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927 たりない
しおりを挟む楽しい楽しい給食の時間。
オカズによってはその楽しさは倍増する。
そしてデザート次第ではさらにバイバイどんどん。
そして本日はプリンの日。
だから朝から子どもたちはソワソワして落ち着かない。ちょっとしたお祭り騒ぎといってはさすがに過言ではあるけれども、それぐらい楽しみにしていたということ。
昔ながらの製法にて作られたちょっと固めのプリン。
素朴な味わいを愛する在校生や卒業生は数多。
だから「一般販売してくれ」との声も尽きないのだけれども、業者はかたくなに給食でのみの提供を続けている。
その理由は業者の社長夫婦の過去にある。
待望の子を授かるも幼くして病で失ってしまった息子。
悲嘆にくれる夫婦。そんなときに思い出したのが、あの子が好きだったプリン。
グズって泣いていたあの子も、たちまち笑顔にしてしまうプリン。
いつまでもうつむいてばかりいてはダメだ。息子もきっと悲しむにちがいない。
「そうだ。これからはプリンを作って大勢の子どもたちを笑顔にしよう」
かくして現代へと至り、名物プリンはみんなから愛され続けている。
そんな素敵エピソードもあるから、なおさらミヨちゃんたちもプリンには想い入れが強い。
だというのに……。
「あれ、あれれ、なんで? プリンが足りないよ!」
生徒と先生の分と予備のプラスワン。これが定量。
なのに三つも足りないとあって、お昼時の教室は大騒ぎとなった。
一つならばいい。だが三つは多すぎる。たとえヨーコ先生が血涙の果てにガマンしたとしても、まだ足りない。
「ちょっと! 先生だってイヤだからね。いざともなったら全員参加のじゃんけん大会だらかね」
などという先生のおとなげない訴えは聞こえないフリをして……。
これは由々しき問題である。
どうあっても犠牲者が出るのだから。
しかしこの騒動には続きがあった。他の学年やクラスでも同じようなケースが続出したのである。
だから「もしかして配送ミスかも」との声もあがるが、搬入の際に検品を担当した者が「それだけはぜったいにない」と断言する。
じつは子どもたちの口に入るものだからと、この小学校ではきちんと記録をとってあるのである。それも書類と目視と映像のトリプルチェックにて。
となれば次に考えられる可能性は、搬入後に盗まれたということ。
こうなると生徒の誰かが犯人なのかもしれない。
だが生徒間での犯人捜しなんてことは断じて容認できない。学校側はおおいに悩んだ。
かといって、なあなあで済ますも教育上どうかと思われる。
悩める教師陣。
怒る子どもたち。
学校内に充ちるなんともいえない緊張感。
それが解消されたのは、ついに犯人が判明したから。
教師たちは考えた。
外部から誰かが侵入した形跡はない。
内部犯の説は濃厚だが、だからとて子どもを疑うのもちがうだろう。
すると職員会議の最中にヨーコ先生がぼそり。
「そういやあ、気づかないうちに屋根裏に知らないおっさんが住み着いていたとかいう話が、海外であったなぁ」
外国で実際に起こった珍しい事件を再現ドラマで紹介するテレビ特番。
そこでやっていたという話を聞いて、みんな「まさかねえ」と笑うも、「とりあえず調べてみるか」となった。
で、本当に出ちゃったものだから、たいそうおどろいた!
犯人もとっとと逃げ出せばいいものを、図々しくも校内に居座っていたのは「プリンがウマすぎてまた食べたいと思ったから」というから、もう呆れるしかない。
この事件を受けてミヨちゃんは「最強プリンだよ」と妙なところで感心し、ヒニクちゃんはぼそり。
「すべてのプリンは等しく尊い」
極限のやわらかさ、なめらかさを追求する一方で、
あえてしっかりめの固い食感を貫く道もある。
時代を超えて愛される存在。なのに絶えず進化発展を模索する。
人もかくありたい。それがプリン。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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