ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

920 さぴえんす

　
　柿がなっている。
　そりゃあもう鈴なりに。
　なのにカラスの一匹も近寄ってきやしない。
　どうやら渋柿のようだ。
　どういうわけだか連中はそれを見抜く。
　とてもふしぎだ。
　ふしぎといえば、柿という果物はもともと渋いものなんだという。
　甘い柿こそが異端なのである。いわゆる突然変異というもの。
　何がどうなって甘くなろうと考えたのは定かではないが、きっと何か思うところがあったのであろう。
　でもって渋い柿なのだが、処理をすれば甘くなる。

　・アルコールや炭酸ガスで渋い成分を抜く。
　・皮をむいて干す。
　・吊るし柿にする。

　などの方法があり、柿の名産地などでは脱渋庫なる設備を有しているところもある。
　これは内部に炭酸ガスを充満させることができる施設で、ほんの二日ほどで効率よく渋が抜けるというシロモノ。
　アルコールを用いるときには、樹上になっている段階でひとつずつ袋でおおって処理を行うから、とっても手間がかかる。だがその分だけ完熟度合いが半端ない。もちろんそれだけ甘味も増す。
　家で行うのならば、お手軽なのはヘタのところに焼酎をちょんちょんとつける方法。
　やや加減がムズカシイけれども、うまくいくといい感じに仕上がる。
　あとはお風呂に入れたりする方法もあるけど、こちらは後始末がちょっとたいへんかも。

　たわわに実った柿の木。
　それを見上げながらミヨちゃんがぼそっと言った。

「まえにヒロ兄ちゃんから聞いたんだけど、トリってばちゃんと柿の実が熟してからつつくんだって。でもサルは青いのでもかじっちゃうんことがあるんだってさ」

　トリとサル。
　いちがいにどちらが優れた動物か決めるのはどうかと思うけど、少なくとも知能が高いと考えられているのはサルの方。
　なのにサルはウマくもない青い柿をかじる。
　賢いはずなのにいったいどうしてなんだろう？
　サルカニ合戦の昔話ではちゃんと甘い実は自分で食べて、マズイ青い柿だけをカニにおみまいしていたというのに。
　そんなミヨちゃんの疑問を受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「人間に近いからこそ、かも」

　ボタンがあれば押したくなる。穴があればのぞきたくなる。
　箱があれば中身が気になるし、マズイと評判のお菓子ならば
　ちょいとつまんでみたくなる。それがサピエンスという生き物。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。