上 下
4 / 242

004 都落ちで島流し

しおりを挟む
 
 味やら大きさなど、いろいろ試しながら自分で出したカリカリ梅を味わうこと、十三個を数えた頃。
 枝垂の身柄は女性の二人組に引き渡された。

 片やたおやかな白ネコ嬢、片やキリリと凛々しい黒ヒョウお姉さん。
 可憐な白ネコ嬢は、コウケイ国の第四王女であらせられるエレン姫。
 帯剣している黒ヒョウお姉さんは、その護衛で近衛士のジャニス。
 ケモミミさんたちが登場、ファンタジー要素キターッ!
 と喜んだのも束の間、挨拶もそこそこに。

「すみませんが、あまり猶予がありません。面倒も避けたいですし、余計な茶々が入る前に急ぎましょう」

 とエレン姫。
 追い立てられるようにして出立する。
 向かったのはドーム施設の地下深く。下層には光る魔法陣みたいなので降りた。
 降りた先は地下鉄の駅のような場所になっており、そこからリニアモーターカーみたいなのに乗車してギューンとね。

「異世界文明、すげえ!」

 枝垂が感心しているうちに、さっさと途中下車にて乗り換え。足早やに構内を移動する。
 お次は枝垂もよく知る列車っぽいの。これにてガタンゴトン、ガタンゴトンと揺られるうちに、地上へと出た。
 とたんにあらわとなったのは、魔法とスチームパンクが融合した近代的なメトロポリスの姿である。この世界の文明レベルは地球と遜色ないか、それ以上であることはまず間違いあるまい。
 でものんびり眺めている暇はなかった。またもや乗り継ぎである。
 あれ? 乗り継ぎ、ちょっと多くない。

 うん、訂正しよう。
 ちょっとどころではなかった。
 乗り継ぎにつぐ乗り継ぎの連続にて、その数はじつに十八回にも及んだ。
 回を重ねるほどに乗り物は古ぼけ、シートは固くなり、車両も減っていき、景色も寂しくなり、ついには二両編成にて乗客もまばらとなった。
 大都会から都会へ。都会から準都会へ。準都会から地方へ。地方からさらに田舎へ。田舎からもっとド田舎へ。
 マトリョーシカ方式にて、じょじょにショボくなっていく。
 枝垂の脳裏にふと「都落ち」という言葉が浮かんだ。

  ☆

 慌ただしい出立、強行軍は五日にも渡って続く。
 しまいには馬車と船と徒歩にて、はるばるやってきましたコウケイ国。
 なお旅の途中、山賊に二度遭遇し、列車強盗にも遭い、禍獣にも襲われた。
 ああ、禍獣は、いわゆるモンスターのことね。動物が魔素とかの影響で変異した狂暴な個体のこと。

 都市部を離れるほどに治安がみるみる悪くなる。
 異世界おっかない、ガクブル。
 でも一番おっかなかったのは、次々と襲いかかってくる連中をサクっと返り討ちにしていたケモミミさんたちである。
 護衛のジャニスが強いのはわかるけれども、姫さまも超強かった。楚々としてためらうことなく、賊の首を風の魔法でチョンパしていた。
 えーと、これって本当に勇者が必要なのかな?
 そんな疑問を枝垂は抱かずにはいられない。

 姫たちが出立をやたらと急いでいた理由は、たんに乗り継ぎのタイミングのため。
 コウケイ国は僻地のきわきわにある。列車の直通便なんぞはない。飛空艇の航路からもはずれている。だから幾多の路線をまたぎ、奇蹟的に重なる乗り継ぎのタイミングを逃すと、とたんに足止めを喰らうことになる。それも一日単位で。
 ぽつんと吹きっさらしの無人駅で、賊や野生の脅威に晒されながらの半野宿とか辛すぎる。

 地球の五大陸にムーやらアトランティスなどの幻の大陸を合わせたものよりも、ずっともっと広大なギガラニカ大陸。
 そこの北北東の端っこにある離島、大きさはちょうど淡路島ぐらいなのがコウケイ国である。
 この世界にある三十九ヶ国中で、もっとも小さい国だ。
 えっ、国力はどうかだって。ふっ、みなまで言わせるなよ。推して知るべし。
 では、どうしてそんな国に枝垂が島流……ゲフンゲフン。もといホームステイすることになったのかといえば、国際会合の取り決めによる強制振り分けである。

 これまでの勇者召喚の儀では、召喚される者の数は平均で三人、最小では一人、多くても五人ぐらいであったのに、今回は三十九人と大盤振る舞い。
 しかし、そのせいで首脳陣が揉めた。
 いつもは主要五ヶ国で保護し、勇者の育成を行うのだが今回はあまりにも数が多い。
 中央だけで囲い込むには戦力過多にて、第二十一次・星骸討伐戦にて生じた被害とも相まって、「いつもズルいぞ! たまにはこっちにも回せ」と各国から不満の声があがったのだ。
 神々の恩恵を受けて遣わされた勇者は、魔法こそは使えないものの、優れた星のチカラを宿している。
 それは国防に役立ち、専門的な知識や技術を持つ者ならば、多大な国益をもたらす。
 喧々諤々の話し合いの末に、今回は勇者の数と国の数がちょうど合致しているということもあり、みんなで仲良く分けることになった。

 ただしそこはそれ、国力差がものを云う国際外交の場ゆえに、発言力の強い大国から「これもーらい!」「だったらうちはこっちをゲットだぜ!」みたいな感じで、受け持つ勇者を選んでいくことになった。
 その結果、最後まで残ったみそっかすを、最弱国が押しつけられることになったのである。
 かくして各国一名ずつ、勇者を確保したのだけれども、そこはそれ、やっぱり他の勇者のことも気になるわけで……
 振り分けが終わった直後から始まったのが、熾烈な諜報戦である。
 これに巻き込まれるのを嫌っての、慌ただしい出立でもあった。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

処理中です...