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002 勇者召喚の儀
しおりを挟むドーム球場ほどもある白い空間内がざわついていた。
紋付き袴のちょんまげ頭がいる。
第二時世界大戦中の航空機のパイロットみたいな服装の人もいる。
フレンチのシェフみたいな格好の人もいれば、セーラー服やブレザー姿の高校生、下駄を履いて学ランを着た大学の応援団っぽいの、スーツ姿の社会人に、近所のスーパーマーケットでみかけるパートのおばちゃん、建設作業員、軍人、農夫、金髪に青い目をした外国人などなど。
性別も世代も時代も国籍も職業も立場も、てんでばらばら。
そんなのが三十九人――
柳川枝垂(やながわしだれ)もその中にいた。
わけがわからない。ついさっきまで高校にいたはずなのに。
二限目の授業が終わって、休憩時間に一人男子トイレに向かう。小用をすませて廊下に出たとおもったら、ここにいた。
どうやらライトノベルではお馴染みの、異世界集団転移というのに巻き込まれたっぽい。
「……にしても、クラスごととかじゃないんだ。ものの見事に顔見知りがいやしない」
枝垂はきょろきょろ。自分以外にも制服姿の男女は混じっている。けれども、どれも知らない制服だ。おそらくは他県のモノだろう。
みんな状況がわからずに戸惑っている。
すると唐突にドーム内が暗転する。
天井や壁が巨大なスクリーンとなって映像が流れ始めた。
☆
巨大な化け物と軍勢との戦い。
まるでスクラップを組み合わせたかのような異形が猛り吠え、暴れ回っている。
対するのは近代兵器っぽいので武装をした兵士たち。実弾に混じって、魔法みたいなのが飛び交い、さらにはいかにも勇者っぽいのが輝く剣を手に突撃しては、仲間たちと共に強大な敵へ敢然と立ち向かっていく。
まるでゲームか映画みたいな光景――
派手なドンパチ、大迫力の映像、初めのうちこそは枝垂たち三十九人はキャアキャア興奮していたが、それもじきに静かになっていき、ついには誰もが黙り込んでしまった。
なぜなら、内容がじょじょに苛烈さを増して血生臭くなっていったからだ。
手足が千切れ、血肉が飛び散り、絶叫と悲鳴が木霊しては、ひたすら死が量産されていく。そこに命の尊厳などは微塵もない。
ファンタジーやSF映画が一転してリアルドキュメンタリーの戦争モノとなり、阿鼻叫喚の地獄絵図が映し出される。
無惨であった。
あまりにもたやすく、あっさりと大勢の命が散っていく。
その凄惨さに三十九人のうちの大半が目や顔を背けたり、吐いたり、うずくまっては震え、すすり泣く者もいた。
枝垂も辛うじて喉の奥からせり上がってくる吐き気を堪えるのがやっと。
やがて映像が終わり、ドーム内がふたたび白い空間へと戻った時、ほとんどの者が憔悴しぐったりしていた。
そこへアナウンスが響く。
『ようこそ、星の勇者諸君! いろいろと戸惑っていることであろうが、詳しいことはおいおい説明するとして、まずは係の者の誘導に従って欲しい』
アナウンスが終わるなり、ドームの床にいくつものマンホールの蓋ぐらいの光る魔法陣が浮かぶ。そこから出現したのは武装した多数の兵士たちであった。
揃いの軍服姿にて、手には銃剣みたいな武器を持ち、統率された動きにてたちまち三十九人を取り囲む。
枝垂のように戦う術を知らぬ一般人は慌てて両手をあげる。
ちょんまげ頭や軍関係者とおぼしき者らは抵抗する素振りをみせるも、自分たちが武器を所持していないことに気づき断念する。
三十九人は一人ずつ連行されていく。
位置的に最後になりそう。
自分の番がくるのを待つ枝垂は、みんなが連行される際に手の甲を確かめられていることに気がついた。
ちらりと一番近くにいた人の手を盗み見てみれば、六芒星のタトゥーがある。
確認してみたら自分の右手にもあった。
もちろんこんなものを彫った覚えはない。
召喚された際についたようだ。
そんな六芒星のタトゥーなのだが、星の中に漢字で一文字『梅』とある。
「なんだコレ? くそダサい」
わけがわからん。
梅に星でウメボシとか、ダジャレかよ!
枝垂はむーんと唇を尖らせた。
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