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956 さいさき
しおりを挟む昨夜は寒風がびゅうびゅう。
粉雪ちらちらにて、凍えるような寒さであった。
朝がきてもどんより曇り空にて、うすら寒いばかり。
でもお昼を前にしてお日さまが顔を出したとたんに、一転して風もやんでポカポカ。
絶好の散歩日和となる。
そこでミヨちゃんとヒニクちゃんの二人は、少し遠出をして山の手の方にある地元で一番大きな神社へお参りに行くことにした。
「こういうのって『さいさきもうで』っていうんだって」
黄色のダウンジャケットに、ピンクの毛糸の手袋をはめたミヨちゃん。
おばあちゃんからそう聞いたと言った。
新年になってからの初詣が定番なのだけれども、昨今の諸事情をかんがみて密密な混雑を避けるために時期をずらし、前倒しにてお参りすること。
でも、これってもうただのお参りじゃね?
と思わなくもないけれども、古来よりモノはいいようとも伝わることだし。
ミヨちゃんのおばあちゃんも「一日、二日のズレ程度で、神さまがいちいち目くじらを立てたりするもんか」と笑っていた。
だから幼女たち二人は出かけることにする。
バスで駅前まで行ってから、そこからは北へと向かって通りを真っ直ぐに進む。
するとじきに大きな石の鳥居が見えてくる。
これが一の鳥居。
ここから緩やかな坂道となり、突き当りまでいくと急な斜面となる。
二の鳥居をくぐり、けっこうえぐい斜面をえっちらおっちらのぼる。
いちおう脇に手すりのある階段も設置されているが、ここはあえて困難な道を選ぶ。
なんとなく汗をかいて苦労した方が、神さまの受けが良さそうだから。
大人の背丈ほどもある石灯篭の行列を左右に眺めつつ、のぼりきった先にて三の鳥居があって、ようやく本殿がお目見え。
こう記すといかにも広くて大きな神社の境内を想像するかもしれないが、実際には敷地こそはそこそこ広いものの、建物はわりとこじんまりとしている。
でっかい仁王像やら狛犬にコンコン稲荷もいなければ、見上げるほどに立派な社殿もない。
ただ小さな祠がたくさんあるのが、ここの特徴。
一か所で商売繁盛から、子宝安産、学業成就、健康、縁切りまたは縁むすび、芸事の神さま、勝負運をつかさどるもの、はてはネコやイヌなどのペットの神さまなんかまで幅広く祀られてある。
なんとも節操のないこの形態は、その時々に流行りものに乗っかったり、参拝客らの要望なんぞに応えているうちにこうなった次第。
全部で二十近くもある祠。
そのすべてに賽銭箱がもうけられており、端から順にまわったらけっこうな金額をむしりとられちゃう。
しかもこれだけでは飽き足らずに、近頃では二次元も導入。
今風のかわいい、かっこいいイラストにてアニメ化された神さまの等身大パネルなんぞを置いては、おみくじとかお守りの横に並べてグッズ販売している。
ちょっとあきれる話だけれども、この収益がバカにならないからあなどれない。
「まぁ、いまのところバチは当たってないみたいだし、神さまも大目に見てくれているってことかなぁ」
裾の丈がけしからん位置にあって、太腿があらわな二次元美少女巫女キャラのパネルを前にして、ミヨちゃんが「やれやれ」とためいき。
「たしかにかわいいよ。不祥事も起こさないしね。でも情緒がない。あとこんな金髪ツインテールはありえない」
お参りしながらミヨちゃんがぶつくさ。
するとここでおもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「勝手に神さまの代行者を気取って、騒動を起こすよりはマシ」
とある宗教の信者が千人単位の暴徒と化して、
とあるべつの宗教の教会へカチコミをかけたとか。
血と生贄を求める時点で、それは邪教の類だと思う。
みずからが信じる神とその教えを穢してどうするの?
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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