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007 無双ならず
しおりを挟むうぅ、足がしびれた。
地べたに正座はキツすぎる。
ひっくり返って悶絶している枝垂の顔を覗き込み、ジャニスが言った。
「ふむ、とりあえずその種ピストルとやらの性能を見てみたい。ちょっと私に向けて撃ってみてくれないか」
平和ボケした国育ち。本物の銃器を扱ったことがない。だから実物とは比べようがないのだけれども、種ピストルは素人目にもけっこうな威力がある気がする。
なのにこの黒ヒョウ姉さんは真顔にて、そんなシロモノを自分に向けて撃てという。
いやいやいや、ちょっと意味がわかんないんだけど?
枝垂は「危ないよ」と思いとどまらせようとするも、ジャニスは「大丈夫だ、問題ない」の一点張り。
引き下がりそうにないので、ならば直接には狙わず、近くをかすめるようにして撃つことでどうにか妥協してもらう。
十五メートルほど離れたところに立つジャニスが、「いいぞ、やってくれ」と手を振る。
枝垂は溜息まじりにて、万が一にも彼女に当たらないようにと、一メートルほど脇にしっかり狙いを定めてから。
「じゃあ、いきますよー。種ピストル!」
手でピストルの形を造り念じると、たちまち人差し指の先に種が出現したので、これを放つ。
バンッ!
鋭い発射音がして、種がギューンと飛んでいく。
どれほどの速度なのかはわからないけれども、少なくとも枝垂の目には留まらないほどの速さだ。
だというのに、である。
キィン、微かに音がしたとおもったら、種が真っ二つになって地面に転がっていた。
ジャニスの手にはいつの間に抜いたのか、剣が握られている。
「はぁあぁぁぁぁぁぁ――――――っ!」
枝垂は顎がはずれんばかりに驚いた。
だというのに、そんな芸当をやってのけたジャニスは「フム、ちと軽いな。威力も魔銃には及ばないし。おい、枝垂、こいつは連射できるのか? ならば、もうちょっと続けて撃ってみてくれないか」と言うから開いた口が塞がらない。
さすがはエレン姫付の近衛士である。大丈夫と言っていたのは、大言壮語などではなくて剣の腕前に絶対の自信があったから。
でも枝垂とて、このままでは引き下がれない。
ならばと、お次は種ピストルではなくて種マシンガンにて、ダダダダダッ!
おっふ、嘘だろう。
全弾、あっさりと叩き落とされたよ。
しかもフンフン鼻歌まじりにて近寄りながらである。
雨あられの種の弾丸を、にこにこしながら剣一本で軽くあしらい距離を詰めてくる女剣士、めちゃくちゃ怖えーよ!
挙句の果てにジャニスからこう言われた。
「着眼点は悪くない。が、威力がいまいちだな。でも、これならイモ畑のカーラス払いには使えそうだ」
イモとは紫イモのことである。地球で言うところのサツマイモに相当する。
でもってカーラスは黒羽のカラスのこと。
いやはや、地球とギガラニカ、二つの世界ってば、近い距離にて平行して存在しているだけあって、似通っているところが多々あるんだよねえ。
おかげであんまりカルチャーショックを受けなくてすむので、とても助かっている。
ちなみにコウケイ国は江戸時代の日本っぽい感じの文化にて、主食は米である。
「フム、私はこのことをエレン姫に報告してくるから、枝垂は朝食後に先生のところへ顔を出すように」
先生とは王宮医師兼鑑定士兼教育係兼王の相談役という、舌を噛みそうな長い肩書きを持つ人物のこと。
名前をナシノといい、赤い目を持つ類人の白髪の老婆である。
赤い目は鑑定士の証、鑑定能力を持つ者はみな赤い目をしている。
こちらの世界に召喚されてすぐに枝垂に星クズ判定を下した、あのお爺ちゃんも赤い目をしていた。
なおこの鑑定士という職業、適性や能力だけでなく、膨大な知識と類まれなる見識、研鑽を積み、信頼と実績により認められて初めて成立する。
鑑定チートでイエーイとかは通用しない。とても厳格な職種なのである。
まぁ、ごちゃごちゃ述べたが、ようはナシノ先生はとっても賢いお婆ちゃんということだ。
☆
ジャニスに言われた通りに、朝食後にナシノ先生のもとを訪問する。
忙しい身にもかかわらず、笑顔で応対してくれるばかりか、お茶まで出してくれるのだから、ありがたい。
で、枝垂はあらたに開発した自分の星のチカラについて報告しつつ、「せっかくみんなの役に立てるかもと思ったんだけど、ぜんぜんダメでした」と愚痴った。
するとナシノ先生は「ふむふむ」とメモをとりながら、「たしかに戦いでは役に立たないかもしれないけれど、花を咲かせられるというのは十分にすごいじゃないか」と褒めてくれた。
荒れ地に花が咲く。
しかも梅の実はいろいろ使い道がある。
まだ分析途中だが、枝垂が星のチカラで出すモノは美味しいだけでなく、疲労回復などの効能がちょびっと付属していることがすでにわかっている。
星の勇者たちには対星骸戦での活躍こそが求められてはいるものの、これはこれで有益だ。
もしも決戦の地である荒野を、汚染され荒廃した大地を蘇らせることができるのならば、どれだけ凄い事か。
「とはいっても今後の経過観察と、研究継続が必要だがね。だから枝垂は焦らず、自分のペースでやればいいのさ」
ナシノ先生に優しくそう言われて、枝垂はぐすんと鼻を啜った。
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