星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

文字の大きさ
上 下
10 / 242

010 ハイタッチ

しおりを挟む
 
 イモ畑での戦いは、子どもたち側の勝利に終わった。
 そして対カーラス戦でめちゃくちゃ活躍したことにより、年上の面目躍如にて枝垂は子どもたちから一目置かれる存在となった。
 種ピストルでは埒が明かないので種マシンガンで、ダダダダダッ!
 掃射すれば面白いように当たること当たること。
 もっとも与えるダメージはほんのかすり傷程度、カーラスは「ギャアギャア」痛がって逃げるだけ。撃ち落とすまでには至らない。異世界の害鳥はとても丈夫だった。

 じつは対カーラス戦において、ちゃんと攻撃を当てることこそが難しい。
 なぜならカーラスはこちらの世界の鳥類にて、周囲に魔素が充ち、誰もが当たり前のように魔法を使う環境下に生きるもので、魔力察知に非常に長けていたから。
 カーラスはもともと危機回避能力および機動力に優れており、知能も高く学習もする。
 しかも空の上をのらりくらりしているので、武器が当たりにくい。
 それは子どもたちが魔法を放っても同じこと。
 カーラスはとにかく目敏く勘がいい。いちはやく魔法の発動を感知しては、これをひらりとかわす。そして「カァカァ」と小馬鹿にするように鳴いては、ときには糞をぺちゃりと落とすという暴挙にでる。
 ここで怒り心頭に発して冷静さを失えばもうダメだ。ドツボにはまる。勝ち目はない。

 なのに枝垂の攻撃だけがポコポコ当たったのは、それが星のチカラによるものだから。
 地球産まれの高校生には魔力を司る器官なんぞは備わっていない。ゆえに魔法は使えない。これは他の星の勇者たちも同じこと。地球から来た者たちに使えるのは、あくまで己の身に宿った星のチカラのみ。
 でもだからこそカーラスは何も検知できずに、撃たれるままになったという次第。

 勝鬨をあげ、収獲したイモの入った箱を持ち、意気揚々と王城に引きあげる子どもたち。
 でもそのなかに枝垂の姿はなかった。
 大活躍したヒーローは、その活躍ゆえにおもいもかけぬ名誉の負傷をする。
 カーラスを追い払うのに問題はなかった。
 イモの収獲中も問題はなかった。
 トラブルが生じたのは、最後の最後である。

「イエーイ、やったね!」とみんなでハイタッチ。

 で、ごきり。
 枝垂の肩がはずれた。プロ野球でたまにパワフルな外国人助っ人にやられている姿を目にしていたが、よもや自身が体験するハメになろうとは……しかも左右の肩をいっぺんに。
 なにせ星クズの勇者は虚弱体質である。七歳のイヌミミっ娘と腕相撲をしても負けるほどだ。
 子どもたちはみんなひと汗かいた直後にて、やや興奮状態にあった。
 力加減などという配慮ができるはずもないく……
 級友たちの中で、正しく枝垂の貧弱ぶりを理解していたのは、実際にそのダメっぷりを目の当たりにしている三年生のテリアのみ。
 いちおうは事前に先生からみんなにも通達済みではあったらしいのだが、聞くと見るのとでは大違い。

 だらりと両腕をぶら下がったとたんに、全身からチカラが抜けた。
 その場にへたり込んだ枝垂をさっと担いだ先生は、いまいち事態が呑み込めないできょとんとしている子どもたちに言った。

「先生は枝垂くんを医務室に連れて行きますので、みなさんを収獲したおイモを調理室に運んでおいて下さい」

 かくして枝垂は転入初日から医務室に担ぎ込まれた。
 そしてのちにまで初等部で語り継がれる伝説になった。

  ☆

 運ばれた医務室にはリザードマンがいた。
 いや、より正しくはトカゲの獣人である。
 でも見た目は完全にリザードマン。剣と盾と鎧がとても似合いそうだけど、身につけているのはよれよれの白衣だ。
 彼は常駐医師のアラバン、昼間っから酒瓶片手に吐く息が酒臭い飲んだくれである。
 アラバンは運ばれてきた急患をひと目みるなり、つまらなそうに「ふん」と鼻を鳴らしては、問答無用でグイッとね。枝垂のはずれていた両腕をもとに戻した。
 おかげで脱臼はすぐに治ったが、とんだ荒療治。
 枝垂は痛みで悶絶した。

「ひ、ひどい」

 涙目で文句をいえばアラバンは「この程度で運ばれてくるおまえさんが悪い。脱臼ぐらい自分で治せんでどうする」と無茶を言う。
 なんでもこの城の連中はみんな丈夫にて、めったに医務室に顔を出さない。
 獣人はタフで少しぐらいの傷はツバをつけて放置する。
 類人は魔法でちゃちゃっと治療する者が多い。
 蟲人は頑強で自然治癒力がとにかく高い。
 さすがに戦闘行為とかで負傷をすれば医師の手が必要になるが、ここは僻地の島国で、しかも王城の中だもので、平穏そのもの。
 おかげでずっと閑古鳥が鳴いているので、常駐医師は暇で暇でしようがない。
 あんまりにも退屈過ぎて、それこそ酒でも飲まなきゃやってられないそうな。

「だが、これからはおまえさんがいることだし、ちびっとは忙しくなりそうだな」

 にやりと目を細めるアラバンに、枝垂は「ははは」と顔をひきつらせた。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

おじさんが異世界転移してしまった。

明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか? モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

処理中です...