それいけ!クダンちゃん

月芝

文字の大きさ
29 / 71

028 駄菓子屋 ― 歴史

しおりを挟む
 
「じゃますんで~」
「じゃますんのならかえってや~」
「あいよー……って、なんでやねん!」

 立て板に水のごとき軽妙なるやりとりは、カエちゃんと店主のおばあさんとの会話です。
 言葉を真に受ければひどい応対ですが、ふたりはにんまり。
 どうやら本気で帰れと言ってるわけではなくて、これが駄菓子屋流の挨拶みたいです。
 絶妙な呼吸と間はベテランの漫才師もかくや。
 さりげなくみせて、じつはかなりのハイレベルなコミュニケーション。
 ちょっと憧れますが、一見さんであるクダンちゃんにはとてもマネできそうにありません。

 ふたりのやりとりもさることながら、なんといっても圧巻なのは店内の様子です。
 暖色系の照明はやや薄暗い。
 ですが、これがかもしだす陰影の妙たるや。
 室内に漂っているのは、ほんのり甘い香り。
 これはところ狭しと並べられてある、多種多様な駄菓子たちのもの。

  〇

 駄菓子――
 それは子どもたちのお小遣いでも買える安価なお菓子のこと。
 歴史はとても古く、江戸時代の頃よりあったというから驚きですね。
 流れる刻の変遷とともに、ドンドンと種類が増えていった駄菓子たち。

 とはいえ、しょせんはお子ちゃまらが食べるもんだろう?

 いえいえ、たしかにその通りなのかもしれませんが、たかが駄菓子と侮るなかれ。
 子どもたちの口に入るモノだから、体に良い素材を使うのなんて当たり前。
 価格は可能な限り据え置きにて、よりよい味を追求し、名も無き職人たちが全国の子どもたちの笑顔のためにと、えんやこら。汗水を垂らしては、身と魂を削って作り続けた結晶なのです。
 おかげで子どもたちは健やかに育っていきました。

 そんなスゴイ駄菓子類を扱うお店もまた少しずつ、その姿を変えていきます。
 黎明期は第二次大戦後に訪れた第一次ベビーブーム。
 顧客となる若年層が爆発的に増えたことを背景に、駄菓子屋文化は花開きます。
 この時代には、のちの世で傑作と呼び声の高い、梅ジャム、ココアシガレット、パラソルチョコレートなどが生まれました。

 更なる成長を遂げたのは復興もひと段落し、イケイケゴーゴーへと経済が転じ始めた昭和30年代です。
 ベビースターラーメン、オレンジマーブルガムなどを皮切りにして、レジェンド級の駄菓子たちが続々と登場し、子どもたちの間ではコーラシガレットをくわえながら、カタヌキに興じるのが大流行しました。

 そして訪れたのが駄菓子界の新味覚期。
 昭和45年のことでした。第二次ベビーブームにて、自家用車が普及し始めた頃。
 駄菓子屋に彗星のごとくあらわれたのは、むぎチョコ、梅ミンツ、フエラムネ、フーセンガムら。
 味よし、ボリュームよし、しかも遊べちゃう!
 当時の子どもたちは、どれだけ大きくフーセンガムを膨らませられるかを競っては、パンパン割って顔面に張りつかせては、ケラケラ楽しそうに笑っていたそうです。

 ですが、これ以降、駄菓子屋は一転して暗黒期を迎えることになりました。
 スーパーマーケットやコンビニエンスストアの台頭です。
 これにより販路が広がった駄菓子たち。
 おかげで製造元らは潤いましたが、これまでほぼ販路を独占していた駄菓子屋は大打撃をこうむります。
 加えて、世代交代の波と後継者不足が追い打ちをかけ、全盛期には七万軒ほどもあったのが、みるみる減っていき、ついには一万五千ほどになってしまいました。

 そして……
 起こった第三次世界大戦により、駄菓子と駄菓子屋という存在は、一度、地上から姿を消してしまいました。
 絶滅したのです。

 これを近代になってから復活させたのが、江崎太一郎なる人物でした。
 彼の遠いご先祖さまが、かつて駄菓子の製造会社を営んでいたそうで、たまたま押し入れの整理をしていたら、保存ケースの中から当時のレシピを発見したのです。それとともにご先祖さまの日誌も。
 それを読んだ太一郎氏は、涙ながらに「駄菓子の火を絶やしてなるものか!」と一念発起し、駄菓子作りに乗り出しました。

 開発は困難を極めたそうですが、その活動に賛同する者が次々にあらわれて、ついに駄菓子は復活しました。
 そしてこれを機に、復興の大号令がかけられ、ようやくかつての姿を取り戻したのが、いまからほんの百年ほど前のこと。

 あぁ、偉大なる先人たちに感謝&敬礼!

 駄菓子と駄菓子屋に歴史アリですね。
 ですが幾星霜を経ても変わらないモノがある。
 それは子どもたちから熱い支持です。
 なけなしの小銭を握りしめては、店先にて「う~ん」
 あれにしようか、こちらがいいか、それともやっぱりソレかしらん。
 いやいや、ここは一発大穴狙いでクジを引くという選択も……

 幼いながらに知恵を絞り、計算をし、限られた予算で、いかに渇望を満たすか。ときに友だちと共同出資をしたり、シェアしては友情を育み、たまにケンカもしちゃうけど、やっぱり仲直り……
 ある偉人は自伝の中でこう語っています。

『大切なことは、すべて駄菓子屋で学んだ』と。

 やたらと駄菓子屋の歴史に詳しいクダンちゃん。
 じつは今日のために、図書室でちゃんと予習をしてきたのです。
 ちなみクダンちゃんが熟読してきたのは『歴史道・完全保存版、駄菓子大全』という本です。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。

処理中です...