星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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 ただいま初等部の授業中である。
 教室内には一年生から四年生までが混じっているので、各自先生から課題を与えられてはこれに取り組む。
 枝垂がいま励んでいるのは習字だ。
 初等部一年生のイヌミミ獣人テトと横並びにて、せっせと文字を書き写す。

 こちらの世界では公用語はひとつだけ。
 三十九ヶ国共有で、使用される文字も一種類のみ。
 だから「外国語、なにそれ?」なのである。
 母国語や自国の歴史認識もあやふやなのに、ろくに身につかない外国語学習を延々と強要されないのは、じつに素晴らしい。アレは多大な時間の浪費である。苦手意識を受けつけることに何の意味があるというのか。ムダとまでは言わぬが、せめて選択制にすべきだろう。
 そうすれば数多の悲劇がきっと未然に防がれるはず……

 まぁ、それはさておき、非公式ではあるがギガラニカにも第二言語と呼ぶべきものは存在している。
 いや、誕生したと言うべきか。
 何を隠そう余計な一石を投じたのは星の勇者たちであった。

 なにせ地球上には七千以上もの言語が存在している。
 広く使われている言語だけでも二十を越える。国をまたげばがらりと様変わりして、ちんぷんかんぷん。下手をすると同じ国の中でも、言葉がろくに通じないなんて冗談みたいな話もある。
 でもって星の勇者たちは時代や出身国など、バラバラの寄せ集め。
 みんな特典チートで自動翻訳能力を貰っているとはいえ、そのときどきの流行や身に染みついた俗語などを持ち込む。
 そのせいで意思伝達の齟齬やら、ギガラニカ側が「?」と首を傾げ困惑することもしばしば。
 生じた溝を埋めるべく、新たに産まれたのが「地球言語学」なる学問であった。

 地球でもかつて言語は一つにて「全地は同じ発音、同じ言葉であった」と創世記に記されている。
 だが調子に乗ってバベルの塔なんかを建てたことにより、神様の逆鱗に触れて互いに言葉が通じないようにされてしまった。
 という神話があるのだが、この話を星の勇者より伝え聞いたギガラニカの学者は、大きく目を見開きこう言ったという。

「えっ、そんなことぐらいで? 地球の神さま、ケツの穴小っさすぎ! 小枝サイズかよ」と。

 このやり取りを通じて、地球言語学の書物に新たなムダ知識が刻まれることになった。
 地球の神はとっても狭量にて、地球とギガラニカ、ともに心が狭い者のことを「尻の穴が小さい」という――

  ☆

 文字の練習はひたすら反復するしかない。
 これがなかなかの苦行である。
 だって、やってることは写経みたいなものだもの。
 見慣れぬ文字に四苦八苦、筆遣いも自分の知っている文字とは異なるので、どうしても筆先が震える。
 チカラを込めるところと抜くところ、筆の自然な流れ、呼吸とでも言おうか。
 書くコツがまだ掴めておらず、変なところで止まるもので、ついたどたどしいタッチになりがち。
 結果、ミミズがのたくったような字になる。
 するといつの間にか背後にきていた先生から、さっそく赤ペンチェックを入れられて、やんわりダメ出しを喰らう。

「あらあら、ここはねえ、こうしてこう……」

 耳元で囁かれつつ、ほぼ密着にて添削指導を受ける。
 これがまた悩ましい。
 なにせ担任のマヌカ先生はヒツジの獣人にて、胸がとっても大きいのだ。加えて手には結婚腕輪がきらりと光る人妻属性を持つ。
 お色気ムンムンにて、健全な思春期男子にはたまらんのですよ。どうしても意識しちゃう。
 そのせいでいまいち集中できない。
 おかげで添削後の紙は真っ赤っか。
 なんとも不甲斐ないとへこみつつ、枝垂はドキドキ。

 そんな不出来な生徒と比べて、隣のテトくんはとても優秀であった。
 添削されてもごくわずか。先生からは「よくできました」と花丸を貰っている。

「テトは字がとってもきれいだねえ」

 枝垂が褒めると、テトはもじもじ。片耳だけをぺたりと垂らし照れる姿が愛い愛い。
 おもわずのびそうになる手、これをぐっと堪える。
 くっ、これで触ったらダメとか、とんだ拷問である。
 異世界ギガラニカは獣人たちが闊歩しており、ケモミミ好きにとっては天国であるが、それと同時に絶えず忍耐を強いられる地獄でもある。

 イエス、ケモミミ! ノータッチ!

 愛でるのは自由、妄想に浸るのもギリ自由、だが実際に手を出すのはアウト。
 なお誘惑に負けたら、すぐさま変態認定されて逮捕となる。
 問答無用で牢屋行きとなり、矯正という名の拷問と洗脳処置が施される。
 にもかかわらず地球から召喚された星の勇者たちの中には、男女を問わず、ときおり道を踏み外してしまう者が、後を絶たないというから困ったものだ。

 なお、話は変わるがこの世界にもミミズはいた。
 ニョロワームといって、森や畑の土を耕してくれるのは地球のミミズと同じなのだけれども、カーラス同様にサイズがちとおかしい。ヘビの青大将ほどもある。そんなお化けミミズをはじめて目にした時、枝垂は「きゃーっ」と乙女な悲鳴をあげた。
 だってマジで気持ち悪いんだもの。うねうねしながら、臭くて黄色い体液をぴゅっぴゅっと吐くし。
 そんなニョロワーム、禍獣化したらダイワームとなるそうな。
 丸太ほどの胴回りにて、長い体でのたうち暴れては、なんでもばくばく食べるというから恐ろしい。


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