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936 べんり
しおりを挟むぶぅーん。
唸りをあげているのは掃除機のモーター。
吸引力が売りで、珍しく家電量販店にてお母さんがひと目惚れをして即決購入した品。
半透明なパーツがふんだんに使われ見た目は近未来的なデザイン。
使い心地は従来の掃除機と変わらないけれども、成果が段ちがい!
という話だったのだが、まぁ、実際はそこそこである。
カーペットにからまった髪の毛はなかなか吸い込まないし、ソファーにくっついたペットの毛もやっぱりなかなか吸い込まない。
でもこれは掃除機の性能うんぬんではなくて、対象素材の構造に原因がある。
ゴミとかがくっつくのではなくて、からみついたり、繊維と繊維の間にもぐりこんだり、それこそ編み物のようになってぐねぐね。
だからちょっとやそっと吸い込んだ程度では抜けやしない。
ぶっちゃけ粘着テープのコロコロとか、手でつまんで拾ったほうが早い。
とはいえせっかく買った掃除機を使わないのは負けたような気がする。
そこでまずは掃除機をかけて、細かい仕上げは手作業で。
というのが一連の掃除の手順になりつつある、ミヨちゃんのお宅。
だからミヨちゃんも自室の掃除をするときには、この方法を遵守していた。
でないとお母さんがすねるからだ。
だがしかし……。
ぶぅーん、うん、うぃん、ううぬぅん?
急にモーター音が弱く鈍くなり、とたんに吸い込みがパワーダウン。レッドランプも点灯。
これを前にして「ちっ」とミヨちゃん舌打ち。「またか」とつぶやく。
新型掃除機はたしかに吸引力が従来のものより強い。ぐんぐん吸い取る。でもわりとすぐにつまって、このように「もうむり」とへたる。
細かいチリを吸い込み、内部でぐるぐるしてまとめるという構造上、すぐにフィルターが目詰まりを起こしてしまうのである。
いわば性能が良すぎるがゆえの悲劇。
その都度、たまったゴミを捨てて、フィルターを掃除し、きれいにしてやらないと機嫌が直らない困ったちゃん。
便利だけどおそろしく手間がかかる機械。
そこがかわいいと言えるだけの度量がミヨちゃんにあればよかったのだが、あいにくと小学二年生にそんなものを求められても困る。
そしてそれはお母さんのみならず祖母や二人の兄、父たちも似たようなもの。
使ったあとは、毎回、キレイに整備すれば問題ないのだけど、ただでさえ掃除は重労働でめんどうくさいのに、それを片づけたあとにそんなことまでやってられない。
だからツケが次の人にまわる。でもってその次の人もやっぱり知らんぷりするから……。
誰のところで限界を迎えるかのチキンレース。
今回は運悪くミヨちゃんの番らしい。やれやれである。
後日、いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校中のこと。
なんてことがあったとグチりつつミヨちゃんはしみじみ。
「なんだかんだでホウキが最強なのかもしれない」
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「便利は存外なくても平気」
あったら助かるけど、なければないでどうにかなるもの。
他のものやちがう方法で応用がきくものも多い。
よくよく考えてみたら、あれ? なこと。
アイデアグッズとか、だいたい最初しか使わないし。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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