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014 お昼休み
しおりを挟む午前中の授業が終わり、お昼休みになりました。
待ってましたとばかりに教室を飛び出して行くのは、食堂を利用する子や、購買部でパンを買い求める生徒たちです。
四時限目の終業チャイムが鳴るのと同時に、スクッと無言のまま席を立っては教室の扉をガラリと開け、廊下へ。そこから先は猛ダッシュにて、わき目も振らず食堂を目指します。ちなみち購買部は食堂内にありますので、みな目的地はいっしょです。
それは一年二組だけのことではありません。
他のクラスの生徒たちや、上級生たちもまた大移動を開始します。
お昼時の食堂は飢えたオオカミたちが群れ集う修羅場。
その様はさながら群雄割拠の戦国時代のごとし。
「あれは本当にすごかった。二度と近寄りたくない。ガクブル」
とは、入学してから一度だけ食堂を利用したことがあるカエちゃんの体験談。
そのことを語った際には顔が真っ青になっていたので、よほどおっかなかったのでしょう。
是非、一度ぐらいは食堂に足を運んでみようとおもっていたクダンちゃんですが、この話を聞いてやっぱりしばらく近づくのはよしておくことにと決めました。
そんなカエちゃんですが、さんざんに悩んだ末に、部活は詭弁論部に入りました。
クダンちゃんは園芸部です。
見学で訪れた際に、ちょこまか動いては逃げ回るヒマワリの鉢を捕まえるのを手伝ったのが縁で、そのままなし崩しに入部することに……
と、いささか話がそれてしまいました。
えーと、何の話でしたかしら……あ! そうそう、学校のお昼事情です。
育ち盛りの学生たちにとって、学校での昼食は楽しみでもあり、生きがいでもあります。
ゆえに食堂のあの賑わいなのですが、喧騒とは無縁の生徒たちもいます。
それはお弁当組です。
食料を持参しているがゆえに、確保に奔走することも、他者と争う必要もありません。
でもってクダンちゃんもそのひとり。
カエちゃんによれば「これが持つ者と、持たざる者との格差なのよ」だそうです。
食事時の教室では、自然と仲のいい子らで集まります。
かくいうクダンちゃんも、いっしょにお弁当を広げる仲間ができました。
カエちゃんの他にふたりも!
ひとりはいっつも袖の丈がちょっと長い白衣を制服の上から羽織っている天草波津子――ハッちゃん。
ハッちゃんはバイオ生物部に所属しており、授業中もたいていは難しい生物の図鑑を開いては、先生の話そっちのけでうっとり眺めています。
もうおひとかたは、まるで市松人形みたいな望月千代女――チヨちゃん。
チヨちゃんは、小さくて本当にお人形のよう。
初めて見たときには、自分の家の客間にてケースで飾っている日本人形にそっくりだったもので、クダンちゃんもずいぶんたまげたものでした。
そんなチヨちゃんですが、ものすごーく食べます。自分の顔よりも大きなお弁当箱をみっつもペロリの健啖家。
クダンちゃん、カエちゃん、ハッちゃん、チヨちゃん。
まるで共通点のない四人ですが、気がつけばいっしょにお弁当を食べる仲となっていました。
まぁ、少々個性的な面々ですので、あぶれ者同士が自然とくっついたといえなくもないかも?
そんな四人ですが、食事の仕方もまた四者四様にて。
カエちゃんはわりとせっかちで、手軽に食べられるおにぎりが好み。「これを発明した人は天才だ」とモグモグ。だからだいたいおにぎりです。
クダンちゃんのお弁当箱は漆塗りに螺鈿細工が施されたキレイなもので、中身はお手伝いのカゲリさんが栄養バランスを考えたおかずが数種類入っており、彩りも鮮やか。味については言わずもがな。
ハッちゃんは、防衛軍から格安で払い下げられたブロック型の携帯食をボリボリかじっています。唾液ドロボウで味はいまいちだけど、栄養たっぷり、腹持ちもいい品だそうで。
「腹に入ってしまえば、みんないっしょ」
とハッちゃんは身もふたもありません。
チヨちゃんは先にも述べたように、大きなお弁当箱をいつも五つリュックで背負ってきます。うちふたつは早弁用です。
ちなみに中身は白米びっしりに、オカズ一品が中央にドーンとワンパク仕様です。
食べっぷりもまた豪快で、それでいて米粒ひとつ足りとも残さず、口元も汚さず、キレイに食べるものですから、見ていてとても気持ちがいいです。
ですが、うっかり見惚れていると自分まで食べた気になって、お腹いっぱいになってしまうからちょっと困っちゃう。
けれども心配ご無用。
そんな時はチヨちゃんが手伝ってくれますから。
「……お残しは許されざる大罪。そしてクダンちゃんのお弁当に入っている卵焼きは至高の存在。みんなで拝んで崇めたて祀るべき」
えーと、チヨちゃんの言ってることの意味はよくわかりませんが、気に入ってくれているのかしらん?
クダンちゃんはとりあえずにこにこ、愛想笑いを浮かべておきます。
とまぁ、クダンちゃんのお昼休みは、毎日だいたいこんな感じです。
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