星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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021 フラグ回収

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 地引き網漁、めちゃくちゃ魚が獲れた。
 そのせいであんまりにも網が重たいものだから、危うく破れそうになったほど。
 子どもだけでは揚げられず、途中から教師や居合わせた大人たちも総出での作業となった。
 おかげで昼食の海鮮浜焼きパーティーは超豪華になった。
 ジュウジュウと熱せられた網の上で、美味そうな匂いを漂わせている魚介類たちを前にして、枝垂が「どれも美味しそうだなぁ」とじゅるりヨダレを垂らしていたら、ピピーッと笛が鳴った。
 パーティー開始の合図。
 なのだが、とたんに腹を減らしている子どもたちが一斉に獲物へと群がり、たちまちそこかしこで始まったのは争奪戦である。
 獣人、類人、蟲人の子らが入り乱れての大乱闘。
 ただでさえワンパクな連中が、いっそうのワンパクぶりを発揮している。
 さなかに先生の怒号が飛んだ。

「ピピピーッ、こら、そこっ! 魔法はやめなさいっ。あとそっち、ちゃんとお皿を使いなさい! それから手掴みはダメ!」

 ひとり出遅れた枝垂は、取り皿片手に呆然とその光景を見ているばかり。さすがにあそこに飛び込む勇気はない。
 うん、無理。よくて全身骨折、最悪、死ねる。
 だから枝垂は早々に断念し、周囲をきょろきょろ。
 すると脇にて山盛りで放置されている海藻を発見した。

「ワカメっぽいし食べられるかな、もぐもぐ……」

 意外にも肉厚で、独特のヌメリが癖になる味だった。ふむ、これは悪くない。
 まかないのオバちゃんに頼んで包丁を借り、細かく千切りにして麺類みたいにしたら、さらに美味しくなった。
 だからもっと食べようとしたのだけれども、枝垂は忘れていた。
 子どもがマネしたがりだということを。
 枝垂がズルズルとワカメソーメンを啜っていたら、それを見た子どもたちがこぞってマネをしだしたもので、残っていたワカメっぽい海藻はたちまち無くなってしまった。
 だが天は哀れな星クズの勇者を見捨てなかった。
 焼き網の隅っこに、誰からも見向きもされない巻貝を発見する。
 形はサザエに酷似しているが、不思議と子どもたちは手をのばさない。
 だから枝垂が手に取って小首を傾げていたら、まかないのオバちゃんが教えてくれた。

「あー、それね。ほら、ちょっと磯臭いだろう。それに胆が苦いから、子どもたちはあんまり好きじゃないんだよ」

 この海鮮バーベキュー、お残しは厳禁である。
 いったん手にとったら責任を持って食べなければならないという、鉄の掟がある。
 それゆえに身のところだけかじって、胆を捨てることができない。
 だから子どもたちはみなこの巻貝を敬遠していたのであった。
 しかし枝垂は十六歳、サザエもどきの胆ごとき、おそるるに足らず。
 というわけで、いざ、実食!

 もぐもぐもぐもぐ……

 うん、とっても苦い。大人のほろ苦さとか以前の問題だった。身もコリコリじゃなくてゴリゴリだ。歯ごたえがありすぎて顎がしんどい。そりゃあ子どもたちが敬遠するのも無理からぬ、納得のマズさだ。
 しかめっ面で口を動かしている枝垂に、子どもたちがキャッキャと笑う。

 なんてこともありながら、昼食会は和気あいあいと盛り上がっていたのだけれども、そんな楽しい時間は唐突に中断された。

 カーンッ! カンッ! カーンッ! カンッ! カカーンッ!

 激しい鐘の音、警鐘だ。
 音は漁港のある方から聞こえてくる。
 城内の鐘塔は知っていたが、こちらにも同様の物が設置されているらしい。
 枝垂の耳では区別がつかないのだけれども、鐘の鳴らし方によって報せる内容がわかるようになっているそうな。
 警鐘にざわついていた浜辺が、まるで潮が引くようにして静まり、それと入れ替わるようにしてただならぬ不穏な気配が漂い始める。
 大人たちの表情がみるみる険しくなっていき、子どもたちには怯えの色が見えた。
 楽しい雰囲気が一変した。緊迫した空気に枝垂はごくりとツバを呑み込む。
 そこにシモンが寄ってきて、小声で囁く。

「おい枝垂、すぐにみんなを集めて城に引きあげるぞ。海の禍獣が出たんだ。黒鉄級だ」

 禍獣は動物が変異してモンスター化したものである。
 討伐難易度により五段階の等級が定められており、黒鉄級はちょうど真ん中ぐらい。
 ならば、さほど慌てることもないのでは、と言いたいところだが……
 陸と海とでは、いささか事情が異なる。
 外洋の荒波や深海にて自在に動ける海の禍獣は強力にて、黒鉄級は黒鉄級でも、限りなく白銀級に近い上位種と考えるのが妥当である。
 白銀級といえば災害レベルで、国で対処するような相手だ。
 みんなの顔色が変わるのも当たり前。
 だから教師陣がすぐに子どもたちの避難誘導を始めたのだけれども、そんな矢先のことであった。

 沖合にて巨大な水柱が上がった。
 海中より宙へと踊り出たのは――アレはなんだ? 怪獣?
 呆気にとられる浜辺の一同。
 だが直後に誰かが叫ぶ。

「いかん! すぐに高い所へ逃げろ。波が来るぞーっ」

 一本の水柱により海が波打ち揺れる。
 発生した波が浜辺へとのそり、近づいてくる。
 ゆっくり近づいているように見えるけれども、実際にはかなり速い。そしてここは入り江になってる。
 たちまち水位があがり、波の背がぐんとのびた。


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