……。あー、ちょっと待ってくれ。少し時間をくれ。いったん落ち着きたい」
「おや、奇遇ですね。僕もですよ」
ジャニスと枝垂はふたりして「すぅはぁ」と大きく深呼吸をし、空を見上げては流れる雲を眺め、そよ風を感じ、しっかり気分を落ち着かせてから、意を決して「「せーの」」で現実を直視する。
うん。夢でも幻覚でもなかった。
黒い鉄の塊は確かにそこにあった。
カチンコチンにて重たくて、たぶん本物。
ふたりは揃って頭を抱えた。飛梅さんもブームに乗り遅れまいと、その仕草のマネをする。
「おい、枝垂。さすがにこれはぶっ飛び過ぎだ。ちょっとシャレにならんぞ」
「うぅ、そんなこと言われなくてもわかっていますよジャニスさん」
オマケのカードに描かれているモノが具現化する。
絵に書いた餅が本当になるわけだ。
☆印ひとつでコレである。激レアとかになったら、いったい何が飛び出すことになるのやら。
なおもう一枚のカードは☆無しにて、出てきたのはオマケなしのポテトチップスの小袋であった。
う~ん、ハズレなのかアタリなのか、ちょっと判断に迷うところだ。
斜め上へと突き進む星クズの勇者の成長、あるいは暴走か。
この不測の事態はすぐにナシノ女史を通じて王様に報告されて、関係者一同揃って「なんてこったい!」と頭を抱えることになった。
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