1,000 / 1,003
996 りょうぶん
しおりを挟む店舗の中にパン屋さんが入っているスーパーマーケット。
この商売の形態、わりとあちらこちらで目にするようになってひさしい。
品数と価格とボリュームが手頃にて、焼きたての香りにつられてついフラフラと。
試食とかあったらラッキー!
それが甘い菓子パンとかだったら、さらにラッキー!
でも食パンだと、ちょっとテンションが下がるかも。
本日の試食はチョコを練り込んだクロワッサン。
それを一つもらってモグモグしていたのは、ミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
今日はミヨちゃんのおばあちゃんの買い物に付き合っての来店。
「もぐもぐもぐ、これはこれでおいしいけれども、わたしはやっぱりメロンパンかなぁ」
これまで食べてきた試食を指おり数えて、その中のベストにメロンパンを押すミヨちゃん。
ちなみにヒニクちゃんの押しは、塩こうじを使って焼いた塩パン。噛めば噛むほどにほんのり塩の旨味が口の中に広がるけど、見た目は地味なので渋好みの逸品。
パン屋さんの棚にはいろんな種類のパンが並んでいる。
チョココロネ、メロンパン、アンパン、クリームパン、カレーパン、コッペパン、フレンチトースト、クロワッサン、バターロール、ジャムパン、シナモンロール、ぶどうパン、揚げパン、、サンドイッチ、ベーグル、デニッシュ類、パイ類、フランスパンに食パンなどなど。
目移りして困ってしまうほどに多種多様。豊富なラインナップを前にして、トレイ片手に右往左往するお客さんが続出。なんという豊かな食性!
だが選ぶ楽しみもまたパン食の醍醐味みたいなもの。
だから眺めているだけも楽しい。
しかしミヨちゃんがある商品に目を留めて「うーん」と考え込んだ。
それはピザである。
「これははたしてパンなのか?」
という疑問は前々から抱いていた。
あと販売形式にもちょっと首をかしげている。
一枚売りはわかる。いかにもピザでありピザピザしている。
これが半分となると、とたんに美味しそうに見えなくなる。言い方は悪いが残り物っぽい。
でもってひと切れずつとかになったら、その貧相っぷりは目に余るものがある。
ひと切れ分だけカットされて袋詰めされて、へにょんとなっている姿はちっとも食欲がそそられない。
「そのくせ高いし」とミヨちゃんがぼそり。
そう。パン屋さんの中でピザはじつはお値段高めの商品。
なにせ工程に手間がかかっている。チーズだってたっぷり使っている。具材だってそうだ。生地からこさえていたら、とってもたいへん。
いかに焼き上がりは速いとて、トータルでは他のパンよりも時間がかかっているのかもしれない。
だから価格に反映されるのは、まぁ、しようがない。
問題はバラ売りされると、やたらとマズそう、少なそうに見えることである。
「カレーパンとクリームパン、これにサンドイッチで三つとかいう感じで、いつもは自分の食べられる量と相談して買うんだけど、ピザだとこれが読みにくいんだよねえ」
ぼてっとした個。
ペロンとしたひと切れ。
なんとなく個の方が腹に溜まりそう。
が、実態はひと切れもあなどれない。
ピザは少量にみせかけて、ズドンと胃にくる。「へへん、これぐらい楽勝だぜ」と油断したら危ない!
「っていうか、わりとどこのパン屋さんにも置いてあるけど、はっきり言って需要があるのかな?」
ピザにはピザ屋がある。パンにはパン屋がある。
パン屋がピザに手を出すことは、相手の領分を侵すことにならないか?
専門店があるぐらいの品を片手間で造る。そこに意味は、意義はあるのか?
そんなミヨちゃんの悩みを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「ぜひとも本場の人の意見を拝聴してみたいところ」
海外にあるなんちゃって和食には辟易させられる。
ピザの国の人の目には、この現状はどう映っているの?
やっぱり怒っているのか、それとも笑っているのか。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる