上 下
2 / 242

002 勇者召喚の儀

しおりを挟む
 
 ドーム球場ほどもある白い空間内がざわついていた。

 紋付き袴のちょんまげ頭がいる。
 第二時世界大戦中の航空機のパイロットみたいな服装の人もいる。
 フレンチのシェフみたいな格好の人もいれば、セーラー服やブレザー姿の高校生、下駄を履いて学ランを着た大学の応援団っぽいの、スーツ姿の社会人に、近所のスーパーマーケットでみかけるパートのおばちゃん、建設作業員、軍人、農夫、金髪に青い目をした外国人などなど。
 性別も世代も時代も国籍も職業も立場も、てんでばらばら。
 そんなのが三十九人――

 柳川枝垂(やながわしだれ)もその中にいた。
 わけがわからない。ついさっきまで高校にいたはずなのに。
 二限目の授業が終わって、休憩時間に一人男子トイレに向かう。小用をすませて廊下に出たとおもったら、ここにいた。
 どうやらライトノベルではお馴染みの、異世界集団転移というのに巻き込まれたっぽい。

「……にしても、クラスごととかじゃないんだ。ものの見事に顔見知りがいやしない」

 枝垂はきょろきょろ。自分以外にも制服姿の男女は混じっている。けれども、どれも知らない制服だ。おそらくは他県のモノだろう。
 みんな状況がわからずに戸惑っている。
 すると唐突にドーム内が暗転する。
 天井や壁が巨大なスクリーンとなって映像が流れ始めた。

  ☆

 巨大な化け物と軍勢との戦い。
 まるでスクラップを組み合わせたかのような異形が猛り吠え、暴れ回っている。
 対するのは近代兵器っぽいので武装をした兵士たち。実弾に混じって、魔法みたいなのが飛び交い、さらにはいかにも勇者っぽいのが輝く剣を手に突撃しては、仲間たちと共に強大な敵へ敢然と立ち向かっていく。

 まるでゲームか映画みたいな光景――
 派手なドンパチ、大迫力の映像、初めのうちこそは枝垂たち三十九人はキャアキャア興奮していたが、それもじきに静かになっていき、ついには誰もが黙り込んでしまった。
 なぜなら、内容がじょじょに苛烈さを増して血生臭くなっていったからだ。
 手足が千切れ、血肉が飛び散り、絶叫と悲鳴が木霊しては、ひたすら死が量産されていく。そこに命の尊厳などは微塵もない。
 ファンタジーやSF映画が一転してリアルドキュメンタリーの戦争モノとなり、阿鼻叫喚の地獄絵図が映し出される。
 無惨であった。
 あまりにもたやすく、あっさりと大勢の命が散っていく。
 その凄惨さに三十九人のうちの大半が目や顔を背けたり、吐いたり、うずくまっては震え、すすり泣く者もいた。
 枝垂も辛うじて喉の奥からせり上がってくる吐き気を堪えるのがやっと。
 やがて映像が終わり、ドーム内がふたたび白い空間へと戻った時、ほとんどの者が憔悴しぐったりしていた。
 そこへアナウンスが響く。

『ようこそ、星の勇者諸君! いろいろと戸惑っていることであろうが、詳しいことはおいおい説明するとして、まずは係の者の誘導に従って欲しい』

 アナウンスが終わるなり、ドームの床にいくつものマンホールの蓋ぐらいの光る魔法陣が浮かぶ。そこから出現したのは武装した多数の兵士たちであった。
 揃いの軍服姿にて、手には銃剣みたいな武器を持ち、統率された動きにてたちまち三十九人を取り囲む。
 枝垂のように戦う術を知らぬ一般人は慌てて両手をあげる。
 ちょんまげ頭や軍関係者とおぼしき者らは抵抗する素振りをみせるも、自分たちが武器を所持していないことに気づき断念する。

 三十九人は一人ずつ連行されていく。
 位置的に最後になりそう。
 自分の番がくるのを待つ枝垂は、みんなが連行される際に手の甲を確かめられていることに気がついた。
 ちらりと一番近くにいた人の手を盗み見てみれば、六芒星のタトゥーがある。
 確認してみたら自分の右手にもあった。
 もちろんこんなものを彫った覚えはない。
 召喚された際についたようだ。
 そんな六芒星のタトゥーなのだが、星の中に漢字で一文字『梅』とある。

「なんだコレ? くそダサい」

 わけがわからん。
 梅に星でウメボシとか、ダジャレかよ!
 枝垂はむーんと唇を尖らせた。


しおりを挟む
感想 138

あなたにおすすめの小説

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界転生 我が主のために ~不幸から始まる絶対忠義~ 冒険・戦い・感動を織りなすファンタジー

紫電のチュウニー
ファンタジー
 第四部第一章 新大陸開始中。 開始中(初投稿作品)  転生前も、転生後も 俺は不幸だった。  生まれる前は弱視。  生まれ変わり後は盲目。  そんな人生をメルザは救ってくれた。  あいつのためならば 俺はどんなことでもしよう。  あいつの傍にずっといて、この生涯を捧げたい。  苦楽を共にする多くの仲間たち。自分たちだけの領域。  オリジナルの世界観で描く 感動ストーリーをお届けします。

シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~

尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。 だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。 全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。 勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。 そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。 エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。 これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。 …その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。 妹とは血の繋がりであろうか? 妹とは魂の繋がりである。 兄とは何か? 妹を護る存在である。 かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

異世界勇者~それぞれの物語~

野うさぎ
ファンタジー
 この作品は、異世界勇者~左目に隠された不思議な力は~の番外編です。 ※この小説はカクヨム、なろう、エブリスタ、野いちご、ベリーズカフェ、魔法のアイランドでも投稿しています。  ライブドアブログや、はてなブログにも掲載しています。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...