ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

903 なつく

　
　イヌはしつけたら言いつけをよく守る。
　その忠実さが健気で泣けてくるという飼い主は多い。

　ネコはその点がなかなかむずかしい。
　でもちゃんと説明すると、案外、素直に言うことを聞いてくれるという。
　人の言葉をどこまで理解しているのかわからないけど、それなりに誠意が通じるみたいだと、感じている飼い主は多いとのこと。

　ハムスターはよくわからない。
　飼い主の手の平にはちっとも乗らないくせに、赤の他人の手の平にはひょこひょこ自ら乗ったりする子もいれば、触れられることを極端に嫌う子もいるそうな。何を基準になつくのかがとにかくわからない。かといってムリに接しようとすると、けっこくマジで噛まれるんだとか。これが地味に痛いそうである。

　トリは案外頭がよくけっこうなつく。
　かと思って油断していたら、あっさり脱走する。
　なにせ大空を羽ばたけるツバサがあるもので。
　大きなオウムとかならば逃げ出しても、自主的に戻ってくることもあるけど、インコとかだと五分五分なんだとか。なにせ派手な羽色が仇となり目立つから、カラスとかの餌食に遭いやすい。空には空の縄張りがありルールがある。ゆえに、だいたいがボコボコにされてしまう。

　カメはよくわからない生き物だ。
　鈍重そうに見えて、あれでけっこう活動的な面もある。
　どうやって逃げ出したの？　という場所から姿を消すことも稀にある。
　そんでもって散々に探しても見つからない。
　あの重い体とのろい足で、どこへ行ったものやら、ちっとも行方がつかめないまま、幾星霜。
　うん十年後に、自宅から通りを挟んだ向かい側の繁みにて発見されたなんていうウソみたいな話もあったりもする。どうして消えた個体だと判別できたのかというと、甲羅にペンキで印をつけていたんだとか。
　そんなことをするからイヤで逃げ出したのではなかろうか。
　と思わなくもないが、とにかくそんな逸話を持つカメという生き物。

　イグアナとかヘビなどの場合は、いなくなってもわりと近くに潜り込んでいたりする。
　もともとそんなに活動的な方じゃない。
　逃げ出したのも、ちょっとしたはずみやら不運が重なってのこと。
　隙間があれば「ちょいと」といった感じで、血がうずくみたい。
　ただ狭い所に入り込んだり、木陰に隠れるものだから、いざ探すとなるとこれがたいへん！
　都会は案外自然が多く、また死角も多い。
　動物が本気になって隠れようとすれば、物陰はいくらでもあるのだ。

　……とまぁ、ペットの逃走といってもいろいろある。
　ではミヨちゃんとヒニクちゃんが、どうしてそんなことを話しているのかというと、いつものごとく仲良く下校していたら、電信柱に貼られている「ペットさがしてます」のチラシを見つけたから。
　ただし対象はクワガタだった。
　なんでも外国産の高いヤツらしい。
　その証拠に、謝礼としてけっこうな額が提示されてあったから。

「……っていうか前々から疑問だったんだけど、ムシって懐くの？」

　ミヨちゃんが首を傾げたひょうしに、くせっ毛の端がピロロンとはねた。
　それを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開く。

「解釈の問題」

　懐くという定義をどう捉えるか。
　タマゴや幼虫の頃から育てていると、蝶は人間を危険視しなくなり、
　平然と寄ってくるんだとか。ただ慕うというのとはちがうみたい。
　イヌやネコとて、これとどれくらい差があるのか、ないのか。
　まぁ、知らぬが仏という言葉もあるし、ねえ。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。