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925 しちや
しおりを挟むミヨちゃんが住んでいる近くの商店街には由緒正しい質屋がある。
すでに四代続く老舗にて、五代目候補もしっかり確保して英才教育を施しているときく。
ショーウインドーにはブランドのバックやら時計のほかに、刀やら指輪に、根付けや仏像っぽいのが所せましと飾られてある。
とはいえこれらはすべてフェイク。
かつては店主の気まぐれで「これは!」という逸品を飾っていたんだけれども、近頃ではドロボウの手口もすっかり荒くなって、うっかり並べて置いておくこともできなくなった。
忍ぶ隠れるなどという考えがさらさらなくって、いきなり車で突っ込んでくるパターンもあるというからおどろきだ。海外だと重機で銀行のATMを襲ったりもするんだとか。
質屋も防犯上の観点から、いちおう強化ガラスにて人力程度ではビクともしないけど、わずかながらにもガラスにダメージを喰らう。
ヒビなどの傷がついたとたんに強度が下がるから、結局、総とっかけ。
これがまた高くつく。
結果として大赤字になって踏んだりけったり。
ミヨちゃんたちのような小学生に質屋は縁がない場所。
だからいつも通り過ぎるだけで、たまに店先の品をちらっと眺める程度だった。
甲冑とか日本刀とかだとレプリカでもそれなりに見ごたえがあるけど。
で、今回は怪しげな像が飾ってあったので、たまさか通りがかったミヨちゃんとヒニクちゃんは二人して「へんなのー」と眺めていた。
するとその脇を抜けて来店する客があった。
男の人なんだけど、なんとなく雰囲気が物々しい。すさんだ空気をまとっているというか。
幼女たちですらもが不穏な気配を察したぐらいだから、百戦錬磨の質屋の店主や店員たちならば、たちまちピンとくるものがあった。
気になったミヨちゃんたち。
ガラス越しに店内の様子をこっそりうかがう。
するとカウンターに座った男性が懐から取り出していたのは、高そうな時計やら宝飾類たち。
時計はまぁ、わからなくもない。けれども指輪やネックレスはどうにも似合わない。というかはっきりいってきな臭い。
かと思えば、店主がちらりとこっちを見てニヤッと笑ったもんだから、ミヨちゃんたちはびくり!
何やらごにょごにょ男とやり取りしていた店主。
店員に声をかけてコーヒーやら茶菓子なんぞを用意させる。
どうやら鑑定に少々時間がかかるから、ゆっくりしていてくれとでも言っているらしい。
明らかなる時間稼ぎ。
はたから見ていたら丸わかり。なのに当事者の男はまるで気づかない。熱々のコーヒーをすすっている。以外とそういうものみたい。
それから十分とたたずに少し店から離れたところにパトカーが到着。
サイレンを鳴らさず静かに停車したと思ったら、なかからぞろぞろお巡りさん。
そこから先はあっという間だった。
捕り物とすらも呼べずに、またたくまに御用となった男。
でもって持ち込んだ品はやっぱり盗品だったらしい。
一部始終を見ていたミヨちゃんたち。
「逮捕劇ってあんがい静かなもんなんだねえ」
ミヨちゃんの感想に、ヒニクちゃんもこくこくうなづく。
するとこれを聞いて「くくく」と笑ったのは質屋の店主。「盗品を質屋に持ち込んでる時点で、そんなに悪いやつじゃないんだよ」と言った。
質屋ってのは、ただ売買をするだけのリサイクルショップとはちがう。
質草として品物を預かり、お金を用立てる。期限内に品を取り戻すかどうかは、その品への思い入れに左右されるところが大きい。
つまり人と物と金の繋がりがとても強い商売だということ。
いまの世の中便利な道具はいくらでもあるから、その気になったら品物なんてどうとでもさばける。なのに質屋に通うのは、根っこのところで人との付き合いを断ち切れない証拠。
「本当の悪党だったら出刃包丁片手に質屋に押し入ってくるさ。もっとも来たら来たで自慢の愛刀でばっさり返り討ちにしてやるがな」
そう言ってニヤリと笑った店主。
これを前にしてヒニクちゃんがぼそり。
「いい質屋があるところは、いい街なんだとか」
義理と人情、繋がりがあるから信用が産まれる。
繋がりと信用があるから心に余裕が生まれる。
結局のところ人を活かすも殺すも腐らすのも人次第。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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