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006 タネ? ネタ?

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 枝垂は星クズの勇者である。
 戦闘力は皆無であり、身体強化の恩恵を受けていないので、七才のケモミミっ子に腕相撲で負けるほどの虚弱体質。鍛えればある程度はマシになるが、それでもせいぜい人並みよりちょい下らしい。
 では、どうして三十九人の中で自分だけがこんな目にと考えた時、枝垂にはおぼろげながら心あたりがなきにしもあらず。
 それは自分の名前である。

  ☆

 柳川枝垂(やながわしだれ)、名づけたのは祖父である。
 祖父は大の梅好きであった。
 庭木やら盆栽にて育てるだけでなく、毎年梅狩りに出かけては、大量に仕入れ、梅干しやら梅酒を作っていた。庭の隅には小さいながらも専用の梅蔵まで建てていた。
 そんな祖父がどうして孫に枝垂と命名したのかというと、梅好きが高じるあまりである。
 梅の栽培品種は三百あまりにも及ぶが、そのなかに柳川枝垂という品種があったのだ。
 柳川という苗字と枝垂という名前を組み合わせることにより、梅の品種名となる。

『立派な梅の木のようにスクスク育って、咲き誇れ』

 との願いを込めて名づけたと言うが、たぶんそれは後づけであろう。だって名前の由来を訊いたら、目が泳いでいたから。
 でもって古来より名は体を表すという。
 なんとなく「コレじゃね?」と枝垂は推察している。

 ないない尽くしの異世界転移。
 あまりの不遇ぶり、これは定番の追放という憂き目に合うのかと内心でビクビクしていたら、さにあらず。
 エレン姫やジャニスをはじめとして、コウケイ国のみんなはとっても優しかった。
 星クズ勇者を不憫がることはあろうとも、蔑ろにすることはけっしてなかった。
 遠い異世界の地にて、人の情けが身に染みる。
 だからこそ枝垂も自分に出来ることを見つけようと、一念発起する。
 でも特訓とか気恥ずかしいので、夜更けにこそっと部屋を抜け出し、訓練所へと向かった。

  ☆

 現時点でわかっている枝垂の星のチカラ――
 梅干しを自在に出せること。
 出せる梅干しはある程度調整可能。小粒のカリカリ梅や大粒の梅干しなどの種類を選べ、なおかつ甘味や酸味、塩分も好みにいじれる。種や個別包装の有無も選択可能にて意外に芸が細かい。

「さて、体造りは一朝一夕にはどうしようもないから、おいおいがんばるとして……。まず工夫をするとしたら授かった能力の方だよねえ。
 うーん、梅干しを直接、相手の目に叩き込んだら目くらましぐらいにはなるかなぁ。それとも酸っぱいのを口に放り込んで悶絶させるか。
 いろいろ成分を弄れるから、いっそ毒にして……はさすがにダメだよねえ。
 仮にも食べ物を扱う能力で、それをやったら人としておしまいのような気がする」

 取り出した普通の梅干しを手の中で弄びつつ思案する。
 でも、そのうちにあることに気がついて枝垂は「おっ」
 普通、梅干しなんかを触れば手がベタベタする。
 なのにちっともしない。
 それは星のチカラで出した梅干しが、手の表面からほんのちょっぴり浮かんでいるから。高さ三から五ミリ程でぷかぷか。直接、触れることも出来るが、出現直後は意図しない限りは、この高さをキープしている。
 ちょんと突いてみる。
 すると、浮かんでいる梅干しはくるりと回った。
 無重力での宇宙遊泳を彷彿とさせる動き。くるくるしているのがオモチャのハンドスピナーみたいで、ちょっと面白い。

 手の中や指先などで梅干しをくるくるくるくる。
 しばらく遊んでから「むっ、いかんいかん。こんなことをしている場合じゃなかった」と我に返った枝垂は、その梅干しを口の中に放り込んだ。
 けっして食べ物を粗末にしない。それが枝垂のポリシー。
 とたんに酸っぱいのがつんと来た! たまらず枝垂は口元をギュッとすぼめる。
 無調整の梅干しにて酸味がきつい奴だったのを、すっかり失念していた。

「う~、酸っぱい。これはこれで美味しいけれども、僕はやっぱりはちみつ漬けの方が好みかなぁ」

 なんぞとつぶやきつつモゴモゴ、舌を動かし果肉と種を分離しては、種だけを器用にプッと吐き出す。
 吐き出された種は宙に弧を描き、一メートルほど先の地面にぽとりと落ちた。
 なかなかの飛びっぷり。
 それを見て枝垂はふと思った。

「そういえば種だけでも呼び出せるのかな?」

 試してみたら、あっさり出来た。
 指先にて梅の種が浮かんでいる。
 これをデコピンの要領でピシリとはじいてみれば、けっこうな勢いで飛んでいったもので、枝垂はおもわず「おぉ!」と前のめり。

「これならイケるかもしれない」

 ひと筋の光明が射す。
 あれこれ工夫をしているうちに、種を指でいちいちはじかなくとも、拳銃の弾のように飛ばせるようなった。
 テッテレー! 梅干しの種ピストルの完成である。
 二十メートルほど先にある盛り土に向けてバンっと撃ち込めば、かなり深くにまでめり込むほどの威力がある。薄い板や壺ぐらいならば貫通しそう。
 これは当たるとけっこう痛いのではなかろうか。
 いや、それどころか種ピストルで無双ができちゃうかも!

 俄然テンションのあがった枝垂は、さらにあれこれ改良を加える。
 マシンガンのように連射できるようにしたり、ショットガンのように散弾が放てるようにしたり、種に回転を加えつつ溜めてから撃つことでライフルみたいに飛距離と高威力を持たせたり。
 夜更かしのノリもあって、枝垂は訓練所にて種ピストルをバンバン撃ちまくった。
 う~ん、これは気持ちいいぞ。
 だが後先考えない行動がたたり、急に視界が暗転してポテっと倒れた。
 ガス欠だ。星のチカラが尽きたのである。魔法でいうところの魔力切れだ。容量は訓練次第でのばせるらしいのだが、現時点で枝垂は何もしていない。ましてや虚弱な身で調子に乗ったせいであった。
 で、夜明け間近の寒さにぶるりと目を覚ましたら、訓練所が梅林になっていたという次第。

 ――以上、長かった回想終わり。
 なお原因については言わずもがなであろう。
 枝垂は地べたに正座をさせられ、黒ヒョウ姉さんのジャニスからしこたま怒られた。


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