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987 だとう
しおりを挟むゾウガメのポンタ。
ヒニクちゃんの家で飼っているペット。
これにエサのキャベツを与えているミヨちゃん。
むしゃむしゃ食べる姿は眺めているだけで癒される。
明るく笑顔がチャーミングで、特にお年寄り連中から可愛がられまくっているミヨちゃんだが、さりとて悩みもある。
ミヨちゃんはモフモフ系に蛇蝎のごとく嫌われる体質なのだ。
その代わりに昆虫類やら爬虫類や魚類なんぞにはめちゃくちゃ好かれる。
だから山に連れて行けばカブトムシが採り放題だし、川や海に連れて行けば魚が釣り放題。
ふつうにハイキングコースを歩いているだけで背中が虫だらけになり、防波堤のきわに立ちバケツをかまえていたら、勝手に魚が飛び込んでくるほど。
どうやら前世の因縁がからんでいるらしいのだが、以前に占ってもらった腕利きの占い師はミヨちゃんを診た翌日には街から姿を消していた。風のウワサではどうやら廃業したらしい。
他にも何人か専門家を自称する人たちに観てもらったものの、トンチンカンな回答ばかりで、どうやら本物は最初の占い師だけだったようだ。
しかしミヨちゃんは可愛いものが好きで、モフモフも大好き。
だからこそ切ない。
ハムスターに手をのばせば「シャー」と前歯むきだして威嚇され、ヒヨコからもあの小さなクチバシでチクチクされる。ペットショップにてショーウインドーにいる子ネコたちから一斉に毛を逆立てられ、ペットショップおよびネコカフェからは出禁を喰らう。遠足で動物園とかに行こうものならば、興奮するアニマルたちのせいで園内がけっこうな騒ぎになってそれどころじゃなくなる。
あげくのはてに撫でられるモフモフが、すっかり冷たくなって動かなくなった動物だけとか、あんまりにもほどがある。
「いつの日にか、モフモフのペットを飼いたい」
それがミヨちゃんが小さな胸の奥にいくつか抱えている野望のうちの一つ。
しかし実現への道筋はいまだ見えず。
「いや、べつにカメはカメでかわいいんだよ。ポンタはいい子だしね。でも、やっぱりわたしはぬくもりが欲しいの」
にゅいんと天に向かってのびたポンタの首。
ゾウガメの頭をてらてら撫でながら本音を吐露するミヨちゃん。
そんな親友の姿をじーっと静かに見つめているヒニクちゃん。彼女の方は彼女の方で、やたらめったら獣たちに好かれまくる性質。
ひと声かけたら街中のカラスやらネコやらイヌとかがすぐさま馳せ参じるほどに。ゆえについたあだ名が「獣の女王」である。
ミヨちゃんからしたらうらやましくてたまらないのだが、やはり当人には当人なりの苦労や不満もある。
なんというかポンタを飼っていることからもわかるように、ヒニクちゃんはモフモフ系にはたいして思い入れがない。
「愛するより愛されるほうがしあわせっていうけど、あれはウソだよね」
物憂げなミヨちゃんのつぶやき。
これを受けてヒニクちゃんもぼそり。
「ミスマッチの悲劇」
みんなからモテモテでも、一番好きな相手は振り向かない。
欲しいモノと手に入るモノとはちがう。そこで満足することを
妥協と考えるか、妥当と考えるかで人生はかなりちがってくる。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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