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005 勇者と星骸
しおりを挟む枝垂はハズレ、星クズの勇者だ。
そしてコウケイ国も勇者を預かるのなんて初めてのことである。
どちらも勝手がわからない。扱いに困った。
そこでとりあえずもう一度、枝垂の詳しい鑑定をして、今後の方針を決めようということになったのだけれども、そこでさらなるショッキングな事実が判明した。
なんと! 枝垂は身体強化の恩恵を得られていない虚弱体質にて、コウケイ国の子どもにすら体力面で劣ることがわかったのである。
「ははは、いくらなんでもそれはないよ。学校では帰宅部だったけど、これでも運動は人並みにできたんだから。足だってそこそこ速かったし」
なんぞと肩をすくめる枝垂であったが、試しに王城内のメイド見習いの女の子と腕相撲をしたら、ペチリとひとひねりにされた。
ついでに駆けっこもしたが、ぶっちぎられた。
相手はつい先日七歳になったばかりのイヌミミの獣っ娘であった。肉球ふにふに、とっても愛くるしい。
いかに獣人に比べると身体能力が劣る類人――地球でいうのところの人間のこと――にしても、あまりにも弱すぎる。
幼女に負ける星クズの勇者。
これには当人も愕然となり、居合わせた大人たちもあんぐり。
いちおう枝垂も年頃の男の子である。思春期の男のプライドはズタズタだ。
ちなみにきちんとした星の勇者だと、転移してきた時点で、ある程度はこっち仕様の体に調整されているそうな。
しくしくしく……
その夜、枝垂は枕を涙で濡らした。
翌日は長旅の疲れや、諸々の精神的なショックから、枝垂は日がな一日を縁側で膝を抱えてぼんやりと過ごす。
あまりの落ち込みぶり。
魂が抜けたかのような情けない姿を見かねて声をかけたのが、黒ヒョウ姉さんのジャニスであった。
☆
勇者の召喚、それは二つの世界の神と神との決め事。
ギガラニカ側からの求めに応じて実行される。
選ばれたが最後、拒否権はない。
問答無用で世界線を越え、星骸との戦いへと身を投じることになる。
ちなみに片道切符だ。ナマモノにつき返品は不可。
まったくもって、たまったもんじゃない。
「そんな理不尽な!」
「私の知ったこっちゃねえよ!」
「自分には関係ない!」
などなど、声を大にして抗議したいところではあるが、じつはまったくの無関係というわけでもなかったりもするから、じつに悩ましい。
なにせ星骸の正体は、地球からでた不用品の集合体だからだ。
現在進行形で進んでいる環境破壊、日々量産され続けているゴミ、終わらぬ争い、消えぬ恨みつらみ、淀み凝り固まる負の霊的エネルギーなどなど……
それらが寄り集まっては溜まり、巡り巡っては変質変容し、異世界ギガラニカへと墜ちてくるのが星骸なのである。
たまさか上下に並んでいたふたつの世界。
上が地球で下がギガラニカ。
そして上から下へと物が落ちるのは天地の理。
ときおり地球側の底が抜けては、そこからぼとり、特大の廃棄物が落ちてくる――それが星骸。
だから、たまったものじゃないと声を大にして叫びたいのは、じつは地球側ではなくて毎度尻ぬぐいをさせられるギガラニカ側なのである。
なにせ星骸は破壊の権化にて慮外の者、あらわれるなり手当たり次第に暴れるからだ。
しかもいろんな危険成分てんこ盛りで、超有害だったりもする。
放射能やら四塩化炭素、ダイオキシンみたいな汚染物質とか、もう最悪!
倒せば浄化されて資源になるのがせめてもの救いだが、そんなシロモノを一方的に押しつけられる。自分の家の敷地内に捨てられる。
何度も何度もだ。
荒れる大地、犠牲となる命、民草の嘆きはひとしお。
これにブチ切れたのがギガラニカを司る三女神たち。
地球を管理する神をとり囲んでは「おい、てめえ、いい加減にしやがれ!」「しばくぞ、ボケ!」「ど頭をかち割ってやろうか、あぁん!」と直談判し、これにびびった地球の神が「わかったよぉ。それなら……」と処理要員を派遣することになったという次第。
なお選ばれた者たちは、べつに優れているからとか、善行を積んでいるとか、高尚な魂の持ち主とかではない。
むしろその逆、地球からいなくなってもべつに困らない人材が選ばれる。
だってほら、歴史の教科書とかに載るような偉人がいなくなったら困るもの。
どうでもいい人材でも、神様パワーにて星のチカラを与えて、ちょちょいと体をいじれば、あら不思議!
お手軽に超戦士の出来上がり、パチパチパチ~。
でも、これだとギガラニカ側から不満が出そうなものだけど、それはなかった。
たしかに役に立たないのは困る。
だが手に負えないのはもっと困る。
あまりにも影響力が強い偉人は、世界にとっては劇薬と同じ。かえって危険なのだ。
危険物の処理をするのに、もっと危険な奴を招き入れたら本末転倒であろう。
だからほどほどが丁度いい。
星の勇者とは地球から派遣された清掃員。
もとを質せば原因は地球側にある。
ほらね?
あながち無関係とは言えないでしょ。
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