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994 ぴちょん

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 カレーうどん。
 あの魅惑の食べ物ときたら……。
 みんな大好きな麺類とみんな大好きなカレーを合体させた料理。
 最初に考えた人はまちがいなく天才だろう。
 だがそんなカレーうどんにも唯一の欠点がある。
 それは「ちゅるちゅる」勢いよく麺をすするとぴちゃんと跳ねてしまう黄色い汁。
 気をつけていてもなかなか防げない。
 かといって気をつかってばかりだと、おちおち味を楽しめない。
 お店によっては紙の前かけなどを提供してくれているけれども、家だとなかなか。
 ついつい忘れて「ちゅるちゅる」
 で、あっ!

 この難問にこれまで数多の者が挑戦してきた。
 箸をフォークのようにして、パスタのごとく巻き取り食べる。
 ひたすらゆっくりゆっくり、啜るのではなく口に麺を運ぶ。
 ちょっとお行儀が悪いけれどもドンブリに口をつけて、ひたすらかき込む。
 専用のエプロンや前かけ、あるいは汚れていい服に着替えて食す。
 ツワモノになると真っ裸でカレーうどんと向き合ったりもする。

 だが大多数の人間はそんなめんどうなマネはしない。
 というか、おいしいけれどもしょっちゅう食べるわけではないから、ついつい忘れてしまう。
 そして黄点の悲劇に見舞われる。
 でも、ちょっと待って!
 これってミートスパゲティとかでもありうる悲劇じゃないの?
 ざる蕎麦や素麺だって、ラーメンだってたいがい危険だよ。
 なのにどうしてカレーうどんばかりがやり玉にされちゃうのかしらん。

 疑問は疑問として、これを解決する方法としては麺を暴れさせないに尽きる。
 啜るとき、あるいは箸からつるんと落ちるとき、麺の端がぷるんと震えて、ひょうしに滴がぴちょんと跳ねる。
 だからこの揺れを押さえつつ静かに食べるのが吉。
 けれども美味しいモノはがつがつ食べてこそウマいわけで……。

「だからカレーうどんは、うどんじゃないんだよ。うどんと同じ調子で食べちゃダメなんだよ」

 うどんの延長線上にあるのではなく、これそのものが別個の料理。
 そういう認識でないと痛い目を見る。
 ミヨちゃんが「わかっていても、それがムズカシイ」と顔をしかめるのを尻目に、ヒニクちゃんがぼそり。

「ゆっくり食べればいい」

 もしくは小鉢などにとりわけで、お上品に食べる。
 でもそんなチマチマした食べ方だとちっとも美味しくない。
 カレーもうどんもガツガツ食べられるのが醍醐味なのに、
 それを封じる組み合わせ。これを退治できる日が来るのか。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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