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975 かおだし
しおりを挟むとあるアニメ映画が空前絶後の大ヒット!
またたくまに歴代記録を塗り替えていく。
実際に作品の内容が良かったこともあるが、時勢や運の要素も否定はできない。
あと途中からその人気にあやかろうと関係各社が本気になったことも大きい。
一部オマケ商法的な点などもあってやや鼻についたものの、やっぱり作品そのものにチカラがあった。大勢の人を動かし、その心に働きかけ、突き動かすパワーがあった。
だからこその大ヒットであったのだ。
一方でその陰に隠れて沈んだ作品もある。
でもそれとてもけっして悪い作品ではなかった。
そうそうたる制作陣、金も、気合いも、時間も、労力も、たっぷりかけた良作。
ただしかけた分だけ元をとろうと欲をかいて、売り気がしょうしょう強すぎた。
めったやたらと垂れ流されるテレビコマーシャル。
そのたびにナレーションが声高に叫ぶ。
「近年まれにみる名作が誕生」とか「面白い。満足度百パーセント」とか「リピーター続出」とか「感動することまちがいなし」などなど。
堂々と売り文句にしているぐらいだから、それなりに自信はあるのだろう。
でも、いい加減、気づいてほしい。
その手の台詞って、言われれば言われるほどに聞く側の気持ちが萎えてしまうということを。ずんずん冷めてしまうということを。
加えてダメなのが、原作者が前面に出てくるパターン。
得意げにインタビューを受けて、密着取材にて気取って、とうとう語る。
それが作家歴うん十年のレジェンド級とかならば、まだいいけど。
ポッと出のよくわからない、イキリとかだともう痛々しくってとても見ていられない。
言動の端々がとにかく鼻につく。
作家と作品の内容は関係ないとはいえ、影がちらつくようになって作品に集中できなくなる。世界に浸れなくなる。
あげくに事務所やら配給元のごり押し感がアリアリだと、見る側の心にむくりとかま首をもたげるのが天邪鬼な気持ち。
せっかく面白そうなコマーシャルとかですらも、うがった目で見てしまう。色メガネの度数がキツクなってしまう。評価のハードルが意味もなく高くなってしまう。それこそいちゃもんレベルの粗探しにまで発展することも。そうなるともう悲惨だ。
駅前の映画館の告知スペースには、ただいま上映している映画のポスターが張り出されてある。
それを見上げているミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
本日はべつに映画鑑賞に来たわけではない。たまさか通りがかっただけのこと。
二つ並ぶポスター。
左のは大ヒット御礼の作品。マンガ原作にてテレビアニメのヒットにあと押しされての映画化。
右のはやる気が空回りしている感のある作品。絵本原作にて児童文学としてもなかなか優れており、いきなりの大抜擢での映画化。
「数字はともかくとして、スゴイのは右なんだよねえ。なんといってもいきなりの映画化だもの。それだけ光るものがなければ、そんな大博打をうたないと思うの。でも……」
関係各所が博打の損を少しでも取り戻そうと躍起になるほどに、結果はうーん。
流行ってのは作為的であればあるほどに、勘づかれたときの消費者の反応がとってもシビアになる。
「でも、長く語り継がれて、息が長いのはきっと右の方だとおもうんだよねえ」
ミヨちゃんのそんな意見を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「昔は著者近影が普通に表紙に載っていた」
少年誌系列はとくに多かった。一方で少女マンガ系列は、
イラストとかで誤魔化しており、顔出しNGも多かったのは、
あくまで作家は夢を売る仕事だからとの心意気ゆえに。
作家が前面に出だすと、だいたいロクなことにならない。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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