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016 魔法の授業
しおりを挟む女子たちとの町ぶらはそれなりに楽しかった。
でも枝垂は結局何も買わなかった。
こちらの知識や常識に疎く、字もようやく読め始めたばかり、ヨチヨチ歩きの枝垂では、品物の良し悪しの見極めが出来ずに、コロリと店主や店員の売り文句に騙されそうになる。
その都度、テリアをはじめとして女性陣たちからのモーレツなツッコミが入った。
かといって女子たちのお眼鏡に叶う品があっても、肝心の枝垂が使いこなせそうにないという体たらく。
あちらこちらを見て歩き、甘味処でお茶をしてから帰宅の途につく。
その甘味処で、城下町の学校に通っている初等部の生徒に絡まれて、ひと悶着はあったものの、それはさておいて……
ただいま城内の第二訓練場にて魔法の授業中である。
第一訓練場は枝垂が梅園にしてしまったので、現在は立ち入り禁止になっている。
生徒たちはおもいおもい、離れた的へ向けて魔法を放っては指導を受けていた。
それを羨ましそうに眺めつつ枝垂はひとり、隅っこにてぽつんと己の星のチカラと向き合っている。
だってしょうがないじゃない!
魔法……使えないんだもの。
せっかくの剣と魔法とスチームパンクなファンタジー世界だというのに、地球から来た面々は魔法が使えない。体内に魔力を司る器官がないからだ。
だから使えるのは宿りし星のチカラのみ。
左右どちらかの手の甲にある六芒星のタトゥー、その中に火や水などを司る紋章があれば魔法のようなことは出来るらしいのだが、あいにくと枝垂に刻まれているのは「梅」の文字である。
よって魔法の授業中は、もっぱら見学と座学メインにて、あとは自己開発に費やされることになった。
「みんな楽しそうで、いいなぁ」
☆
マヌカ先生に教わったところ、魔法には属性があるそうな。
地、水、火、風、光、闇、の計六種類だ。
地属性は土など地面を弄れる。農地の開墾にも役立ち、極めればゴーレムを動かしたり、深い堀や強固な城壁を築いたりも出来る。
水属性は水を出したり、操ったりできる。これまた農作業に役立ち、生活から戦闘まで活用方法は多岐に渡る。
火属性の魅力は、なんといってもその圧倒的な破壊力、殲滅力だ。すべてを灰塵に帰すチカラは国防の要となる。とはいえ、戦い以外だとあんまり使い道がない。平時はもっぱらゴミ処理場か、火葬場で活躍している。
風属性は汎用性が高いとされている。剣にまとわせれば剣速と切れ味が増し、足にまとわせれば高速移動も可能、夏の暑さを冷風にてしのぎ、冬の寒さも温風により快適に過ごせる。特に獣人にとっては何かと使い勝手がよく、相性のいい属性でもある。使いこなせれば短時間ながら空も飛べるらしい。
光属性は当初こそは最弱にて、使えない属性とされていた。なにせピカッと光るだけで使い道は目くらましぐらいであったから。
しかし研究が進むほどに評価が一変し、いまでは極めれば最強とまで云われている。圧縮・収束し放てば、光速にて敵を貫く。火属性のような爆発力こそはないものの、威力は凄まじい。また結界も構築できるので防御にも特化している。これを組み合わせることで強力なトーチカと化す。
闇属性はとにかく便利。空間を歪曲するので、商人垂涎の亜空間収納、制限はあるものの移動に役立つ転移、攻撃を吸収することで打ち消す結界、空間を繋ぐことによる変則攻撃などなど。工夫次第でやれることいろいろ。
ただし闇属性持ちは光属性持ちよりも珍しく、遣い手は希少である。
魔法はギガラニカの住人ならば基本的に誰もが使える。
生まれつき一属性が備わっており、ときには複数の属性を持つ者も産まれる。
二属性持ちのダブルでも希少、三属性持ちのトリプルともなれば国お抱えとなるのがほとんど。
ちなみに才媛として名高いエレン姫はダブル、やたらと長い肩書を持つナシノ先生はトリプルであり、国内どころか近隣国中でも随一の魔法の遣い手でもあるそうな。あの婆ちゃん、やはり只者じゃなかった。そりゃあ役職を兼任しまくるというもの。
アニメやライトノベルなんかでよくある「魔法はイメージだ」や「炎は赤よりも青のほうが」とか、無詠唱なんぞは当たり前だ。
「はぁ、呪文? そんなもの、敵を前にしてちんたら唱えていたら、百回死ねるわ」
と鼻で笑われる。
属性を組み合わせた複合魔法や、集団による大規模魔法もとっくに実用化されており、現在進行形でさらなる向上を目指し研究がされている。
そもそもの話、有史以来、脅威が蔓延る世界にて魔法と共に歩んできた文明が、どこの馬の骨ともわからない異世界渡りの、ぽっと出のガキンチョごときに出し抜かれる道理はない。
賢い学者たちが、優れた遣い手たちが、歴戦の勇士たちが……、研鑽に研鑽を重ね、知恵を振り絞り、悩み苦しんでは足掻き、代々受け継ぎ、ひたすら積み上げ研磨し、洗練され、伝統と実績の上に胡坐をかくことなく、絶えず進化してきたのが、現代のギガラニカの魔道である。
余所者が首を垂れて教えを乞うことは多々あれども、えらそうに講釈を垂れる余地なんぞは微塵もない。
星の勇者に宿りし星のチカラの研究も進んでおり、当事者よりもずっと詳しい。
もっとも星の勇者に関しては、中央の五ヶ国に限ったことだけど。
☆
地べたに座って枝垂はムムム、眉間にしわを寄せては地面の一点を睨みつつ強く念じる。
ただいま梅の種を埋めては、任意に発芽させることができるかの実験中なのだけれども――
「おっ、ひょこっと芽が出た! フムフム、なるほど。ある程度は操れるみたいだね。あとでナシノ先生に報告しておかないと。
でもその前にチアに頼んで、地魔法で鉢植えを作ってもらおう。芽をこのままにしていたらきっとジャニスさんに怒られる。かといってせっかく芽が出たのを枯らすのは可哀そうだし。あとで第一訓練場の方に植え替えておこう。
あっちはもう、諦めて庭園にするって言ってたし」
地面から顔を出している小さな新芽が、まるでその声に反応したかのようにかすかに揺れたのだが、枝垂はそれには気づかない。
立ち上がりお尻についた土埃を払いつつ、枝垂はチアのいる方へと歩き出した。
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