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025 花見報告会 後編
しおりを挟むあわやというところで颯爽と登場し、枝垂を窮地から救った謎の木偶人形。
黒鉄級の海の禍獣をボコボコにしてから、負傷し昏睡状態にあった枝垂をジャニスに託すなり、すぐにいなくなってしまった。
その後、懸命な捜索にもかかわらず、行方はようとして知れない。
「城の方へ飛び去ったとの目撃情報から、近隣および城内をもくまなく探してみたのですが、いまだ発見には至らず……」
面目なく言い淀むジャニスだが、ナシノ女史は顎に手をあて「ふ~ん、そうなの」とだけ。
「たしかに行方や正体は気になるけれども、少なくとも敵ではないみたいですし。いずれ枝垂が目覚めれば何かわかるでしょう。それよりも――」
ナシノ女史は話題を変えた。
言及したのは枝垂の星のチカラについてである。
「枝垂に宿った星のチカラですが、梅干し及びそれに類する物、または梅の木を生やし花を咲かせるなど。あくまで梅にかかわることに限定されているのは、すでにご承知のこととおもいますが、あらためてわかったことをいくつかご報告させていただきます。
まずカリカリ梅ですが、軽微ながらも疲労回復および、解毒作用や魔力の回復がすることが判明しています。まぁ、食べたらちょっと元気になったかな? という程度ですが。
あと梅干しの保管場所に困っていたら、『梅蔵』なる亜空間収納が顕現しました。
もっとも容量は小さく、壺に入れた物しか収納できないので、用途はかなり絞られるかと。
……で、問題なのは梅干しの方ですね。
こちらに関してはアラバン、貴方が説明しなさい」
ナシノ女史に促されて、アラバンが「では僭越ながらご報告させていただきます」と口にしたのは、彼が密かに取り組んでいた解析結果であった。
虚弱体質ゆえに、枝垂はよく医務室の担ぎ込まれてくる。いまではすっかり常連だ。
よく顔を合わせるうちに、自然と気安い間柄となった枝垂とアラバン。
そのうちにアラバンは枝垂から、梅干しが酒のつまみになることや、酒に梅干しを直接浸して楽しむ飲み方があることを聞いた。
さっそくコウケイ国の特産である紫イモの酒で試してみたところ、これがなかなかイケることがわかったもので、アラバンはすっかり味を占めた。
おかげで酒量はますます増えたのだが、そのわりには次の日になると体調がすこぶる良い。寝起きも爽やかだし、加齢による節々の痛みもいつのまにか失せている。それこそ飲めば飲むほど元気になっているような……
そこで「もしかして」と考えたアラバンが調べてみたところ、梅干しを入れた酒が回復ポーション化していることが判明する。
効果は中級程度ながらも、通常の品に比べて効能は多岐に渡り、ほぼ万能薬に近い性質を持つ。中毒性もなく使い勝手はかなり優れている。
唯一の欠点は、お酒ゆえに子どもや下戸には服用できないことぐらいか。あと当然ながら飲み過ぎれば酔っ払うから注意が必要である。
「ですが枝垂によると梅の果実水や、酒精の弱い梅酒なる物もあるらしく、そちらでしたら子どもや酒が苦手な者でも飲めるそうです。ですので、ただいま試作中にてこちらの成果はいずれまた」
アラバンが報告を締めくくったところで、ナシノ女史が話を引き継ぐ。
梅干し自体にも様々な効能があり、どうやら大粒かつ肉厚で、枝垂としては上等な部類になる品であればあるほどに、含まれる有効成分が高まる傾向にある。
単体でも役に立ち、酒に漬けたものを濃縮すれば中級万能ポーションが上級に、希釈すれば下級になる。
それすなわち、ほぼ元手いらずでポーションの大量生産が可能ということ。
なお梅干しの特性からして長期保存もできるようだが、こちらは要検証である
☆
ナシノ女史とアラバンからの報告に、エレン姫とジャニスは絶句し、ロバイス王は「とんでもない話だな」と眉間にしわを寄せ、ディラ王妃は「コウケイ国としては喜ばしいことなのでしょう。けれども……」と事態を憂う。
星クズの勇者は、歴代の星の勇者たちに比べるとかなりの異例尽くし。
直接戦うチカラはなく、非力にて、とても弱い。
だがその能力は奇抜な派生をみせており、方向性や行きつく先がまったく予想できない。
加えて枝垂は、一夜にして荒れ地に花を咲かせる。
そのチカラを応用し、単独にて黒鉄級の禍獣をあと少しのところまで追い詰めた。本来ならば海洋生物ゆえに、陸に上がって弱体化していることを考慮しても、これは同期の勇者らと比べても破格の戦果であろう。
生やした梅の木が、荒廃した土壌や周囲の環境にどのような影響をもたらすのかは、いまはまだ経過観察中にて、詳しいことはわかっていない。
けれども、もしもだ。もしも本当に汚染された大地を蘇らせるチカラがあるとすれば、それはとんでもないこと!
このことが中央の連中にバレたら、きっと厄介なことになる。
大陸中が引っくり返っての大騒ぎ。立場は一転して良くなるかもしれない。
だが、周囲の手のひら返しが必ずしも枝垂のためになるとは限らない。
「……してジャニスよ、星の勇者たちを巡っての諜報戦はどうなっている? 五ヶ国を中心にして、腹の探り合いがますます激しくなっていると聞くが」
「はっ、おおむね王の仰る通りです。ですが、いまのところはまだこちらにまでは手が回らないようでして。間者らしき者が入島したという報告もありません。いずれラジール様から便りが届けば、もう少し詳しいこともわかるかと」
ラジールとは、ロバイス王の息子である。
四兄妹の長兄にしてコウケイ国の王太子という立場でありながら、志願して連合軍に身を投じている。
しかしこれは本来ならばあり得ないこと。
だが王族みずからが子飼いの精鋭を引き連れ戦場へ赴くことによって、コウケイ国としては面目が立ち、遠方の離島の小国ゆえに物資の支援のみにて、荒野への軍の派遣を免除されているのだから、痛しかゆしといったところ。
「そうか……では、エレン。悪いが引き続き腕輪の調整の方を頼む。今回の討伐記録は抹消しろ。あんな情報が中央にあがったら、ろくなことにはならん。しょせんは一時しのぎかもしれんが、次の連合評議会まで時間を稼ぐんだ。その頃ならば他の勇者たちも成長しており、枝垂が悪目立ちすることもなかろう」
連合評議会とは半年後に開催予定になっている国際会合にて、各国の代表が預かった勇者をその場に持ち寄っては、成長具合を披露することになっている。
いわば勇者の品評会みたいなもの。
五ヶ国が連名により開催を主張し決定したのだが、おそらくはそこで自分たちが育てた星の勇者たちのチカラを見せつけ、格の違いを他国に知らしめ、今後は余計な差し出口を挟まないようにと念を押すつもりなのだろう。
しょうもない催しだ。だが取り決めにより三十九ヶ国は、すべて参加することになっている。さすがに不参加とはいかない。
「みな、コウケイ国の未来を救ってくれた恩人である枝垂を引き続き支えてやって欲しい」
ロバイス王の言葉に一同は決意も新たに頷く。
そのタイミングで「枝垂が目を覚ました」との朗報が届いた。
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