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899 きのせい

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 直線の通りに出たときのこと。
 道幅は車一台分ぐらいの地域の生活路。ここを利用しているのはもっぱら地元の人間ばかり。
 まずは左右を安全確認。
 すると、左奥から向かってくる自転車の姿があった。
 距離的にまだ余裕があったので、先に通りへと出てから、後方から来るであろう自転車の邪魔にならないようにと、端に寄って歩く。
 やがて自転車をこぐ「キャラキャラ」という独特の金属音が近づいてきて、「チリン」とベルの音も鳴った。
 だから端っこを歩きつつ、背後から追い抜かれるのを待っていたのだけれども、いつまでたっても横を通り過ぎない。
 もしかして自分では避けているつもりでも、邪魔になっているのだろうか?
 自転車に乗っているのがお年寄りとかだと、ハンドルがぐらぐらしているから、誰かの脇を通り抜けるのをためらっているのかも。
 気を利かしたミヨちゃんは立ち止まった。しっかりと端へと寄って、道を譲ろうとしたんだけど……。

「うしろをむいたら誰もいなかったの。たしかにすぐそばまで自転車が来ていたはずなのに」

 その道はミヨちゃんが通ってきた場所以外には、横道がない。
 だから道からそれようがない。
 ならば何か用事を思い出して逆走したのかというと、遠ざかる自転車の姿もなし。
 なんとも奇妙な話ではあるが、ミヨちゃんは自分がぼんやりしていてかんちがいをしたのかもと、その時はとくに気にもしなかった。

 ある日のことだ。
 神社の境内にて友だちとかくれんぼをしていたときのこと。
 かくれる場所を探してうろうろしていたミヨちゃん。
 拝殿の方へと向かうと、向こうから白いレースの日傘をさした和服姿の女性が歩いてくるのと行きあった。
 楚々としたたたずまいにて、黒塗の下駄がコツンコツンと品のいい音を立てている。
 あいにくと逆光にて顔は見えなかったけれども、その女性がペコリと会釈をしたもので、ミヨちゃんも通り過ぎがてら軽く会釈をする。
 はて? 見覚えのない人だけど、ひょっとしたらおばあちゃんの知り合いかも。
 と考えたミヨちゃん。だったら失礼かもと思い直して足を止めて、改めてちゃんと挨拶をしようと振り返るも、そこにはもう誰もいなかった。
 首をかしげるミヨちゃん。その耳にかすかに聞こえてきたのは、遠ざかる下駄の音。
 でもそれもすぐに聞こえなくなってしまった。

「あの時はさすがにぞーっとしちゃった。だって音はするのに姿がまるで見えないんだもの」

 などという怪奇譚をケラケラと笑いながら話すミヨちゃん。
 いつものごとくヒニクちゃんとの下校時のことである。
 霊感うんぬんではなく、人間、ふつうに日常生活を送っていたら、ときおり奇妙な出来事のひとつやふたつは経験するもの。
 これを受けておもむろにヒニクちゃんがコクコクうなづく。 

「あるある」

 シャンプーをしていたら背後が気になったり。
 階段の上の方に何かが潜んでいそうな気がしたり。
 エレベーターの扉が閉まる直前になぜか緊張したり。
 それでも一番おどろくのは、Gを見つけたときだけど。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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