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954 おと
しおりを挟むパァン!
唐突に道路に鋭い音が響いた。
どうやらオートバイのタイヤがパンクしたらしい。
運転中にもかかわらず、さいわいなことにオートバイは転倒をまぬがれて、ドライバーは無事。周囲にも被害がおよぶことはなかった。
これをたまさか横断歩道にて信号待ち中に見かけた、ミヨちゃんとヒニクちゃんの幼女二人。
おどろいたミヨちゃん。とっさに耳をふさいでその場でしゃがみ込む。
しばらくしてから、おそるおそる立ち上がったものの唇が真っ青。
「はぁーっ、びっくりしたねえ」
かすかに震えているミヨちゃんの手を握って、ヒニクちゃんがよしよし頭を撫でる。
音というものは、ときに心胆を凍えさせるもの。
イヌやネコが大きな音を嫌うように。
大人がパトカーや救急車のサイレンの音にびくりとするように。
子どもが嫌う音というものもある。
いや、誰にだってというべきか。
ちなみにミヨちゃんは風船が割れるような音と、あとはプラスチック製の洗濯カゴの取っ手部分がポテンと倒れたさいに鳴る音があまり好きじゃない。
風船はともかくカゴの方は自分でもよくわからない。
「なんだかみょうにイラっとするんだよねえ」
ミヨちゃんは首をコテンとかしげる。
だったらスーパーマーケットとか、ホームセンターなどのお店に置いてある買い物カゴもイヤなのかというと、そんなことはない。
ミヨちゃんが反応するのは、あくまで自分の家の洗濯カゴ。
べつに珍しいものでもない。
アレの何がいったい自分の琴線に触れるのか?
一方でみんなが嫌がる音には、ミヨちゃんは無頓着なところがある。
たとえば黒板をキーッとひっかくあの音とか。
扉を勢いよく閉めると鳴るバタンという音。
もしくはドタドタと階段を下りたり、廊下を歩く音とか。
トイレの水をジャバ―と流す音とか。
兄二人がいる男兄弟の末妹として生活しているせいか、周辺はわりと騒々しい。
両親に兄二人に祖母と自分の計六人もの人間が、ふつう規模の一戸建てにて暮らしていれば、生活音はどうしたって縁が切れないもの。
いちいち気にしていたら神経がもたない。
なのに洗濯カゴだけはイラっとしちゃう。
「しゅうはすう? とかいうやつのせいなかなぁ。パズルのピースがぴたりとはまるみたいに、耳にマッチする音があるんだよって、おばあちゃんとかは言ってたんだけど」
そういうおばあちゃんは、ゲップの音があまり好きじゃない。
特に男の人の遠慮のないのを耳にしたら、たちまち目元が険しくなるぐらいに。
だからヤマダ家で男性陣はわりと気をつけている。
でも末孫娘の「けふっ」というかわいらしい音にはぜんぜん目くじらを立てたりしないから、勝手といえば勝手な話でもある。
「音ってふしぎだねえ」
ミヨちゃんがしみじみそうつぶやいたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「不快な音と危険な音」
不快に感じる音の周波数は群れでの警戒音に似ているとか。
ならばみんなが反応しそうなものなのに、そうでもない。
肉食獣のうなり声、蚊のモスキート音、特殊なイヌ笛などなど。
耳の性能差によるらしいけど、歳をとるほどに鈍くなるのは確か。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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