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930 いろつき
しおりを挟むそうめん。
夏の風物詩のような食べ物。でも冬でもおいしい。にゅうめんとか最高。
しかし子どもはあまり好きじゃない。ラーメンやソバは好きなのに、そうめんだとダメ。
なぜなら夏になるとやたらと続くからだ。
でも大人になるとわりと好きになる。
なぜならその良さに気がつくからだ。
家で作るとどうしても小さな鍋で大量にぐつぐつ煮詰め、水道のぬるい水で適当にしめるから、せっかく茹でたそうめんの味が微妙になってしまう。
でも大きな寸胴で、たっぷりのお湯の中を泳がせて、これを凍えるほどの冷水にてキュッとしめたら、「これまで食べてたのは何だったのか!」とうなる美食へと昇華されるのである。
専門店とかそうめんをメニューで出しているところで食べてみるのもいいだろう。
まさに目からウロコという体験ができるはずだ。
が、それは外食が自由にできるようになる大人になってからのこと。
子どもたちは家の食卓にのぼるモサモサねとねとのそうめんを食べるしかない。
けれどもそんな子どもたちがこぞって欲するそうめんもある。
それが色つき。
くすんだ白いめんの中に、ちょろりと泳ぐ赤い糸。
味はいっしょのはずなのに、それは特別にして格別なような気がしてしようがない。
似たようなパターンではホールケーキにのっているチョコ板。
「おめでとう」とか「ハッピーバースデー」とかメッセージが書かれてあるアレ。
もしくはマジパンで作られた人形とか。
限られた存在ゆえに、これを食せるのは限られた者ばかり。
もしも一人っ子ならばほぼ確実に食べられるけれども、兄弟姉妹がいたら確立はがくんと下がる。
この問題を解決するために、よく用いられるのが、じゃんけんにて公正に誰が食べるかを決めるという方法。
一見すると平等にみえるけれども、じつはちがう。
よくよく考えてみてほしい。兄と弟では年季がちがう。先に生まれた分だけ場数を踏んでいるのだ。ぜったいに覆せない経験値の差がある。
たかがじゃんけん、されどじゃんけんなのだ。
給食のフルーツポンチ。
パイナップル、みかん、モモ、さくらんぼ、黒豆、寒天などが甘いシロップに入ったデザート。
当番の子はバランスよくよそってくれる。
だからおおむねみんなに不満はない。
だがそんな当番の子をおおいに悩ますのが色つきの寒天。白いのにまじってたまに赤いのが入っていたりする。
味はいっしょだ。白も赤もかわらない。それでも何やら特別感のする赤い寒天は羨望のまととなる。
それゆえに行方もまた……。
なぜ我々はこんなにも色つきに強く引きつけられるのであろうか?
どうしてこんなにも心惹かれるのであろうか?
どうしてあんなにキラキラして見えるのであろうか?
いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの下校中に、そんな疑問を口にしたミヨちゃん。
これを受けてしばし沈考ののちに、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「色をかえて、角をつけただけで売り上げがうん十倍増したプラモデルもある」
シャツにしろダウンジャケットにしろ、売れ筋の色がある。
男性は茶系統や濃い抹茶色なんぞを好み、女性はピンクがやはり強い。
だからとてすべてが赤いそうめんはいまいち。限定風味こそが美味。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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