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010 ハイタッチ
しおりを挟むイモ畑での戦いは、子どもたち側の勝利に終わった。
そして対カーラス戦でめちゃくちゃ活躍したことにより、年上の面目躍如にて枝垂は子どもたちから一目置かれる存在となった。
種ピストルでは埒が明かないので種マシンガンで、ダダダダダッ!
掃射すれば面白いように当たること当たること。
もっとも与えるダメージはほんのかすり傷程度、カーラスは「ギャアギャア」痛がって逃げるだけ。撃ち落とすまでには至らない。異世界の害鳥はとても丈夫だった。
じつは対カーラス戦において、ちゃんと攻撃を当てることこそが難しい。
なぜならカーラスはこちらの世界の鳥類にて、周囲に魔素が充ち、誰もが当たり前のように魔法を使う環境下に生きるもので、魔力察知に非常に長けていたから。
カーラスはもともと危機回避能力および機動力に優れており、知能も高く学習もする。
しかも空の上をのらりくらりしているので、武器が当たりにくい。
それは子どもたちが魔法を放っても同じこと。
カーラスはとにかく目敏く勘がいい。いちはやく魔法の発動を感知しては、これをひらりとかわす。そして「カァカァ」と小馬鹿にするように鳴いては、ときには糞をぺちゃりと落とすという暴挙にでる。
ここで怒り心頭に発して冷静さを失えばもうダメだ。ドツボにはまる。勝ち目はない。
なのに枝垂の攻撃だけがポコポコ当たったのは、それが星のチカラによるものだから。
地球産まれの高校生には魔力を司る器官なんぞは備わっていない。ゆえに魔法は使えない。これは他の星の勇者たちも同じこと。地球から来た者たちに使えるのは、あくまで己の身に宿った星のチカラのみ。
でもだからこそカーラスは何も検知できずに、撃たれるままになったという次第。
勝鬨をあげ、収獲したイモの入った箱を持ち、意気揚々と王城に引きあげる子どもたち。
でもそのなかに枝垂の姿はなかった。
大活躍したヒーローは、その活躍ゆえにおもいもかけぬ名誉の負傷をする。
カーラスを追い払うのに問題はなかった。
イモの収獲中も問題はなかった。
トラブルが生じたのは、最後の最後である。
「イエーイ、やったね!」とみんなでハイタッチ。
で、ごきり。
枝垂の肩がはずれた。プロ野球でたまにパワフルな外国人助っ人にやられている姿を目にしていたが、よもや自身が体験するハメになろうとは……しかも左右の肩をいっぺんに。
なにせ星クズの勇者は虚弱体質である。七歳のイヌミミっ娘と腕相撲をしても負けるほどだ。
子どもたちはみんなひと汗かいた直後にて、やや興奮状態にあった。
力加減などという配慮ができるはずもないく……
級友たちの中で、正しく枝垂の貧弱ぶりを理解していたのは、実際にそのダメっぷりを目の当たりにしている三年生のテリアのみ。
いちおうは事前に先生からみんなにも通達済みではあったらしいのだが、聞くと見るのとでは大違い。
だらりと両腕をぶら下がったとたんに、全身からチカラが抜けた。
その場にへたり込んだ枝垂をさっと担いだ先生は、いまいち事態が呑み込めないできょとんとしている子どもたちに言った。
「先生は枝垂くんを医務室に連れて行きますので、みなさんを収獲したおイモを調理室に運んでおいて下さい」
かくして枝垂は転入初日から医務室に担ぎ込まれた。
そしてのちにまで初等部で語り継がれる伝説になった。
☆
運ばれた医務室にはリザードマンがいた。
いや、より正しくはトカゲの獣人である。
でも見た目は完全にリザードマン。剣と盾と鎧がとても似合いそうだけど、身につけているのはよれよれの白衣だ。
彼は常駐医師のアラバン、昼間っから酒瓶片手に吐く息が酒臭い飲んだくれである。
アラバンは運ばれてきた急患をひと目みるなり、つまらなそうに「ふん」と鼻を鳴らしては、問答無用でグイッとね。枝垂のはずれていた両腕をもとに戻した。
おかげで脱臼はすぐに治ったが、とんだ荒療治。
枝垂は痛みで悶絶した。
「ひ、ひどい」
涙目で文句をいえばアラバンは「この程度で運ばれてくるおまえさんが悪い。脱臼ぐらい自分で治せんでどうする」と無茶を言う。
なんでもこの城の連中はみんな丈夫にて、めったに医務室に顔を出さない。
獣人はタフで少しぐらいの傷はツバをつけて放置する。
類人は魔法でちゃちゃっと治療する者が多い。
蟲人は頑強で自然治癒力がとにかく高い。
さすがに戦闘行為とかで負傷をすれば医師の手が必要になるが、ここは僻地の島国で、しかも王城の中だもので、平穏そのもの。
おかげでずっと閑古鳥が鳴いているので、常駐医師は暇で暇でしようがない。
あんまりにも退屈過ぎて、それこそ酒でも飲まなきゃやってられないそうな。
「だが、これからはおまえさんがいることだし、ちびっとは忙しくなりそうだな」
にやりと目を細めるアラバンに、枝垂は「ははは」と顔をひきつらせた。
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