星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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020 金の腕輪

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 うんしょ、よいしょ。
  うんしょ、よいしょ。
   やれ引け、それ引け。

 初等部の生徒たち、みんなでチカラを合わせて地引き網を引く。
 類人、獣人、蟲人の子どもたちが揃っての共同作業。
 他校生同士、はじめのうちは微妙にあった心の距離も、作業を進めるうちにググッと縮まった。
 食べ物で釣る作戦が功を奏し、枝垂も仲良く混じって網を引いている。
 カリカリ梅は男子たちの心をわし掴みにし、梅キャンディーは女子たちから好評にて、親が商家を営んでいる子どもからは「うちで売らないか?」とのうれしいお声がけまで頂戴した。勇者をクビになったら、梅干し関連商品の卸し問屋でやっていくのもアリかもしれない。

 枝垂はニマニマしつ、網を持つ手にチカラを込める。
 もっとも枝垂は虚弱体質にて、さして貢献はできていないけれども。
 まだまだ周囲は余裕顔なのに、早くも汗だくにて息が上がっている枝垂だが、その左腕には金の腕輪があった。浜辺の陽光を受けてキラリと光る。

「枝垂くん、その腕輪、かっこいいねー」
「あっ、本当だ。オシャレさんだぁ」
「いいなぁ」
「ねえねえ、どこで買ったの? 教えてよ」

 いっしょに作業をしている同じ組の子どもたちが、目敏く腕輪に気がついて話しかけてきたもので、枝垂は照れ笑いしつつ。

「あー、じつはコレ、買ったんじゃなくて姫さまにもらったんだ。つねに身につけておくようにって」

  ☆

 今朝方のことである。
 出がけにエレン姫から渡された。
 そのやりとりの際に、エレン姫はこんなことを言っていた。

「ごめんなさいね。本当はもっと早くにお渡しするつもりだったのだけど、おもいのほか改造が……えー、コホン、失敬。もとい調整に手間取ってしまいまして」

 腕輪は星の勇者に支給される装備品にて、身分を証明する物でもある。
 もちろんただのタグなんぞではない。シンプルなデザインながらも高性能な魔道具、いくつも機能が付いている。

 血圧やら脈拍数に体温などのバイタルのみならず、日々様々なことを自動で記録しては、勇者の健康および個人情報を管理してくれる。
 発信機も内蔵されており、うっかり勇者が迷子になっても大丈夫、居所がすぐにわかるようになっている。外したり壊したりしたらすぐにバレるようになっているから、逃亡防止の首輪と言えなくもない。
 他にもこの腕輪は魔道具の起動キーの役割りを果たす。

 なにせ地球から召喚された者たちは魔法が使えない。体内に魔力を司る器官がないからだ。だがここギガラニカは魔法と機械が融合した超文明にて、周囲には魔力を用いる便利な道具が溢れている。使うのはとっても簡単、スイッチをポチっとするだけ。だが、その際に微量の魔力を流す必要があるのだ。
 よってせっかくの便利な道具も、星の勇者たちには使えない。部屋の照明ひとつつけるのにも誰かの助けが必要となる。この不便な状況を改善するのが腕輪によるサポートであった。

 ――と、ここまでは通常の腕輪の話。
 先ほど姫さまが言いかけていたように、枝垂に渡された腕輪には魔改造が施されている。
 新たに組み込まれたのは、防護機能である。
 なにせ枝垂は弱い。
 七才のケモミミっ子に腕相撲でひとひねりにされ、駆けっこをすればぶっち切られ、クラスメイトとのハイタッチにて両肩を脱臼し、近頃ようやく字が読めるようになってきたもののまだまだ頼りなく、イモ畑でのカーラス払いには活躍するけど、それ以外はまるでダメ。森の浅いところにいるニッキーマウスやビコニャンに追いかけられては、キャアキャア逃げ惑う体たらく。ならばと防具をみつくろえば重くてろくに動けず、武器に関しては言わずもがな。試しに剣の素振りもやってみたけど、あまりのへっぴり腰にジャニスから「時間のムダだ、やめておけ」と言われたので、すぐに諦めた。

 それでも枝垂はがんばっている。
 毎日、あれこれ試行錯誤しては能力開発に勤しみ、体力向上を目指して筋トレやら走り込みなんかもしている。
 けれども、急にムキムキボディになれるわけがない。
 そこで腕輪の防護機能だ。
 つい先日、クラスの女子らとの町ぶらにて立ち寄った魔道具屋でみつけた青い輝石の指輪のような、なんちゃって防犯グッズとはちがう。こちらは本物である。
 たいていの攻撃は完璧に防ぐ。吹き飛ばされもしない。
 ただし、それゆえに魔力の消費が激しく、使用できるのは三回のみ。
 かなり上質な輝石が組み込まれており、シールドを使うごとに青、黄、赤と色が変わっては残りの使用回数がひと目でわかるようになっている。
 発動は任意にて、魔力を再充填すれば繰り返し使用できるエコ仕様がうれしい。

「もしもの時には、とりあえずそれでしのいで下さい。すぐに駆けつけますから。だから絶対に無茶はしないように。まずは己の身を守ること! 自分が生き残ることだけを考えて行動して下さい」

 とも、エレン姫から強く言われている。
 でも金の腕輪を貰った枝垂は密かにこんなことを考えていた。

「えーと、これってフラグじゃね?」と。


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