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897 はかせ

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 愛読書は昆虫図鑑。
 昆虫がモチーフとなるゲームやらアニメも大好き。
 好きがこうじて、いつの間にかとっても詳しくなって、誰が呼んだが「昆虫博士」とのあだ名がついた男の子がいる。
 彼の描く昆虫の絵は、精緻にて、なかなかのもの。

 父親の車好きの影響か、気づいたときには周囲には車のおもちゃばかりがあった。
 家にあるマンガやらゲームも車に関するものばかり。
 それらに接するうちに、自身もすっかり車好きとなり、いつしか大人ばりの知識を身につけていた。それゆえに親や祖父母などからは「車博士」と呼ばれるようになっていた男の子がいる。

 小さい頃に両親に連れて行ってもらった博物館。
 そこで催されていた恐竜展にすっかり魅了されて、以来、ぞっこん。
 他の子たちが「やれ戦隊ヒーロー」だの「やれ合体ロボット」などに夢中になっているのを横目に、欲しがるものは恐竜の本にグッズばかり。
 やがて図鑑の中身をそらんじられるほどにまでなり、自他ともに認める「恐竜博士」となった。将来の夢はもちろん、恐竜の研究家。

 両親ともにファッション業界に身を置き、姉もまた読者モデルとして活躍中。
 なので幼い頃から、その手の資料やら関係者にかこまれて育った女の子は、当然のごとくおしゃれに興味を持ち、家族もおどろくぐらいにグングンと知識を吸収。そればかりか貪欲に、ひたむきに、邁進し続けていたら、いつしか周囲から「オシャレ番長」と呼ばれるようになっていた。
 この流れからして「そこはオシャレ博士じゃないの?」とのご意見もあろうが、なぜだか番長が定着している。
 ただしこの呼び方を当人はあまりよろこんではいない。
 当人的には「なんかダサい」とのこと。
 けれども当人のそんな気持ちとは裏腹に、女子たちからの圧倒的な支持のもとで、その呼び名は深く浸透している。

 ……と、まぁ、このように何かに特化した知識なり技術なりを持つがゆえに、「○○博士」と呼ばれることがある。
 当人たちは「そんなことないよぉ」と謙遜半分、照れ半分、自負心もほんのちょっぴり。
 でもって、そんな彼らに羨望を向ける者たちもいる。

「自分も博士って呼ばれてみたい」

 しかしそんなもの、一朝一夕にてなれるものではない。
 しっかりと積み上げた土壌があったればこそ。熱意や情熱に膨大な時間も必要。
 が、なりたいものはなりたい。
 で、思いつきで手を出した結果、量産されたのが……。

「なんちゃら博士が増えたよねえ」

 教室のありさまを見て、やれやれと肩をすくめて首をふったのはミヨちゃん。
 即席、付け焼刃、浅学、知ったかぶり。
 ぺらっぺらの紙装甲をまとった自称博士が横行し、教室内はなかなかカオスな状況。
 たずねてもいないことや、興味のないことを、一方的にべらべら話されるのは、けっこうな苦痛である。
 ミヨちゃんの嘆きを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「博士、マニア、フリーク、研究家……、近頃ではソムリエとかもあるか」

 持つべきものは同好の士。でもいっとうモメるのもまた、
 同好の士。なにせお互いに好きとこだわりが強いから。
 マニアはマニアであるがゆえに、人付き合いに少し難あり?
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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