上 下
977 / 1,003

973 きばつ

しおりを挟む
 
「わたしたちずっと友だちだよね」
「もちろんだよ。手紙書くから」
「うん。わたしもぜったいに返事を書くから」

 そうして涙ながらに別れたクラスメイト。
 メールにライン、携帯電話などなど。
 近年、遠方との連絡手段にはことかかない。
 だから連絡をとろうとおもえばいつでもとれる。
 なのに疎遠になる。
 こまめに連絡を取り合っていても、次第に話題がかみ合わなくなる。
 それもそのはずだ。各々にて流れている時間が、生活がちがうのだから。
 同じようでちがう環境。住む地域によって考え方もちがえば、流行も異なるし、好みも変化する。
 あるところではホットな話題が、他所では箸にも棒にもかからないなんてことはしょっちゅう。
 テレビの内容だって地域によって異なる。
 当然ながら共通の話題はない。もとからあった分は限られるので、次第に底をつき、ついにはぐるぐるマンネリ化。
 やがてめんどう臭くなって、倦怠期に突入しおざなりな対応になってくる。
 そして週一が、二週に一回となり、それが月一となり、三か月に一回となり、気づけば年に一回あればマシ、だいたいがそのまま自然消滅して没交渉となる。
 距離とはそれだけやっかいなのだ。
 たとえ愛し合う恋人同士ですらもが、じょじょに冷めてしまうほどに。
 遠くの親戚より近くの知り合いとはよくいったもの。

 なんぞということが起こってしまうかもしれない。
 いままさに出発しようとしている引っ越しのトラック。
 その姿から勝手に妄想するミヨちゃん。人生はかもしれないの連続なのだ。

「むかしよりもずっとつながりやすいはずなのに、手軽になったぶん、むしろありがたみが失せているような気がする」

 メールは簡単だけど、どこか重みに欠ける。言葉がどうにも軽くて上滑りしている感がある。
 往来の自粛とかのせいで、分断される人々。
 孫にあえないおじいちゃんおばあちゃんたちはとってもさみしそう。
 友だちと気軽に遊べない子どもたちもとってもさみしそう。
 買い物帰りに井戸端会議をしているおばさんたちは、わりといつも通りにくっちゃべってる。
 物理的距離もやっかいだが精神的な距離の乖離もまたやっかい。

「やれリモートだとかいってるけど、けっきょく最後は対面になるんだよねえ。やっぱり面と向かってツノを突き合わさないと、人間はダメなんだよ」

 それらが本当に不要であれば、そもそもビジネスの出張とかいらないという話になる。
 でもちっとも無くならない。
 古いだとか新しいとか関係なしに、人の本質がそれを求めているのだろう。
 どうしても捨てられないモノがある。

「やっぱり温もりが必要なんだと思う。そこでわたしは考えたの」

 それはほんのり温かいスマートフォンの開発。
 熱暴走を避けるために、メーカーさんは極力温度があがらないようにと苦心してきたけれども、そこをあえて逆転の発想で。
 触れているとやすらぎを感じるひと肌の温度。
 理想はイヌかネコをギュッとしたときぐらい。
 ついでにモフモフ毛も生やしちゃってもいいかもしれない。
 なんとも奇抜なアイデアをミヨちゃんよりきかされて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「たしかにこの頃の商品には遊びが足りない」

 機能の向上を優先するあまり、なんとなく方向性が定まって
 すっかりつまらなくなった新作の発表会。そんなに画質ばかり
 良くなってもねえ。ワクワクがちっとも足りない。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...