星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝

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008 学校へ行こう

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 朝から教室内がそわそわしている。
 始業前のこの時間はいつも賑やかなのだけれども、今朝のは普段のソレとは少し雰囲気が違っていた。
 生徒たちに落ちつきがないのは、転入生がやってくるとの情報を事前に入手していたから。
 ここコウケイ国は離島の小国である。
 自他ともにみとめる隅っこ暮らし。ぶっちゃけド田舎だ。
 しかも王城内の特別学級は、城内に勤める者たちの子どもを預かるがゆえに、外部から新たに人がやってくることは非常に稀である。転入生なんぞは、ここしばらくなかったこと。ゆえに生徒たちはすっかり浮き足立ち、気もそぞろとなっていた。

 ガラリと教室の戸が開く。
 まず入ってきたのは担任の女教師である。
 とたんに教室内に散らばっていた子どもたちは、慌てて自分の席へと戻った。
 みんなが着席したのを見届けてから、先生が笑顔で手招きする。

「はーい、それではみなさんお待ちかねの転入生を紹介しますよー。さぁ、恥ずかしがらずに入って入って」

 おずおずと教室に入ってきたのは枝垂であった。
 ここは初等部の教室、学んでいるのは五歳から八歳の子どもたち、文字の読み書きやら計算などの基礎的なことを学ぶ。
 仮にも地球では高校生をやっていた枝垂が、どうしていまさら初等部に編入されたのかというと、会話はまったく問題なかったのだが、文字の読み書きがさっぱりだったからである。
 これまた星クズの勇者となったせいであった。
 通常の星の勇者ならば、言語関係のオプションがしっかりしているので、会話はもとより読み書きもばっちり。異世界生活になんら支障はない。
 けれども枝垂には一部バグが生じていたのである。
 文字の読み書きが出来ない。
 これは社会生活を営む上で、なかなかに深刻な問題である。
 買い物にも困るし、うっかり騙されて借金奴隷の契約書にサインとかしたら、たいへん!
 そこでイチから学ぶこととなり、初等部へ編入することになったという次第。

「それじゃあ、まずは挨拶がてら自己紹介をお願いしますねー」

 先生に促されるままに、黒板にチョークで名前を書き書き。
 漢字で柳川枝垂と――

「これで『やながわしだれ』と読みます。えーと、苗字があるからって、べつにえらい家とか貴族じゃありません。あっちの世界ではたいていが苗字持ちだったもので。
 ですから、僕のことは気軽に枝垂と呼んでください。
 ちょっと小柄ですがこれでも十六歳です。
 あと、すでに噂を聞いているかもしれないけれども、僕は星クズの勇者です。
 地球育ちなもので不慣れなことばかりにて、いろいろと教えてくれるとうれしいです」

 ペコリと枝垂が頭を下げるとパチパチ拍手が起きた。
 拍手が少ないのは歓迎されていないからではなくて、たんに数が少ないから。
 現在、城内の初等部には生徒が九人しかいない。しかも学年ごちゃ混ぜ。
 人口の都市集中、地方の過疎化と少子化の波は、異世界でも待ったなしのようだ。
 でも少ないながらに獣人、類人、蟲人が揃っていた。

 獣人はまんまである。
 ケモミミと尻尾が可愛いけど、断わりなく触るのは御法度だ。痴漢扱いにて即御用となる。
 困ったことに、ときどき星の勇者の中には、メイドやらケモミミを前にするとやたらと興奮する者がいるらしく、くれぐれも軽率な行動は慎むようにと、枝垂もエレン姫から言われている。
 獣人は総じて身体能力に優れ、魔法もまた身体強化系を得意とする者が多い。なお外見に関しては、人寄りのタイプと獣寄りのタイプがいる。
 人寄りのタイプは耳と尻尾をつけただけだが、これが獣寄りのタイプになると野趣溢れる風貌となっている。マンガやゲームなんかではお馴染みのワーフウルフとかミノタウロス、リザードマンなんかをみたいなのを想像するとわかりやすいだろう。

 類人は地球の人間とほぼ一緒である。
 魔力を司る器官が体内にあるかないかの違いしかない。
 総じて手先が器用で、魔道具造りに適しており、細かい魔力操作に長けている傾向にある。
 なおファンタジーモノではよくある「人族至上主義」みたいなのは存在しない。
 ギガラニカは区別はあれども差別はない世界。
 もっとも権威主義みたいなのはあるらしいけど……

 蟲人は昆虫をベースにした人である。
 特撮に登場するヒーローや怪人みたいな容姿で、フォルムがとっても個性的。でもなんだが、シュッとしておりカッコいい。
 魔力量が多く、肉体強度も高め。攻守に渡ってバランスがいい。
 いささか表情が読みづらいのでコミュニケーションがとりにくいのが難点だが、親しくなればなんとなく雰囲気でわかるようになるという。
 高所や地下に好んで住んでいる。

 なおこの世界は魔法が当たり前に存在する世界だけれども、ファンタジーの定番である、エルフやドワーフ、ホビットや魔族といった種族はいないとのこと。

  ☆

 子どもたちは転入生に興味津々である。
 いちおう歓迎してくれているらしいとわかって、枝垂はほっと胸を撫で下ろす。
 が、先生に促されるままに、自分の席へと向かったところで隣を見て、ギョッ!
 左隣りの窓際に、やたらと厳つい風貌の男子生徒がいた。
 本当に初等部なのかと疑いたくなるほどに立派な体躯にて、腕も胸板もぱっつんぱっつんに逞しいのは、オオカミの獣人さんである。

「ふふん、俺に触れたら火傷をするぜ」

 と言わんばかりに、荒々しい雰囲気を漂わせている。
 制服の両袖を肩で引き千切っている世紀末ヒャッハースタイルもさることながら、ひときわ目を惹いたのは右の目元の傷……
 カギ爪で引っ掻いたかのような痛々しい三本傷があって、まるで歴戦の猛者のようだ。
 う~ん、異世界の小学生、ワイルドにもほどがある。
 こいつは絶対に逆らっちゃダメな相手だと、本能で悟った枝垂は軽く会釈だけに留めて、極力関わらないでおこうと密かに誓った。

 だというのにである。
 そんなワイルドさんからギョロリと睨まれ「おい、おまえ!」といきなり絡まれた。
 あー、これは昼休みに体育館裏とかに呼びだされちゃうパターンかと、枝垂がキョドっていると、ガツンとぶつけられたのは机である。
 机と机、寸分の狂いもない連結合体にて横並び。
 零距離に詰められて、ドスの利いた声でこう言われた。

「俺さまの名前はシモン。いずれは都会に出てビッグになる男だ。たしか枝垂だったな? しょうがねえから、教科書をみせてやるよ。あとでノートも写させてやるぜ。わからないことがあったら、何でも俺さまに訊きやがれ」

 ワイルドさん、めっちゃいい子だった!
 言ってることはちょっとアホっぽいけど。
 あと顔の三本傷なんだけど、寝ているときにうっかり自分の爪で引っ掻いたんだってさ。
 わりと獣人あるあるらしい。
 改めて「自分は異世界に来たんだなぁ」と枝垂はしみじみ。


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