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917 らいん
しおりを挟む図書館でたまに見かける光景がある。
あるお年寄りがぷんすか怒っている。
何を怒っているのかとおもえば、探している本が見つからない。どこにもない!
で、騒ぎを聞きつけた司書さんが「はいはい」と協力して探すと、すぐに見つかる。
べつにムズカシイところにあったわけじゃない。
ジャンルちがいの棚にまぎれこんでいたわけでもない。
ふつうに「あいうえお」の著者順の棚にきちんと収まっていた。
だというのに見逃していた。
まぁ、視力の関係もあるから、小さな文字を見逃すこともある。
周囲にたくさん本が並んでおり、最近の本は背表紙もわりと派手だったり、凝った造りの本も多いから、どうしたって目が滑ることもある。だからうっかり見落とすなんてこともあるだろう。
だというのに、こういったことがあると決まって当事者は以下のようなことを言う。
「おかしいなぁ。ちゃんと見たはずなのに」
「あれ? さっきはなかったぞ」
「まぎらわしい。ややこしいところに置いておくな!」
「あぁ、それそれ。ありがとう」
「そうか、じゃあソレを」
照れ隠しで誤魔化すのは、まだかわいげがある。
でもむすっとしかめっ面にて、横柄な態度はどうかとおもう。ましてや、素直にありがとうと、礼のひとつも言えない人もけっこう多い。
対する司書や図書館の人は大人な対応だ。
「いえいえ、お気になさらずに」
「ちょっと隅の方にあったからしかたがありませんよ」
「見つかってよかったです」
にこにこ応対し、上手にその場を収める。
でも笑顔の裏ではいかばかりの怒りを抱えていることであろうか。
週末のこと。
図書館にやってきたミヨちゃんとヒニクちゃんが、例の現場に遭遇する。
それを目にして「またか」とミヨちゃんが嘆息。
「たまにいるよね、ああいう人。やたらといばって感じが悪いの。ああいうのって自分では気づかないものなのかしらん」
首をかしげるミヨちゃん。幼女の目から見てもふしぎな生き物なのである。
「うわっ、『オレを誰だと思っている』とかリアルで言う人っているんだ。ひくわー。あれはないわー。そんなに文句があるのなら来なければいいのに」
自分の失敗を棚にあげて、司書の人に当たり散らしていたのは壮年の恰幅のいい男性。
興奮するあまり声も大きくなり、図書館中から非難の目が向けられているというのに、それでもおかまいなし。
かとおもえば、とことこ絵本片手に近づく小さな女の子がいた。
何をするのかとおもえば、うるさい男性のスネをこつんと蹴飛ばし、「としょかんではおしずかに」と言った。
これには男の人も絶句。
周囲からは自然と拍手がおこって、男の人は真っ赤になって退散してゆく。
勇気ある行動に「すごい、すごいよ、あの子」と惜しみない賛辞を贈るミヨちゃん。
だが女の子が真にすごかったのはこの後。
人差し指を口にあてて、「しーっ」とやってみせたのである。
みんなはあわてて拍手をやめて、口をつぐんだ。
一連の出来事を見ていたヒニクちゃんがここで小さくつぶやく。
「子どもの目こそが最強の審眼」
子どもに対して胸が張れるのか?
自分のしていることを我が子に誇れるのか?
この辺が何げにボーダーラインのような気がするの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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