941 / 1,003
937 どん
しおりを挟む横断歩道にて。
信号は赤だけど車の影はなし。
だから「ええい、行っちゃえ」とペダルをこいだ自転車の高校生。
とたんに進み出す自転車。
しかし道路をなかほどまで進んだところで車がっ!
急ブレーキの音が鳴り響くも間に合わない。
どんっ。
鈍く重たい音がした。
自転車が跳ねられガチャンと哭いた。
それと同時にボンネットの上を転がる高校生。その体がフロントガラスに当たったところで、ようやく車が停止。
まるで世界が静止画のようになった。
でもそれもほんの一瞬。
すぐに世界はふたたび動き出す。
黒い制服姿がごろりと転がり、車の上からずり落ちることによって……。
しーんと静まり返ったのは子どもたち。
交通事故の場面を目撃してすっかり固まってしまったのである。
が、だいじょうぶ。
これは小学校で行われている交通安全講習の一環のショーだから。
とはいえみんなちょっと舐めていた。
こういう見世物があることは知っており、どういうものかわかっていたから、「どうせたいしたことないだろう」ぐらいの軽い気分で臨んでいたのである。
でも聞くと見るのとでは大ちがい。迫真の演技、生々しい音、実際の衝撃まで伝わるようで、まるで自身が体験したかのように感じて、すっかり気圧されてしまった。
あまりのことにグスグス泣き出す子までいるほどであった。
ようはお灸がちょいと効き過ぎたのである。
高校生役のお兄さんがすくっと立ち上がり手をあげて健在ぶりをアピールしても、司会進行役の婦警のお姉さんが「だいじょうぶだよ。みんなも気をつけようねえ」と言っても会場の空気は微妙なままであった。
そんな中でミヨちゃんは「すごい迫力だったよねえ。」と驚いており、チエミちゃんは「スタントマン、かっこいい」とほわほわし、アイちゃんは「とはいえ、さすがにおじさんに高校生役はキツイはね」と制服姿を酷評し、リョウコちゃんは「すごい反射神経だ。それに体の柔軟性もすごい」とホメる。
交通ルールは守りましょう。
横断歩道を渡るときには気をつけましょう。
ということが大切なのは理解しつつも、ついついちがう視点で物事をみちゃう幼女たち。
それらを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「交通事故が多いのは朝と夕方」
朝の通勤通学の時間帯はみんな急いでいるから。
黄昏時は一日の疲れがどっと出て、視認性が下がるから。
ちなみに死亡事故は夜が圧倒的に多いとのこと。
あと師走になると事故が増えるから注意しよう。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
0
お気に入りに追加
37
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる