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001 災い星の降る荒野

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 突如として天界が左へゴトリ、反時計回りに廻り始めた。
 夜空が動く。
 動きがじょじょに加速する。
 まるで車輪のように、もの凄い勢いにてぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる……
 怖いぐらいにギラついていた数多の綺羅星たち、光点が流れ、幾重もの線となり、円を描く。
 大小の光の円が折り重なっては渦となり、ついには螺旋となった。
 その渦の奥底より近づいてくるモノがいる。
 いや、彼方から落ちてきていると言うべきか。
 次第にあらわとなる巨大な異形に、空を見上げていた一同は目を見張り固唾を呑む。

『星の海に歪みあり! 派生・渦、星骸来たる。各国、至急荒野に集うべし』

 天界の運行を監視する星読みの塔より警報が発せられ、伝令が大陸中の国々を駆け巡ったのが、つい九日ほど前のことである。
 これを受けて各国はすぐに軍勢を大陸中央部へと派遣した。
 選りすぐりの精鋭たちが続々と荒野に集う。
 だが此度は報せが急だったこともあり、軍備が十全とはいかない。いつもならば十五日前には異変の予兆が掴めるのだが、ここのところの長雨のせいで兆候を見逃してしまった。そのせいで後続の到着がやや遅れている。
 しかし時は無情にも刻まれていく。
 こちらの都合なんぞはお構いなしに、星骸(せいがい)は襲来する。

「のんびり後続を待っている時間はない。ただちに迎撃態勢をとれ! アレがこちらの世界に馴染む前に削れるだけ削るんだ。そうすればあとは星の勇者どもが、きっと何とかしてくれるっ!」

 連合軍を率いる指揮官が号令を発し、軍勢が動き出す。
 観測官がすぐに星骸の落下予想地点を特定し、それを三方から囲むようにして軍を展開する。
 砲撃隊、魔法師団など遠距離攻撃を得意とする部隊を、互いの射線が被らないように配置し、これを守るように重盾衛士らを並べ鉄壁の陣を敷く。あとは竜騎兵らを遊撃隊として動かし敵を翻弄しつつ、戦況に合わせて勇者隊を投入していく。
 いつも通りの戦術、過去もっとも実績をあげている手堅い討伐の方法だ。
 だがしかし、兵力が揃っていないので陣形に薄い箇所がところどころ見受けられる。
 それに……

「どうにも厭な予感がしてしようがない。ったく、ツイてねえな。あと少しで退役して、古女房と悠々年金暮らしができるはずだったのに」

 夜空にあらわれた不気味な災禍をにらむ指揮官、その頬を冷たい汗がつぅと流れ落ちた。

  ☆

 第二十一次・星骸討伐戦――
 激戦は三日三晩続き、序盤から連合軍側は劣勢に立たされるも、後続の到着が間に合ったことで盛り返し、どうにか討伐に成功する。
 だが被害甚大にて、死傷者行方不明者数は七万を超えた。
 司令部も壊滅し、指揮系統が混乱するさなか、最前線にて奮闘を続けてくれていた勇者隊もじつに半数を失う。
 勝利と呼ぶにはあまりにも惨憺たる結果であった。
 この事態を受けて、急遽開催された国際会合により、新たな勇者召喚の儀を執り行われることが可決される。
 またこれと平行して、連合軍の再建を図ることが急務となった。


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